第27話「元不良、龍堂寺獅亜」

真理凸津央會と米駆動模兆兆団の戦いから3日後……。

戦いを勝利へと導いた不良のリーダー、玖門の親戚である獅亜はいつも通りの学校生活を送っていた。


「腫れてるね〜……これ貼っときな!」


「ありがとうございます、龍堂寺先生。」


昼休みに、サッカーボールが顔にぶつかったと言って保健室に来た三条映太に湿布を渡す獅亜。

映太についてきた映太の友人は彼にボールをぶつけてしまった事を謝罪し、彼は気にしていない素振りを見せる。


「悪かった映太!次は気をつけるよ!」


「だいじょーぶ!そんな酷くねぇみたいだから。」


「いやいや、酷くはないけど良くもないよ?今日はゆっくりしてな。保護者呼ぶ?」


「大丈夫っすよ。午後からも授業出られますんで!」


「くれぐれも無理はするなよ?」


獅亜に無理をしないように促された映太は友人と共に保健室を後にし、彼女は椅子に座って一息ついた。


「ふぅ……。」


そしてふと、保健体育の教科書や筆記用具、業務用のパソコンなどが置かれた机の上に置かれた写真が視界に映る。

彼女がこの高校の生徒だった頃の……そして、この学校にかつて存在した凶悪な不良グループ「蟹針卍外京師団」に所属していた頃の写真だ。


写っているのは金髪の獅亜とその頃の友人、双葉麻美(ふたばまみ)の2人だ。

それを見た獅亜はその頃の思い出をふと思い出す。


「……あれから10年、か……。」


そうつぶやく彼女の表情には憂鬱さを感じさせるものがあった。



獅亜が不良グループのメンバーであるのに対して、麻美はいたって普通の真面目な生徒であった。

ケンカはもちろんの事、未成年喫煙に未成年飲酒などの行為を行う獅亜を麻美は気にかけ、危ない事はしないようにとよく彼女を諭そうとしていた。

しかしそれに全く耳を傾けようとしなかった獅亜。


ある日獅亜は姉から借りたバイクに麻美を乗せて遠くの街まで走っていった。

バイクの免許を持っておらず、尚且つ2人乗りをする事をもちろん麻美は咎めようとしたが、それに対して獅亜は……。


「もうやめてよ獅亜ちゃん!いつか警察に捕まっちゃうよ!」


「その時はその時だ。今が楽しけりゃそれでいーんだよ!」


「そんな一時の感情で将来を棒に振るかもしれないんだよ!?」


「うっせーなぁ、とにかく乗れや!」


「嫌だ!私帰る!」


「私たちの事知りもしねぇで、知った気になって説教垂れるのか?」


「……分かるもん、不良は悪い事だって……。」


「じゃあとりあえず乗ってみろ。やってみなきゃ分からねぇ事だってあるだろ?それに捕まるのは私1人だ。お前は絶対に逮捕なんてさせねぇ。」


「……。」


自分達の事を理解して欲しい。

その思いに折れた麻美は渋々獅亜と共にバイクに乗り、遠くの町の海岸沿いを彼女と共に走った。


「ははは!!気持ちいいか!?麻美!!」


「……綺麗……。」


「そうか!!こういうのも悪くねぇだろ!?」


「そ、それとこれとは別問題なの!」


「お堅いねぇ相変わらず!」


視界に広がる広大な海を見て、麻美は綺麗だと呟いた。

それを聞いた獅亜は、この気持ちよさを麻美に分からせた事ができたのだと思い、嬉しそうな表情を浮かべる。

そして、粗大ゴミ置き場の前の休憩できそうな狭い駐車場で獅亜はバイクを止め、獅亜は麻美と自分の為に自販機でジュースを買いに行こうとした。


「お前飲み物何が良い?」


「え?いいよ、自分で買うから……。」


「いいっていいって!私が買ってきてやるよ!」


「……じゃあ、オレンジジュースで。」


「オッケー。ちょっと待ってろ。」


そうして獅亜は麻美から離れ、自販機でジュースを買って彼女の元に戻ってきたのだが……。


「おまたー……あれ……麻美?」


戻ってきた獅亜の前に麻美はいなかった。

そして気になることが1つ……自分のバイクの隣にもう何台かバイクが停められていたのだ。

その内の一つのバイクは獅亜にとっては見覚えのあるものだった。

それは彼女の所属する蟹針卍外京師団の三年生の副総長、全央大輝のバイクだった。


「……まさか!」


獅亜は2つの飲み物を放り投げて近くのゴミ置き場にかけつける。

そこで目にした光景は……全央を中心とした不良達に囲まれている麻美の姿だった。


「!!」


「真面目ちゃんにしては良いバイクに乗ってるじゃねぇかよォ〜?あのバイク俺によこせや!」


「……ダメ……です……。」


「なにィ〜?ダメェ?そんな事言っちゃっていいのかな〜?おい、あれ出せ。」


「ウッス!」


全央は取り巻きから何かが入った袋を貰い、ニヤケ顔を浮かべる。

獅亜は怒りに満ちた表情でその場に割って入る。


「テメェら!!何やってんだ!!」


「獅亜?なんでテメェがここに……。」


「んな事二の次だ。おい麻美……お前、バイクをくれってたかられてたのか?」


「……」


獅亜に問いただされた麻美は静かに俯く。


「私の……獅亜のバイクって言えば助かったんだぞ……?お前、なんで……。」


「なるほど、いい子ちゃんの癖にって思ったが……そういう事だったのかァ……。」


獅亜の言葉を聞いてなおニヤケ顔を変えない全央は結ばれた袋を解き、その中身を麻美の頭にふりかける。


パサッ……


「きゃっ……!!」


「テメェ!!」


全央がかけたのは自分達が吸ったタバコの吸殻だった。

そして彼は獅亜を挑発するようにこう言う。


「タバコの吸殻だぜこれは……この良い子ちゃんはテメェと関わりを持ってしまった……テメェがこの子を巻き込んだんだよ!これは仕上げに「匂い」をつけてやったんだよ……もうこの子が良い子ちゃんに戻れないようにな!俺ら男の汚ぇ唾と煙の匂いをな!ひゃひゃひゃ……! 」


「……ふざけるな、その子はただ私とバイクに乗ってただけだ。それだけで普通の女子に戻れないなんて道理はねぇだろ……!」


頭に血が登った獅亜は戦闘体勢に入り、全央を含む不良達にすぐにでも攻撃を仕掛けるつもりでいた。


「オイオイ〜、俺達仲間だろ?仲間を攻撃するのはご法度だぜ?」


「そうだな……こんな事したら総長が私の事を蟹針卍外京師団から追い出すだろう……それでいい!私は今日限りでテメェらとは……オサラバだぁーッ!!」


そうして獅亜は全央達への攻撃に乗り出し、その場にいた全央含む5人の不良を1人で打ち負かした。

次の日には全央によって獅亜の裏切りが総長に報告され、獅亜は蟹針卍外京師団を追放された。



それが龍堂寺獅亜がこのグループを改革しようと決意したきっかけであり、そして彼女の親戚である庵乃丞玖門によってグループの改革は成された。





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