第10話 ギャルの主観
柚葉は俺の肩から手を離し、ジッと見つめてくる。
「な……なんだよ?」
柚葉の険しい表情。
人工的なライトゴールドの髪が陽光に反射して煌めいた。
柚葉に限って「なんか二階堂さんって良い人じゃない気がする」なんて言うのだろうか。……いやいや、柚葉はそんなに性格悪くない。
そう考えていると、柚葉は一気に好奇心を秘めた笑みになった。
「うっわ、てか待って、気付いちゃった。もしかして、二階堂サンがイイ感じになった幼馴染ってこと?」
「…………チガウ」
「なんだ、どーいう関係か質問しにきたのに完全に野暮だった訳か……!」
「話聞いて!?」
俺の返事に、柚葉はニヤリと口角を上げる。
「アハハ、反応でバレバレだって。てか吉木知らないんだ、異性の幼馴染が転校してくるってそんだけで恋愛始まるきっかけなんだよ? こーやって周りにバレていくのはむしろラッキーイベントだって、よかったじゃん!」
「そうなのか……? 俺、アニメとか漫画でしかそういうの見たことないんだけど」
「私もそーだけど?」
「それでよくそう思えたな!? 現実はそんな甘くねえよ!」
俺が盛大にツッコむのを横目に、柚葉はタケルが座っていた席に腰を下ろす。
そして先ほどとは一転し、真剣な面持ちで口を開いた。このギャル、一体どういう情緒なんだ。
「先月とか、私が沢山喋りかけたせいで変な噂立っちゃったじゃん。あれで吉木と気まずくならないか割と心配だったんだよね」
「その割には今も普通に喋りかけてくるけど……」
「今朝も言ったじゃん、私は楽しさ重視で生きてるんだって。そーいう匂いするところに飛び込んじゃうワケ。てかなんで私が吉木と喋るの我慢しなきないけないのって感じなんですケド」
柚葉はブスッと口を尖らせる。
楽しいこと重視。
これも柚葉がクラスの太陽と呼ばれる所以だろうけど、彼女の興味が自分に向き続けているのは少し緊張してしまう。
自分という存在に中身がないことを、柚葉には見破られたくないのかもしれない。
「でも、だからこそ二階堂さんと幼馴染なんてホッとした。イイ感じになったとかその辺は置いといて、吉木が二階堂さんと沢山話してくれたら、私と喋っても目立たなくなると思うし」
「あー……そこを考えてくれたのか。その節はごめんな。柚葉だってあんな噂嫌だっただろうに」
──柚葉由衣の彼氏って意外に普通。
噂が回って最後の方はそう囁かれ始めていた。
俺から見れば格上げの噂でも、柚葉に対しては格下げのような噂だったに違いない。
「ハ、なに言ってんの? 私は噂くらいなんて事なかったから、吉木がナシっぽかったから否定しておいただけだし」
「う……優しさもそこまでいくと辛いものがあるぞ……」
俺の返事に、柚葉は口元を緩めた。
「マジだけど」
ジッと見つめられた。
透き通るような肌に、長く濡れた睫毛。
「……底なしの優しさだな。さすがクラスの太陽」
「でしょ。私が吉木を照らしてあげるんだから」
「ははは」
柚葉との関係性。
仲が良いというより、特別気にかけてくれているというのが周囲の認識なのかもしれない。
だから、俺も──
「まあ、柚葉が言いたいことは分かったよ。二階堂と恋愛とかは無理だろうけど、昔みたいに喋れるようにはしとく。そしたら柚葉の
柚葉と本当の友達だと周囲に認められるためには、柚葉に追いつく何かが必要になる。
柚葉と喋る姿が嫌に目立ってしまったのは、釣り合いが取れていなかったからだ。
麗美の存在は、そういった局面でも助けになるに違いない。
もちろん、麗美との関係性においてそんな他意は1%未満にしたい。
さっきは勢いで話せたが、今は色々理由づけしないと麗美に話しかける勇気が出ないのだ。
「……もう
柚葉はジトッと目を細めて、ちょっと不機嫌そうに言った。
俺が慌てて「そういう意味じゃなくて!」と掌を合わせると、柚葉はフンッと鼻を鳴らす。
そして気を取り直したように、ニコッと口角を上げた。
「吉木と二階堂さん、恋愛だってノーチャンじゃないと思うよ」
「え。なんで?」
そう訊くと柚葉は、何故か誇らしそうにフフンと笑った。
そして確信があるといった様子で、人差し指をピンと上げる。
──柚葉の表情には懐かしい感覚があった。
小学生の頃に聞いた噂話、あれを教えてくれた奴もこんな表情をしていたっけ。
「昼休みになった時、吉木すぐに教室から出たじゃん? 二階堂さん、ずっと吉木を目で追ってたから」
噂が噂なら、主観も主観。
だけどそんな話を聞くだけで喜びそうになっているのだから、男子の単純さは女子の想定を超えているに違いない。
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