第23話「喰魔を食え」

15世紀のスコットランドを震撼させた恐怖の人喰い戦闘民族、ソニービーン族。

彼らは常人離れした身体能力で「狩り」を行い、多くの人間を喰らい続けた。

しかしソニービーン族の恐るべき特徴は身体能力だけでなく、「超常」を操る点にもあったのだ。


「くくく……喰魔!!」


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」


彼らが「それ」の名前を呼ぶと普通の人間の目には見えず触る事もできない「喰魔」が現れ、それが獲物の体内に侵入し獲物を内側から破裂させるのだ。

その後ソニービーン族は肉片となった人間を喰らう。

人間をさながら風船の様に破裂させる恐るべき狩りの方法は人々を震え上がらせ、その恐怖の時代は半世紀にも及んだという……。


昨今ではバラエティー番組で取り扱うネタの定石となったソニービーン族。しかし彼らを取り巻く謎の殆どは歴史資料館等の資料を読めば大体は分かる事だが、その「超常」についての資料は殆どなく、その全容は未だ解明されていない。


ソニービーン族の末裔ならそれを知っているかもしれない……そういう番組に携わる記者や研究所の科学者達はそう考えている者が少なくないが、その界隈においてソニービーン族の末裔にコンタクトをとる事はご法度とされているのだ。

人喰い怪物の末裔と言えど彼女らはなんの罪もないただの一般人。

そっとしておいてやろうというのが一般的な考えだからだ。


以前エリナらを取材した亜申兎新聞は彼女らを「ソニービーン族の末裔」ではなくあくまでただの一般人として一般人に行うような取材をしたに過ぎない。


それはそうと、映太はエリナを悩ませる謎の正体である喰魔を捕まえる事に成功した。

まさか、と思っていたエルシャナは映太が喰魔を捕まえた事で疑惑が確信へと至り、それについて映太らに話した。


「なるほど……ソニービーン族ってそんな……いや、とにかくエリナちゃんを悩ませる謎が判明して良かったよ。」


「で……それってどうするの?保健所とかに引き取ってもらうとか……?」


「それは無理だろ。」


「ですよねはい……。」


エルシャナの話を聞いた映太はとりあえず今は喰魔を捕まえられた事を良かったと考え、清司と翔子はそれをどうするべきかと考えるもそう簡単にいい案は思い浮かばない。


「とりあえず今から皆でこれを持って私達の家に行きましょう。ママにも相談した方が良いと思うわ。」


「私もそう思いマース。普通の人からすれば喰魔なんてUMAみたいなものですからネ。」


エルシャナはエルザと手短に話した結果、母エリュシオンも交えて喰魔をどうするか決める事にした。

それに皆は同意する一方でエリナは映太に近づき、ある事を言おうとする。


「……あの……映太さん……。」


「どったの、エリナちゃん?」


エリナはそれを言う事を少し恥ずかしがりつつも、勇気を出して自分の思いを映太に伝える。


「あの……やり方はちょっと変でしたけど……今日1日、私の問題を解決しようとしてくれて……ありがとうございます……。」


「良いって事よ!変なやり方だったのは謝るけど……。」


エリナが映太に伝えたかったのは感謝の言葉だった。

映太が頑張ってくれたお陰で謎の解明への足がかりになったのだから、自分は彼に感謝の言葉を言うべきだと思ったのだ。

感謝の意思を表す「ありがとう」はエリナが日本語の勉強を初めて最初に覚えた言葉である。



午後6時頃、映太らはブラッドレイン宅に集まり、ジャージで包んだままの喰魔を囲んでエリナら三姉妹、映太ら3人組、そしてエリュシオン、ライアンで会議を始める。


「まさか喰魔がまだ生き残っていたなんて……でもエリナはその存在を認識できなかったはずだ。エリナが幼い頃手を触れずに電球を破裂させた時、喰魔については聞いていたが見えないと答えたよね?」


「うん……見えないどころか気配も感じなかったよ……。」


「エリュシオン、君の両親や祖父母には喰魔はついてなかったそうだね?」


「あぁ。だからとっくにいなくなっていたと思ってたんだ。」


「映太くんが捕まえてくれたお陰で点が線になったような気分だわ。私達ソニービーン族自身よりももっと謎が深い存在だものね、喰魔って……。」


「スタンドみたいなものだよね。」


各々目の前の喰魔を見て感想を言い合うブラッドレイン家一同。


「あの、喰魔についてソニービーン族自身も何も知らなかったという事ですか?」


「はい。どういう原理で動いて、生きているのか……全くの謎なんです。」


「ただひとつ、私達のおじいちゃん……ママのパパが先代から聞いたある話があるわ。」


映太の質問にエリナが答えた後、エルシャナは先祖から聞いたある話を映太らに話す。


「おじいちゃんの何代か前のご先祖様がね、喰魔を使える最後のソニービーン族だったの。その人もエリナちゃんみたいに感情が高ぶると周りのものが破裂する現象があったらしくて……でもその人はエリナちゃんと違って喰魔を知覚できていたのよ。」


「それで……?」


翔子にそう聞かれ、エルシャナはその先祖がやったとんでもない事を映太らに明かす。


「そのご先祖様は……喰魔を「食べた」のよ!」


「「「え……?」」」


エルシャナの言葉を聞いた映太らは目が点になった。


「え……その後腹下したりは……?」


「なかったらしいわ。」


「め、目に見えないんだよね?どうやって調理したの?」


「溶き卵をかけて見えるようにして調理したらしいわ。」


「何より味は?」


「美味しかったらしいわ。牛肉で作ったハンバーグみたいな食感だったとか。」


エルシャナは映太、清司、翔子の質問に答えていく。

そして唖然とした3人は……。


「「「マジか……。」」」


「食べてぇ!!」


「「この映画アニメバカ!!」」


ただし映太だけは激しく食欲をそそられた模様。

これには長い付き合いの清司と翔子もドン引きしてしまう。

そんな彼にライアンはこう質問する。


「喰魔を食べてみたいかい?」


「はい!!」


その質問に対して映太は笑顔で即答する。

そして彼の答えを聞いたライアンは笑顔でこう言った。


「じゃあ食べよう!ソニービーン族が1人につき使役できる喰魔は一体だけだそうだ。つまりこれがいなくなればエリナはもう破裂現象に悩まされなくなる。君達はどうする?」


「……私を苦しめてきた喰魔……喰ってやろうじゃないの!」


「エリナちゃんその意気だよ!」


「美味しいなら食べるに越したことはないわね。」


ライアンはエリナらに喰魔を食べるかどうかと聞かれ、エリナは腹を括った表情で喰魔を喰ってやろうと決意する。

彼女がそうするのなら、とエルザとエルシャナも喰魔を食べる事にした。


「じゃあちょっと待っててね。すぐに喰魔を調理してくるよ。」


「私も手伝うよ。」


そうしてライアンはエリュシオンと共にキッチンへと向かい、映太らはリビングで映画を見ながら待たされる事になった。

エリナの問題はこれにて決着がつく……のか?


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