第14話 女性の為に
今日は戦後処理関係の仕事で、旦那様は一日執務室に籠るらしい。
屋敷の中にいると旦那様の元へマリリンさんの担当メイドがやって来た。大切な話があると言う。
旦那様がマリリンさんと一緒にいるところを見たくはなかった。屋敷にいると、どうしても彼女たちの動向が気になるので、朝から領地の視察に向かうことにする。
今日はガブリエルとコンタンに頼んで市場へやってきた。
領地の女性たちがどういう仕事をしているか知りたいと言うと、彼らは女性が働いている場所へ案内してくれた。
「戦争中の二年の間は、領民たちも男手が少なく、残された女性や子供と老人たちで、畑や店を切り盛りしなくてはならなかったでしょう」
コンタンが活気づく市場を見ながら働く女性たちを見ていた。
「市場はこんなに賑わっていなかったわね。冬場の食料危機に備え、日持ちする、かぼちゃ、じゃがいも、玉ねぎ、ニンニクの栽培に力を入れた。畑仕事をみんなでやったわ」
自ら鍬を持ち畑を耕した。領民が飢えないように領主の妻として尽力を尽くした。
二年間必死に働いたおかげで、ソフィアに対する領民たちの信頼は大きいものとなっていた。
赤ちゃんを長い布で体に巻き付けるように抱っこしながら、市場で店番をしている女性に話しかけた。
「可愛らしい 赤ちゃんですね。今何カ月ですか?」
「二カ月よ、まだ首が据わってないのよ」
彼女は嬉しそうに子供をあやしながら、果物を並べていた。
「出産したばかりで大変ですね」
「店番だから、座ってるだけだし。店の片付けは、旦那が手伝いに来てくれるからね」
隣で同じように店番している奥さんが話に入ってくる。
「ナージャのとこの旦那は優しいわね。うちなんか全部私一人でやってたわ。重い荷物も運んでたわ」
「まぁ、働きゃなきゃ食べていけないんだから仕方ないわね」
わはは、と笑いながら話の輪ができた。みんな楽しそうだった。
「小さな子供がいて、働きに出られないという女性も多いですよね。そういう人たちはどうしているのでしょうか?」
「そりゃ、あんた。年寄りに見てもらうか、まとめて誰かが見るんだよ。持ちつ持たれつってことだ」
『まとめて……』
お金持ちしか乳母は雇えないと思っていた。子守もお金持ちの人だけしか雇えない?
違うわ、そうじゃない。
例えば、十人まとめて一人の大人が見るとしたら、九人の母親たちが働きに行ける。
誰もが働いて、お金を稼いでそのお金で食べ物を買う。働ける環境さえ整えば、父親がいなくても、母親だけでも子供を育てながら生きていけるんじゃないか。うまく回せばみんな同じように生きていける。
勿論ある程度は助けなければいけないけど、代わりに、貴重な若い労働力を手に入れることができるはずだ。
農地でも女性は働いている。
産後一週間で、もう畑に出ているという女性もいた。
自分は子供を産んだことがないので、女性はどれくらいの期間で働けるようになるのか気になっていた。
マリリンさんが邸に来て三カ月、アーロン君は六カ月になる頃だ。
マリリンさんも働くことができるのではないかと感じた。
ガブリエルとコンタンの二人とはずっと私と一緒に執務をこなしている。
彼らは私がどういう風に仕事をしているかよく分かっている。
そして彼らは旦那様が連れてきたマリリンさんのこともちゃんと理解していた。
バーナードがマリリンさんを大切にしているのも、そしてそれを良く思っていない私がいることも。
「コンタン、予算を組んで託児所を作れないかしら」
コンタンは頷いた。
「できると思います」
けれどガブリエルがすぐに反論する。
「けど、働く場所ありきで作らないと意味がないですよ……ソフィア様は旦那がいない子持ちの女性のための施設をって考えてらっしゃいますけど。そういう人は、そもそも住む場所から必要ですからね」
彼が意見はもっともだ。彼女たちは、住む場所ですら苦労している現状があるだろう。
仕事にありつけたとしても、母乳で育てている人なら、数時間おきに授乳の必要がある。それに子供はすぐ病気になるから、仕事を急に休まなくてはならない場合もあるだろう。
そういう人を雇いたいと思う職場はないに等しい。
「じゃあ、そういう人たちは、今はどうやって生活しているのかしら?」
「修道院で面倒を見てもらってます」
コンタンが答える。
「孤児院で働くとかですかね。そうすれば働きながら子供も見られますしね」
ガブリエルがそう言いながら教会の方に顎をしゃくった。
マリリンさんに孤児院や修道院へ行けというのか。
私はどれだけ鬼嫁なんだ。
悪魔だと言われそうだわ……
私が自分の考えに頭を抱えていると。
「奥様、場所を変えて少し計画を練ってみましょう」
コンタンが私の顔を見て提案してきた。
「お、いいですね!最近町で一番賑わってる通りがあるんです。そこに新しいレストランができてるみたいだし。視察がてら行きましょう」
ガブリエルは調子よくそう言った。
ちょうどお昼の時間だし、たまには外食もいいわねと、私たちは三人で新しいレストランへと向かった。
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