第16話 母子の為のシェアハウス
邸に帰ってから私は忙しかった。
王宮へ手紙を書いた。
◇
『私は王宮で事務官をしておりました。第二王女のステラ様と奥様は、王都学園で同窓ではありませんでしたか?』
コンタンは私がまだ王都で学園に通っていた頃の事を知っていた。
当時、彼は王女殿下の担当事務官をしていた事があったらしい。
『ええ、そう。私はステラ王女と同級生で友人だったわ』
親友と言っても過言ではなかったが、私は身分の差が気になって公には付き合えなかった。
王女がお忍びで王都に遊びに行くときなど、こっそり待ち合わせて一緒にカフェなどでお茶をした。
ショッピングやお祭りなんかも楽しんだ。
王女は王位継承者としての役割を持ち、将来的には王位に就く可能性がある。 そのため、王女は王族としての特権や責任を持つことになる。
勿論王家には第一王子、第二、第三王子までいる。ステラ様の王位継承順位は低いけどでも王族の特権がある。
ステラ王女殿下はあまり気にしていなかったが、伯爵家の娘の私は、周りを気にしていつもびくびくしていた。
結婚式にも呼ぶことはできなかったけど、ステラ様からお祝いのプレゼントと心のこもったお手紙を頂いた。
『ステラ王女様は、広く女性の意見を反映し、能力を生かしながら活動推進する、女性のための基金を立ち上げました。ステラ基金です。自立する女性たちを助ける目的を持っています』
彼は言った。ステラ様に手紙を書き、相談して基金の援助を受け、目的を達成しろと。もちろんそれには、私自身も活動に積極的に参加しなくてはならない。
邸の中でマリリンさんの事を気にしてウジウジ考えているより、自分のお金で自ら事業を起こし自分の目標を達成する。
『もちろんこれは奥様が個人的にされることですので、旦那様の了承は必要ないかと思います。奥様個人の資産管理の為、口座を作られるべきです。私法人、会社名義で作ることをお勧めします』
コンタンはまるで兼ねてから計画していたのではないかと思うくらい、これからやるべきことを書きだしていった。
これは旦那様には知らせない。あくまで私個人で行う事業だ。
とても緊張する。けど、とてもワクワクしてきた。
◇
「今度、戦争で旦那様を無くした未亡人たちの為の慈善パーティーがあるのよ。ドレスを新調しなくてはいけないわ。私の予算は、旦那様が決めた分があるんだけど、そこから費用を出すのは少し気が引けて……」
私はステラ様からの手紙で、事前パーティーに参加する事を勧められた。けれど慈善パーティーと言うものは、貴族の夫人たちが集まる、いわばお茶会。
ある程度見栄えのするドレスを着るのがマナーだ。
貧しい民を救うというのは建前で、自分たちのドレスや宝石を自慢する為の会だ。
それでも、お金は動く。
寄付をする事が高位貴族の中では美徳だという概念がある。それが偽善であろうがなかろうがこちらとしては有り難い。
ステラ様から、パーティーで私の計画を話すように言われた。「主人のいない母子の為のシェアハウスを建てる」と公言しろという事だ。
夫がいない女性の仕事は限られている。悲しい事に、自分の体を使いお金を稼ぐしかない者もいる。そうならないために、まず彼女たちに仕事を与える。
彼女たちを仕事ができる状態にすることが先決だ。
そうすれば我が子を手放したり、生活が苦しくて捨てられてしまう子供たちも減るだろう。
ステラは言った『孤児院に寄付をする事も必要だが、元になる原因を断つことが最も重要だとアピールし、貴族から高額な寄付を集めろ』と。
今回参加するのは、戦いに勝利した国の貴族夫人たちだ。
今、彼女たちの懐は潤っているはずだ。
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