第22話「大作戦」

エリナが抱える特異な問題の解決策を映太は一晩中考え続けた。

どうすればあの症状からエリナを助ける事ができるのか……。

しかし、1晩考えた程度で妙案を思いつく程映太は賢くなかった……だからこそ、彼は自分に出来る精一杯の事をやろうと決めた。



翌日、学校でエリナに出会った映太は自販機で買ってきたペットボトルの天然水を片手に、彼女にこう言い放つ。


「エリナちゃん!!めっちゃ可愛いよ!!」


「はへぇっ!?」


パァァァンッ!!


映太の言葉を聞いて顔を赤くするエリナ。

次の瞬間映太が持っていたペットボトルは破裂し、中の水が辺り一面に飛び散った。


「なるほど、内側から破裂しているな……。」


「な、なんなんですか映太さん!」


「いや、エリナちゃんの謎現象を解決したいと思って……。」


映太の言葉を聞いたエリナは、自分の問題に向き合ってくれる映太に内心では感謝しつつも、突然可愛いと言われた事は不服だったので、映太をぽこぽこと殴って恥ずかしさを解消した。


「〜〜〜!」


「ご、ごめんエリナちゃん!少しだけの辛抱だから!」


それからこの一日の内に、映太は何度もエリナの感情を高ぶらせる事に挑戦し、破裂するものをじっくりと観察して問題の原因を解明しようと試みた。



「エリナちゃん!パンツ丸見え!」


「ほわぁっ!?」


パァァァンッ!!


「セクハラすんなコラ!」


一度はエリナのパンツが丸見えだと嘘をついて彼女をテンパらせ、その直後に持っていたペットボトルに意識を集中。

エリナの感情の高ぶりに反応して破裂するペットボトルを観察する。

そして一緒にいた翔子にセクハラ発言を咎められ殴られた。



「エリナちゃん!背中にゴキブリがついてる!」


「はいぃぃ!?」


パァァァンッ!!


「女の子を怖がらせたらダメデース!」


「さーせん……。」


今度は怖がらせる方面でエリナの感情を高ぶらせ、破裂するペットボトルを観察。

そしてエリナと一緒にいたエルザに嘘をついた事を咎められた。


その実験は放課後まで続き、その頃には……。



「映太さんなんて嫌いです!!」


「ぐっ……それも覚悟の上だ……俺はエリナちゃんを助けたいんだ。」


「ッ……それは頭では分かってるんですが……それでもあんなやり方……!」


流石のエリナにとっても今日1日の映太の態度は許しがたく、彼女は映太の事を嫌いと宣言した。

だがそれでもエリナの問題を解決したいと望む映太と、それを内心では理解しているエリナ。


「映太くん、エリナちゃんのために色々してくれてありがとうね……。」


「映太くんはよく頑張ったと思いマース。」


「ごめんねエリナちゃん……映太は良い奴なんだけど、それが空回りする事がたまにあってさ……。」


「ほんと難しい問題だよねこれ……。」


エルシャナもエルザも、翔子も清司もこの問題に対して何もできなかった。

だからこそ4人は「何かしよう」と行動を起こしている映太を立派な人間だと理解しているのだ。


「皆……うぅ……私がこんな問題抱えてるせいで……うぅ……!!」


皆が話しているのを聞いたエリナは目元に涙を浮かべながら自分を責める事しかできなかった。

自分の為に映太が頑張っている……ではなく、自分のせいで映太が頑張る羽目になっている。

そうネガティブな方向に考えてしまっているエリナの感情は悪い方向に高ぶり、そして……


「いででででででで!!」


「映太(くん)(さん)!?」


突然頭を抑えもがき苦しむ映太。

一体彼の身に何が……そう考えた一同は嫌な想像をしてしまう。


「も、もしかして……今までは破裂するものがペットボトルとかだったけど……。」


「おいおいやめろよ……今度は映太の頭が破裂するとかじゃないだろうな!?」


「そんな!!映太くんがスプラッターな光景に!?」


「R18はダメデース!!」


「あばばばばばば!!割れる!!頭が!!割れる!!」


「映太さん……!!」


とてつもない程の頭痛に苦しむ映太を前にして、一同はどうすればいいのかと必死に考えるが答えは全く浮かばない。

エリナは映太が死んでしまうのかと考え、ぼたぼたと涙を流し続ける。

そんな中でも映太は考える事をやめなかった。


(エリナちゃんの感情の高ぶりに伴う何かしらの破裂……あれには何かカラクリがあるはずなんだ……例えば破裂の中心に何かがある……いや、「いる」のか!?ソニービーン族が実在してるんだ……UMAの1つや2ついたぐらいじゃ……もう驚かないぞ!!)


そう考えながら頭を抑える映太の手に、その時「何か」が触れる感触を彼は感じ取った。


「!!……そこっだぁ!!」


その感触がした事で映太の予想は確信へと変わり、彼は自分の頭の中からひょろっと出ている「何か」をがしっと掴み取り、そしてその本体を頭の中から引きずり出して椅子にかけてあった自分のジャージで包み込んだ。


「映太さん……!?」


「っは__!!頭痛がしなくなった……!!」


映太の頭痛は止み、一同は映太がジャージで包んだ「それ」を見て空いた口が塞がらなかった。


「映太……それなんだよ……?」


「一瞬の事だったから確証は無いけど……映太お前、目に見えない「何か」を頭から引きずり出して……そのジャージで包んだのか……?」


「あれって……まさか……!!」


「知ってるのデスかエルシャナ?」


映太が捕らえた「それ」の事が全く分からない清司と翔子、それに対してエルシャナは何かを知っているような様子を顔に浮かべる。


「あれは何?エルシャナ……?」


「あれは……「喰魔(しょくま)」よ。」


突然出てきた喰魔というSF要素。

まさか自分たちの日常にこんなものが紛れ込んでいたのか……と戦慄する一同だったが、映太だけは違った。


「何それ……めっちゃ面白そうなやつじゃん……!!」


流石は映画バカ、といったところである。

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