第28話「誰の為の力か」

庵乃丞玖門、高校1年生。

生粋の不良である彼にとっては、喧嘩に明け暮れることが、彼にとっての日常だった。

しかし彼の両親は、ある日彼が隣町の不良グループを壊滅させる程暴れ回った日を境に、彼を恐怖するようになった。


「また喧嘩をしたのか……玖門……!」


「何でそんなことをするの!?私達は貴方に普通の生活を送ってほしいのに!」


「電車の中でタバコを吸っていたのを注意したら襲われたんで、返り討ちにしただけだ。俺がそいつらに大人しく滅多打ちにされる事をお望みだったか?」


「ッ……。」


その日も喧嘩をして帰ってきた玖門を両親は咎め、だが彼も自分の主張を曲げずに拮抗状態になっていたが、両親は兼ねてより決めていた事を玖門に話した。


「お前は今日から家を出ていけ。」


「は?」


「私のお姉さんの子供がね、高校で教師をやっているの。今度貴方の高校に転勤するらしいんだけど……その人に貴方を預かって貰って……貴方を矯正してもらうわ。」


「……。」


両親が自分に言ったその事を玖門が飲み込むには少し時間がかかったが、彼は渋々それを了承した。


「分かった。カスみたいな不良を黙って見過ごすいい子ちゃんがお望みならな……。」


「見過ごしてもいい。下手な正義感で自分を危険に晒すぐらいならな……!」


そうして玖門は両親から親戚の女性に押し付けられ、1週間後には荷物を纏めて迎えに来た女性……龍堂寺獅亜の車に乗せられた。


「いやー、親戚の面倒を任せられることになるとはね!君不良なんだって?しばらく合わない間にそんな風になっちゃったのか!」


「……。」


「電車内で喫煙する不良を〆た。そうだろ?その前は弱い生徒を虐めている不良を〆て、さらに万引き常習犯の不良、ファミレスにケチつけてお金を払わない不良、野良猫を虐める不良……全部聞いてるよ。保健室に来る生徒達からね。君って不良っていうか正義のヒーローみたいなものじゃん?」


「……人の為に振るう暴力は美化されるのか?」


車の中でそう話す2人。

そして獅垢は自分が考えている事を率直に玖門に打ち明ける。


「私は君を矯正したくて君を引き取ったんじゃないよ。むしろ君は今のままでいい。」


「は?」


「君にやって欲しいことがあるから君を引き取ったんだ。」


そう語る獅亜にそのやるべき事は何なのかと玖門は聞き、彼女はそれを答えた。


「それはなんだ?」


「君の高校の不良グループにして、この辺りで最凶最悪の不良グループ……蟹張卍外京師団を潰して欲しいんだ。」


「何故?」


「……私の復讐の為だよ。」


「犯されでもされたか?」


「いや……私じゃなく友達がね、それ当然の事を……心を犯された。だからソイツらが許せない。」


そう語る獅亜の表情は、玖門から見れば物憂げな様子だった。


「俺にやれるだろうか。やれたとして、見返りは?」


「私が君を鍛え上げるよ。どんな不良にも負けないぐらいにね。見返りは……君が望む事ならできるだけやってあげるよ。毎食ステーキとか!高級ブランドのシューズも買ってあげる!あと……例えばほら……玖門ぐらいの年頃の男子が好きな……」


「なんだ?」


何かを言い淀む獅亜に対して何を言ってるのだと聞く玖門だったが、彼女は恥ずかしそうな表情で上擦った声でこう言ってしまう。


「エッチな事とかだよ!言わせるなよもう!」


「……俺は親戚の身体なぞいらん。」


「……そう……じゃあ玖門にお似合いの彼女を見繕って__」


「そういうのをやるのは大人になってからだ。」


「真面目か!」


「不良だ。」


自分一人で恥をかいてしまった獅亜だったが、改めて彼女は玖門にこうお願いする。


「じゃあ……私の復讐を手伝ってくれる……かな?」


「……あぁ。奴らは元々気に入らなかった。学生の身分でできる悪事はとことんやってる奴らだからな。」


「そう……よろしくね。あと一応言っておく……私の事、自分の復讐の為に玖門君を使った悪どい奴だって思ってくれても構わないからね。」


「……あぁ。」


そうして玖門は、復讐の為に自分を利用する獅亜を受け入れ、その日から玖門は獅亜による特訓と、ついでにだらしない生活を送っている彼女の生活のサポートをする日々が始まった。

並の不良よりも幾分も強い獅亜の特訓はとても厳しかったが、玖門はなんとか耐え抜き強く成長した。


そして獅亜は自分が適当にやる家事を代わりにやろうとする玖門につい甘えてしまったり、その代わりに獅亜は見返りとして「学生の玖門には買えないオトナな本を買ってあげようか?」と言うも、それを玖門は拒否したりもして……。


そうして1年の時が流れ、力を手に入れた玖門は2年生の冬、ついに彼はたった一人で蟹張卍外京師団の総長を討ち取り、自分自身がその不良の頂点に立った。


「ぐぇっ……なんで……こんなガキに……3年留年してる俺が……!」


「さっさと卒業しろ。」


「総長がやられた……つまり次の総長は……庵乃丞玖門だ……!!」


「お前ら!!これよりこのグループは解体し、新たなグループを作る!!その名も「真理凸津央會」!!最悪の不良グループは今日でおしまいだ!!」


「う……ウッス!!」


そうして最悪の不良グループが街を闊歩する時代は終わり、玖門がそれから半年もの時間をかけて行った不良達への地道な矯正活動により、真理凸津央會は現在の形へと落ち着いた。



「おばあちゃん!荷物持つっスよ!」


「あら、金髪リーゼントなのに優しいのね!」


「へへっ、困ってる人は助けろっていうのがウチのリーダーの方針っスから!」


彼らは不良でありながらも、その根本には「弱い者に対し徒に力を振るわない」という意識が植え付けられ、かつての蟹張卍外京師団に手を焼いていた街の人々や学校の教師達も彼らへの意識を改めはじめた。


「あのー!」


「……なんだ?」


「ウェルカムバーガーの新作が出たみたいっスよ!一緒に食いにいきませんか?」


その日の放課後、ホームルームに出ず屋上で黄昏ていた玖門の前に仲間たちが現れ、彼をウェルカムバーガーへと誘おうとする。

ウェルカムバーガーの常連である玖門は彼らと共に新作を食べに行く事を決めた。


「あぁ。行こう。」


「やったー!玖門さん来てくれるんスね!仲間たちに言いに行くっス!」


「あぁ。」


玖門の返事を聞いた不良は嬉しそうな表情を浮かべて仲間たちの元へと走っていく。


自分のやり方を矯正されるハズだった玖門は、そのままで良いのだと自分の在り方を認められ、逆に自分自身が最悪の不良達を矯正した。

彼にとっても予想外の方向に着地したこの顛末だが、それも良いかと彼は受け入れた。


これもきっと1つの青春の在り方だろう……。

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