第25話「不良、庵乃丞玖門」

真理凸津央會……それは蟹針高校の生徒達で結成された不良グループだ。

授業は偶にしか受けず(そんな事をしているから留年する生徒も稀にいる)、皆で集まる場所を決めてそこでジュースやお菓子を食べながらたむろし……時には他校の不良とトラブルを起こすような、学校の教師からすれば手を焼いている生徒達の集まりなのだ。

それが他者から見たこの真理凸津央會なのだが……。


そんな彼らはこの日も階段の踊り場に集まって話し合いをしていた。

このグループのリーダー、庵乃丞玖門を中心に据えて。


「5日後……隣町の桑内高校(くわないこうこう)の不良グループ、米駆動模兆兆団(べいくどもちょちょだん)を潰しにいく。」


「やるのか玖門!」


「ついにこの時が……!」


「一体何があったんですか玖門先輩!まさか仲間が……!」


玖門が決定した事を聞いて気持ちを高ぶらせる不良達。

玖門が潰す事を決定した隣町の不良グループ、米駆動模兆兆団。

玖門はなぜ彼らを潰す事を決意したのか、その理由を玖門は仲間達に話す。


「奴らのリーダー、夜張兆助(やはりちょうすけ)は俺達の街のハンバーガー屋、ウェルカムバーガーで……テリヤキバーガーをマズいと言って床に捨てやがった。」


「何だって!?」


「許せねぇ……この街のソウルフードを……!」


「それは許せませんね……俺はあのお店好きなのに……!」


「あぁ……兆助の野郎共々、奴らには制裁を与えてやろうじゃないか。」


玖門の理由を聞いた一同はさらに気持ちを高ぶらせる。

彼らにとってこの街は自分達の城であり、それを侮辱されるのは何よりも許し難い事なのだ。

彼らは愛するこの街のソウルフードをマズいと言って床に捨てた隣町の不良グループのリーダーに制裁を与えるべく、標的である米駆動模兆兆団に攻撃を仕掛けるのである。

そんな中、1人の不良が玖門にこう言った。


「あのー、玖門先輩……。」


「何だ?」


手を上げたのはメガネをかけた1年生の男子生徒だった。

これを言うと玖門は怒るかもしれないと思いつつも、彼は勇気を出して言葉を発する。


「あのー、5日後は彼女と一緒にホワイト・マジシャンの映画を見に行く予定がありまして……できればそっちを優先したいというか……。」


「あ?映画だぁ?」


「ひっ……やっぱり何でもないです……!」


自分の5日後の予定を言った1年の不良だったが、2年の小太りの不良に威圧され発言を訂正しようとする。

だがそれに対する玖門の答えは……。


「行ってこい。」


「え?」


「お前、この前彼女がホワイト・マジシャン好きなんだって言ってただろ?彼女のためにそっちを優先しろ。」


「玖門先輩……!」


玖門は、1年生の不良が5日後の戦いではなく彼女との映画デートをする事を優先するように言った。

それを聞き彼の寛大さに胸を打たれる1年生の不良。


「良いのか玖門?ケンカの1つや2つさせてやらねぇと強ぇ男にならねぇぜ?」


「……いや、それは俺達が言ってやらなくていい。」


「は?」


2年の小太りの不良の質問に対して、玖門はそれを否定する。

彼は理解していたのだ……1年生の不良が毎日筋トレをしている事を。

玖門には人の努力を見抜く力があった……自分自身が死にものぐるいで力をつけ、不良のリーダーに成り上がった経緯があるからか、そういう事には気づきやすいのである。


「玖門がそう言うなら……一年坊!彼女との映画デート楽しんでこいよ!その間に米駆動模兆兆団は俺達が潰してくるからよ!」


「先輩……ありがとうございます!」


後輩に対して気前の良さを見せる玖門。

しかし、玖門がリーダーになる前の真理凸津央會はこのようなグループではなかった。

気の向くままに他校に乗り込み不良グループにケンカを売り、暴力の限りを尽くし、留年生も今よりずっと多かった……それが1年前、玖門がリーダーになる前までの真理凸津央會だった。


彼がリーダーになった事で体制が代わり、訳もなく他校の不良グループにケンカを売らない事、一般人や一般生徒ら関係ない人達は自分達の都合に巻き込まず迷惑をかけない事、学校の授業や行事には最低限出席する事……これらのルールを彼自身が真理凸津央會に設けたのである。

その影響で、悪名を轟かせた最凶の不良グループは一変したのだ。



玖門は中学生の頃から、いとこの住んでいるマンションの一室に預けられそのいとこと共にそこで暮らしている。

そのいとこは玖門のいる蟹針高校で保険体育の教師をしており、家では家事全般を玖門に押し付けてダラダラした生活を送っている。


「ただいま〜!」


「おかえり。」


玖門が夕食を作り終えた頃に彼女は帰ってきた。

そして彼女は手早くシャワーを済ませてドライヤーもかけず、下着姿で夕食に手をつける。


「おぉ〜、今日は生姜焼きか〜!いただきまーす!」


「服ぐらい着ろ。」


「え〜、めんどくさーい。」


玖門の言いつけを面倒臭いと一蹴するその人物こそが彼の親戚で25歳の女性教師、龍堂寺獅亜(りゅうどうじしあ)だ。

彼女こそが玖門を最強の不良に育て上げた人物であり、彼女自身もまたかつては不良だったのだ。


「そんな事言いつつさ〜、大人のお姉さんの下着姿拝めて玖門だって嬉しいだろ〜?ん?ん〜?」


「……」


「どうしたの?」


「別に……頭がイカれてるのは昔から変わってねぇなと思っただけだ。」


「照れ隠しか?コノヤロー!」


玖門は自分をからかってくる獅亜に辟易しつつ彼女に洗面所から持ってきたタオルを放り投げる。


「風邪でも引かれたら迷惑なんだよ。」


「もう、玖門ったらツンデレなんだから!」


「黙れ。」


玖門は獅亜と共に6年間生活してきたからか、彼女の扱い方については理解しているつもりだ。

こうして適当にあしらうのが彼女との付き合い方だと知っている玖門はそうして獅亜と今まで暮らしてきた。


これが不良グループのリーダー、庵乃条玖門の日常なのである。




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