第15話 慈善事業の計画

レストランのオーナーであるマルクが私の事を知っていた。

当時は食材が手に入らず苦労していたが、備蓄の野菜を利用した料理で何とか営業する事ができたと言っている。備蓄野菜が町の民を救ったことは記憶に新しい。

彼は私たちを、通りが見渡せる二階の個室に案内してくれた。


「うわっ、どこがどれだけ賑わってるか、ここから見渡せますね。凄くいい席です!さすが奥様、顔が広い」


良い席に案内されたことに喜び、ガブリエルが調子よく声をあげる。


ガブリエルは明るい性格でノリも良く、女性に人気がある。見た目も華やかで、体つきも背が高く男らしい。

一緒に歩いていると、すれ違う若い娘たちが彼を見て振り返る。


コンタンは店の主人に、部屋を数時間借りるがいいかと尋ねていた。

コンタンはメガネをかけていて、前髪が顔にかかり、一見、野暮ったく感じる。

けれどよく見ると顔のつくりは整っていて、とてもハンサムだ。

色白でスマートだけど、一応護衛として付き添う事もあるので、剣術の稽古は欠かせないと言っていた。


「久しぶりに外食するわ。たまにはいいわね」


「奥様は働きすぎです。バーナード様は隊では隊長としてしっかり仕事してました。けれど邸の執務関係とか事務は奥様に任せっぱなしですね」


バーナードの愚痴はもう散々聞いて、お腹いっぱいだわ。そう思ったが口に出すわけにはいかず、ガブリエルに苦笑いで答え、メニューを開いた。


「奥様は女性たちの働ける場を作り、子育てしながらでも仕事ができ、生活ができるような基盤を作りたいんですよね」


注文を終えるとコンタンが話し始めた。


「ええ。赤ん坊がいると仕事ができない。けれど男性は子育てしなくていいからずっと働ける。そもそも、自分達の子供なのに、なぜ女性だけがそういう状態にさせられるのかしら」


「そりゃ、子供抱えて仕事なんて、大変だし。女より男のほうが稼げますからね」


「現実はそうよね……残念だけど、夫がいなければ生活できないなんて辛いわよね。力仕事とかは無理かもしれないけど、頭を使う仕事だったり、細かい手作業だったりは女性の方が得意よ」


「え、それって女の方が頭がいいって言ってるんですか?」


ガブリエルが驚いて目を丸くする。


「そうでしょう?」


私はさも当たり前のように言う。


「ええーー!そうだったんですか?」


ガブリエルがまたも驚く。


「まぁ、その辺は置いておいて。確かに女性は不利です。どう考えてもこの世は男社会ですしね。けれど、王都では今、女性の社会進出が目覚ましい。なぜなら戦争で男がいなかった間に、女性だけで生活をした実績がある。自分たちにもできるんだという自信を付けた職業婦人たちが、次々と出てきて起業しています」


冷静にコンタンが話しを元に戻した。


「そうなのね!」


今、王都ではそんな事が起きているんだ。

私は知らなかった。最近王都へは行っていない。


「ええ。ですから、夫に生活の面倒を見てもらわなければ、生きていけないという考えは古い」


「まぁ、素敵だわ!」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんなぁ、男の立場がないじゃないですか」


ガブリエルの言葉に三人で笑い合った。



「まず、何をするにも先立つものが必要です」


「金があったら、女性専用のアパートみたいなものを建てて、そこに託児所も作って。なんなら仕事もそこでできるんだったらいいんじゃないですかね。住まいも確保できて子供も預けられて働ける」


「そうね。先ずはお金よね。この事業は旦那様にお願いして予算を用意してもらうしかなさそうね」


バーナードは女性が働くことに賛成しないだろう。

それはマリリンさんの扱いを見ていてもわかる。弱い立場の女性を守るのが男性だと思っている節がある。

領地の執務に関しても、実際私がやっているにもかかわらず、全て邸の執事がしていると思っている。


女にできると思っていないのだ。彼からお金を引き出すのは苦労するだろう。


「慈善事業だといえば、少しは用意できると思うけど」


コンタンはそれは違うと首を振った。


「奥様。旦那様のお金を使うのではなく。奥様のお金を使いましょう」


「え?どういう事?私そんな大金は持っていないわよ」


「今から稼げばいいんです。予算はご自分で用意して下さい」


「そんなのどうやって……無理よ。私には何もないわ」


「できます。今まで領地経営なさっていたのは誰ですか?」


コンタンはニヤリと笑った。

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