第30話「好きなんだよコンチクショー!!」

顔良し、スタイル良し、性格良し……天田向日葵という女性はまさに皆の人気者となるべくして生まれてきた存在であり、彼女自身も当然のようにそれを自覚している。

彼女は自分の可愛さを全世界にアピールする為に中学2年生の頃○ou○uberとしての活動を開始し、現在は60万人ものチャンネル登録者が彼女を応援している。


この先も○ou○uberとして活躍していき、特にトラブル等も無ければテレビへの出演や他の人気○ou○uberとのコラボ等、可能性は無限大のはずだ。

そんな彼女には悩みなどこれっぽっちも無いだろう、そう殆どの人達は思っているのだが……それが1つだけあるのであった。

それは……幼なじみの男子、多島陽彩だけは自分の事を女子として見てくれない事である……。



「こちらにお座りくださーい。」


「はーい。」


「はい!」


その日市民プールに来ていた陽彩と向日葵は、向日葵の好きなウォータースライダーを滑る事を決めた。

それは向日葵のある計画の為であった。


「彼氏さんが後ろで彼女さんが前ですかね?」


「え?そんな彼女だなんて〜えへへ〜……。」


「彼女じゃないです!友達です!」


「……」


自分達の関係をプールの係員に勘違いされ、照れを隠そうとする(隠せてない)向日葵だったが、陽彩は照れる事無くそれを否定する。

これには向日葵は精神的にダメージを受けてしまった。

だがそれはそうと気を取り直し、陽彩が先に座り彼の股の間に向日葵が座る。


(ふふふ……この私とこんなに急接近できるチャンスなんて滅多に無いのよ!これなら私の事女の子として意識するでしょ!)


「いやー楽しみだな!向日葵昔からこれ好きだっただろ?」


「あ……うん……そうだね……。」


(全く動揺してない!?こうなったらもっと身体を急接近させて__)


またもや自分の事を意識してる素振りを全く見せない陽彩に対してヤキモキする向日葵だったが、めげずに身体をもっと近づけさせて意識させようとするも……。


「ではいきますよー!行ってらっしゃーい!」


「はーい!」


そんな彼女の事など気にせず係員が陽彩の背中を押し、陽彩は元気な声を上げながら向日葵と共にウォータースライダーを勢いよく滑り降りていく。


「ひゃっほー!!」


「……。」


今年もいよいよプール開きという事で、思いっきりプールを楽しむ陽彩に対して全く自分の計画が上手くいかない向日葵は死んだ魚のような目でウォータースライダーを滑り降りていく。

そして下のプールに着水した陽彩と向日葵。


「っはー!楽しかったな向日葵!」


「……うん、そうだね!」


「もう1回やるか!?」


「次はあっちの流れるプールに行きたいな!後輩ちゃん達がさっきあっちに行ったでしょ?あの子達とも遊びたいからさ!」


「おう!行こうぜ!」


もう一度ウォータースライダーを滑るかと聞く陽彩に対して、向日葵は流れるプールで後輩達(エリナ達)と遊びたいと提案し、陽彩はそれに同意する。



「後輩ちゃん達!一緒に遊ぼ!」


「え!?向日葵先輩と一緒に!?もちろん大歓迎デース!!」


「わ、私も混ぜてください……!」


「エルザちゃんとエリナちゃんがそうするなら、私もご同行させてもらうわ〜。」


そうして向日葵はエリナ、エルザ、エルシャナと共に流れるプールを一緒に女子トークをしながら歩いていく(エルザだけはプールで借りた浮き輪に乗って流される)。


一方でエリナらと共にプールに来ていた映太、清司は陽彩と共に歩き鬼ごっこを楽しんでいた。


「うぉ……流れで上手く歩けない……!」


「こっちだぞ映太君!捕まえてみろ!」


「頑張れ映太〜!」


女子サイドも男子サイドも各々プールでの楽しみを満喫し、プールに来てから2時間足らずの時間が経過し、時刻が3時になった頃一同は休憩スペースでプール内のお店で買った飲食物を食べ飲みしながら休憩をする。


「清司ってオタクだからプールとか苦手だと思ったけど、案外楽しんでるのな。」


「う、うん。友達と一緒だからね。」


「私たちと一緒だから楽しいって事デスか!?それはこちらとしても嬉しいデース!!」


「こ、こちらこそありがとう……。」


清司は翔子、エルザと、


「いやー遊んだ遊んだ!プールで遊ぶのは楽しいしコーラフロートは美味いし、エリナちゃんの水着は可愛いし!」


「も、も〜!(照れながら映太をバンバンと叩くエリナ)」


「ご、ごめんよこんな人混みの中で!もう喰魔はいないから良かれと思って……!」


「でも満更でもないみたいねエリナちゃん。」


映太はエリナ、エルシャナと、そして陽彩は向日葵と話をしていたのだが……ここで陽彩は向日葵の心情に気づく。


「向日葵……お前さっきウォータースライダー2週目やらなかったよな?」


「うん……それが何?」


「いや、去年この市民プールに来た時は2週でも3週でも、向日葵が飽きるまでやってたから……。」


「いや、それは……。」


陽彩にいつもとの違いを言い当てられた向日葵は少し動揺し、それがまた陽彩にとっては彼女はいつもと違うのだと感じ取らせた。


「プールを楽しむ直前まではいつもの向日葵だったよな?明るくて元気で……いつもの向日葵だった。」


「へ、へ〜……陽彩にはそんな風に見えるんだ〜。」


「俺でなくともそう見えるはずだぞ?」


「うぐっ」


(こいつ……こういう所には敏感な癖に……ムカつく!でもそこが……昔から変わらないそういう所が好き!!)


そう、今向日葵が考えた通り……向日葵は陽彩の事が好きなのだ。

好きでもない男子を異性として意識させるかどうか等とは考えないだろう。

陽彩にとっての彼女が昔と変わらない「友達」であるのに対して、彼女にとっての陽彩はもう「友達」ではない……。


「どこか調子が悪いのか?それとも精神的な問題で……俺で良ければなんでも言ってくれ!可能な限り解決に取り組むから!俺達友達だろ!?」


「うん……じゃあ1つ言わせて……。」


向日葵を真剣な間刺しで見つめ、友達である自分が向日葵の事ならなんでも解決してみせる……その意志を示す陽彩に対して、彼女は自分の胸中やわ晒す決意をする。


「何だ?」


「私の事……女として意識しなさいよぉーっ!!!!!!」


「…………」


プールの休憩スペースに、向日葵の迫真の言葉が響き渡った。

その場にいた映太達と数人のお客さんが修羅場かと勘違いして静まり返る中……陽彩は向日葵に対して一言……。


「い……意識してるに決まってるだろコンチクショー!!!!!!幼なじみの事異性として意識するのキモくね!?って思ってたから表に出さないようにしてただけだよ!!!!!!」


「すっ……好き!!!!!!」


「もう結婚しろよお前ら。」

……と清司、翔子、他のお客さん達は内心思った。



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