第5話 チンパンジーとネッシーと
「おい、起きろ!おい 何寝てんだよもったいない。これからだぞ」
その声とともに遠のいていた意識が戻った。目の前には太陽の光に照らされいつもより輝いたピアスを身に着けたジョンがいた。
まだ頭がはっきりしない。周りを見渡すと川の土手で僕は横になっていた。
状況が読めない、先ほどまでしゃべるモナの目の前で僕は気絶したはずだった。
「こんな炎天下の中、よく寝れるな。早くしないと肉がなくなるぜ?」
そういってジョンは銀色の缶のビールを僕に手渡す。僕は立ち上がった。
肉の焼けるにおいが僕の鼻を通りすぎる。軽音楽サークルの10人前後の男女が片手に缶ビールを持ちホームセンターで売ってそうな屋外用の折り畳みチェアに座り談笑していた。
おかしい。
一昨日このサークルでバーベキューをしていたはずだ。いくら飲み会好きがあつまったこのサークルでもこんな頻度でバーベキューはしないはずだ。
「おい、ジョン。頭がおかしくなったのか?どれだけバーベキューしたいんだよ。」
「何言ってんだお前。今年初だろ。飲みすぎたんじゃねぇのか?」
「いやいや、おとといもしてただろ。俺が断る連絡をしていかなかっただろ?ほら、俺は一人で動物園へ行ってチンパンジーを見たって言ったじゃないか」
ジョンは笑い出す。
「おいみんな来てみろよ、こいつチンパンジーを見たってよ」
ジョンは下品に顔の表情を崩していた。サークルのみんながこっちへくる
「チンパンジーの目撃情報かいますぐ記者を呼ばねぇとな」
「で、チンパンジーはどちらにいたんですか?目撃した場所と時間を教えてください」
サークルの盛り上げ役のあかりがメモに書き込む真似事をしながら言った。どうやら記者のつもりらしい。
僕は黙った。
「おいおい、ノリが悪いな。こういうのいつも付き合ってくれるじゃねぇか。もういい、肉食うぞ」
残念そうな顔をしてジョンが言ってバーベキューコンロの方へ歩いて行った。
「おい、ちょっと待てよ。チンパンジー見たことが何でそんなおかしいんだよ」
「何言ってんだよ。未確認生物だろ?お前の冗談にしてはつまらんな」
うまく返事を返せなかった。
おかしい。
チンパンジーがあたかもツチノコやネッシーのような扱いをされている。
「おい早くこいよ、お前肉嫌いか?」
ジョンが僕を呼ぶ
僕は頭の整理がつかないままバーベキューコンロに向かった。そこには満遍なく火の通った炭の上に牛肉や豚肉、玉ねぎやピーマンが所せましと並んでいた。
ジョンは僕に焼肉のタレを入れた紙皿に、金網の端の方に余っている、焼けたまま放置された肉を3つ入れて僕に渡した。
「ちょっと肉買いすぎたな、バーベキューでちょうどいい量の肉買えるやつとかおるんかな?おらんよな?」
「そうだね、そんなことよりチンパンジーが未確認生物って」
「おいおい、もうそのジョークはさっきやったろ?そんな何度も言うほど面白くねぇよお前のジョーク」
僕はチンパンジーの話は相手にされないことを悟り焼けた牛肉や豚肉を食べビールとともに流し込んだ。
努力すればチンパンジーになれる星 チャンキチ @tatsu1012
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