第9話特別親善試合②
イワンとかいう巨漢は、今の言葉を聞いても特段驚いた様子はなかった。
それどころかむしろ、一層小生を見下したような視線で嗤った。
「ほう……特別推薦枠の生徒ってのは随分と生っ白いもんだな。しかも史上初、適性検査で魔力ゼロのド無能と来た。大八州はお前みたいな無能を送り込むためにこの学園にいくら払ったんだ? 教授どもにゲイシャでも抱かせたか?」
「おお、ゲイシャを知っておるとは嬉しいこと。だが生憎、小生はいまだ芸者をあげて宴会できるほどの大身ではござらぬ故」
「はっ、流石イエローはよく口が回るらしいや」
イワンはそう言って、小生を「イエロー」と面罵した。
最近の列強国は我々のような辺境の人間を、肌の色から「イエロー」と呼び蔑むのだとは事前に聞いていたが、その差別意識はここまで露骨なものか。
小生が怒るとか憤るとかするよりも呆れていると、その反応をどう受け取ったのか、イワンが再び口を開いた。
「本来ならお前らみたいな
「ふん、空の桶ほど蹴飛ばせば大きな音を立てて転がるものであろうな」
「何――?」
流石にここまで言われたら、皮肉のひとつも返してよかろう。
小生も遠慮なく応じた。
「確かに小生の祖国は小国だが、それは我らの試合には何ら影響のないこと。貴公の生まれし国が世界に名だたる大国であるのは理解しているつもりだが、果たして貴公はこの試合でその祖国の面子を潰さずにいれるかな?」
小生の挑発に、イワンの顔が赤黒く変色した。
どうにも、自信が「イエロー」と呼んで蔑む分にはいいが、逆にその「イエロー」に罵倒されるのは著しく面子が傷つくものらしい。
実際、今の小生の挑発を聞いていた学生たちからはイワンをせせら笑う声が上がり、イワンの顔が歪んだ。
「ケッ、魔力ゼロのイエローが吹くじゃねぇか。今の一言、後で死ぬほど後悔させてやるよ。それと、こいつは冥土の土産だ、もうひとつ言っておくぞ」
「何か」
「お前、さっきから随分とあの女と親しくしてるようだな?」
「女――エステラのことか?」
「名前なんざよく覚えちゃいねぇよ。いいか、あの女に懸想でもしてんなら無駄だ。あいつの今後の人生はもう決まってるんだぜ?」
「何――?」
イワンは残虐な嘲笑を顔に浮かべた。
「なにせ、アイツはゆくゆくは俺のガキを孕む女なんだからな」
周囲にも聞こえるようにそう宣言したイワンは、そこでエステラに視線を向けた。
そんな下品な言葉と、周囲の学生の驚きの視線をまともに受けたエステラは、ぐっ、と、唇を噛んで視線をやり過ごそうとする。
その噛み締めた唇から血が滲んでいるのを見て――成る程、と小生は頷いた。
「成る程――委細は皆目分からぬが、貴公が途轍もなく穢らわしい男であることはわかった」
小生はイワンを睨みつけた。
「貴公には今、彼女に与えた辱め以上の恥辱をここで受けてもらう――貴公が言うイエローに這いつくばって負けを認めればそれなりの恥辱になるか?」
「けっ、それができるならな。――おい試験官、勝敗条件はどんなだ?」
「はっ? は、はい! 勝敗条件はふたつ、ひとつは一方が戦闘不能と判断された場合、もうひとつは、一方が相手に対して負けを認めた場合です!」
「そうか、なら早めに口を塞いで、死ぬ一歩手前まで折檻してもいいってこったな? 始めようぜ」
イワンはそう言いながら、腰に帯びた剣をズルリと引き抜いて構えた。
宝飾品に飾られた見事な大剣であるが、問題はそれを持つイワンの方だ。
小生はイワンの足元を見て、その足が両方ともつま先立ちであることを確認し――構えを解いた。
「ふむ――」
「あん? なんだお前、さっさと構えろよ。試合は始まってんだぞ」
「これはいかん、あまりに予想以下だ。これでは殺してしまうな」
「は――?」
小生は身体を開いてイワンに言った。
「やめだ。貴公とはまともに試合う価値もない――よいか。小生はここから一歩も動かぬ。好きに打ち込んでこい」
◆
「面白かった」
「続きが気になる」
「いや面白いと思うよコレ」
そう思っていただけましたら、
何卒下の方の『★』でご供養ください。
よろしくお願いいたします。
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