第13話特別待遇

 その後、筆記試験が終わり、諸々の諸手続きや学園生活の心得などを聞かされ――その全てが終わったときには夕方になっていた。


 パン食には慣れておけ、と言われ、軍では散々パンを食わされたものだが、やはり米がなければ物足りない。


 広い広い寝床に寝転がり、なんだか物足りない腹を擦っていると、本来ならば四人部屋であるはずの部屋が堪らなく広く感じてきた。




 寮の管理者は特別待遇だなどと嘯いていたが、アレは完全なる嘘の顔だった。


 要するに、黄色人種――劣ったイエローとひとつ屋根の下で共同生活をすることを、ほとんどの学生が拒否した結果だろう。


 全く、小生にとっては肌の色などどうでもよく、ただ只管ひたすらに剣の腕を高めていたいものなのだが。




「師よ、思ったよりこの学園での前途は多難らしいぞ」




 小生はひとりごちた。


 無論、部屋の中には小生の他に誰もいない。


 だが、この頭の中には、小生の他にもう一人分――おぼろげな記憶がある。


 それは小生の頭の中――小生が蜂須賀九曜ではなかった時の、何者かの記憶だった。




「師よ、あなたは確かめたいと言っていたな。あのマリヤなる娘がその後どうなったのか――」




 小生は豪華な装飾が施された天井を見上げて、大八洲語でぼやいた。




「彼女はあなたの弟子だ。ということは私の兄弟子、否、姉弟子か。彼女も大八洲に来たときはこのような気分であったのだろうか――」




 そう、今日一日での莫大な気疲れは、単に異国の文化に慣れていないからだけではない。


 同窓となるべき学友たちの、小生に対するあの眼差し――あの眼差しには、多かれ少なかれ、小生個人にではない、小生が属した集団への、侮蔑と忌避の視線があった。


 やれやれ、まさか剣術の腕ではなく、肌の色でつまずくことになろうとは――小生は少し暗澹とした気分になった後――ぐっ、と拳を握り締めた。




「いいや、こんなことでへこたれては、サムライの名が廃るな」




 そうだ、なにを弱気になっているのだ、自分は。


 これから【剣聖】となり、名実ともに大八洲を列強国の一員とし、多くの友を得る――その夢を語ったからこそ、小生の中の師も小生に協力してくれているのだ。




「見ておれ同窓たちよ、必ずや小生の事を認めさせてみせよう。肌の色でも出身の国でもない、実力という分野においてだって小生は西洋人には負けはせぬ。互いに刃を交えれば、きっと、きっと小生だって多くの友を――!」

「クヨウ、いる?」




 と、そのとき、部屋のドアを叩かれ、小生は体を起こした。


 この声は――エステラの声だ。


 小生は刀を取り上げて扉を開けた。




「エステラ、女子が男子寮を訪問するのは規則違反なのでは――」




 そう言っても、エステラは答えない。


 なんだか思い詰めた表情で小生の顔を見上げるばかりで無言だった。



 

 なんだ、何をしに来た? 小生が不審に思った時、パッと手首を掴まれ、小生は有無を言わさず部屋から引きずり出された。




「うわっ!? え、エステラ、何を――!?」

「いいから来て、時間がない! 私がここに来た理由は歩きながら説明するから!」




 切羽詰まった声でそう言われて、小生は口を閉じた。


 二、三歩、たたらを踏んでから足早に歩き始めても、しばらくエステラは無言のままだった。






「面白かった」

「続きが気になる」

「いや面白いと思うよコレ」


そう思っていただけましたら、

何卒下の方の『★』でご供養ください。


よろしくお願いいたします。



【VS】

もしよければこちらの連載作品もよろしく。ラブコメです。


『魔族に優しいギャル聖女 ~聖女として異世界召喚された白ギャルJK、ちょっと魔王である俺にも優しすぎると思うんです~』

https://kakuyomu.jp/works/16818093073583844433

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