第20話「悪夢……?」
ブラッドレイン宅、午後3時……。
その日、エリナ、エルザ、エルシャナら3つ子の姉妹は3人揃って風邪をひいていた。
しかし、それはただの風邪ではなく……
「エリナ、美味しいお粥だよ。ここに置いておくからね。」
「ありがとう、パパ……。」
「ヨーグルトとバナナだよ。食べなさい。」
「ママ、ありがとう……。」
「エルシャナにも食べるもの持っていくからね。」
3人はそれぞれの自室のベッドに横になっており、父ライアンと母エリュシオンは彼女らの看病をしている。
彼女らは3人同時に風にかかったのだ。
その原因は、ソニービーン族である彼女らの体内にある「ソニービーン因子」によるものである。
その因子によって彼女らは常人離れした身体能力を行使する事ができるのだが、それはメリットだけでなく少々のデメリットも孕んでいるものなのだ。
ソニービーン族の子供はおおよそ年に1度、高熱にうなされる日が2〜3日続く事がある。
それと同時に不思議な夢を見るのだ……「ソニービーン族の始祖」と邂逅し、問答を繰り返す夢だ。
ソニービーン族の始祖である男は死してなお子孫の意識の中で生き続けるのである。
「パパ、またあの夢を見るのかな……。」
「大丈夫。ママみたいに大人になれば見なくなるから、大人になるまでの辛抱さ。」
「うん……そうだね。」
そうは言っても、父としてはこの症状はなんとかできないものかと医者に相談したい気持ちは山々だが、スコットランドにいた頃その悩みを解決できた医者はおらず、多分日本にもいないだろうと彼は考えていた。
「パパは自分の部屋にいるから、何かあったらスマホでメッセージを送ってね。」
「うん。」
そうしてライアンはエリナの部屋を出ていき、おかゆを食べたエリナはその1時間後に眠りについた……。
◇
「……ここは……。」
エリナの目の前には不気味な風景が広がっていた。
赤い空と灰が積もったような地面……その風景がどこまでも果てしなく続いているのだ。
「彼」が来る……そう感じたエリナは必死に声をあげる。
「ソニービーン族の始祖さん!!もう私達を苦しめないで!エルザとエルシャナの夢の中にも出てくるんでしょ!?そんな事やめて!!私達が貴方に何をしたって言うの!?」
「クックック……!!」
すると、エリナの声に誘われるかのように彼女の前に「彼」が現れた。
ボロ切れに身を包み、まるで骸骨のように痩せこけた顔がその中からエリナを覗いている。
「ッ……!!」
「エリナ・ブラッドレイン……日本に来てからの貴様は楽しそうだのぅ……友達ができて……さぞ楽しそうではないか……。だが、まさか彼らと「本当の友達」になれるとは思ってはおるまいな?」
「え……映太さんは本当の友達です……!!」
「本当かのぅ……彼は心の内ではお前の事を友達とは思ってないかもしれぬぞ?」
「そ、そんな事は__」
「見栄を張るだけなら猿でもできるわ。お前が人間の血を欲した時、その時は自分の血をお前にくれてやろうと、あやつは言ったが……それは果たして本心なのかのぅ?」
ソニービーン族の始祖はエリナを苦しめるような言葉を彼女に投げかけ、次第に相手のペースにはめられそうになっていくエリナ。
「無償で化け物を助けようとするような若者がこの現代日本にいるとは、儂は思わんがのぅ。」
「ッ……!」
「きっとあやつの友人も同じじゃぞ?きっと自分が1番だと思っておる。お主らは2番目じゃ!いざと言う時、自分とお主らを天秤にかければ自分を選ぶのは明白じゃ!」
「……」
エリナはソニービーン族の始祖の言葉に思わず膝をついてしまう。
エリナの心は彼の言葉に打ちのめされ、その様をしたり顔で見下すソニービーン族の始祖……。
これがエリナが恐れていた悪夢の正体……だったのだが……
「クックック……ソニービーン族は所詮人間とは相容れない存在ぞ!自分の運命を受け入れよ!そして!1人ぼっちの哀れな人生を送るがよい!人ならざる怪物であるソニービーン族にはそれがお似合い__?」
「それはちげぇな。骸骨ヤロー。」
「……!?」
エリナはもちろんの事、ソニービーン族の始祖も、それまでは1度たりとと起こり得なかったその出来事に空いた口が塞がらなかった。
「……映太……さん……?」
「エリナちゃん。大丈夫か?」
そう……2人の目の前に現れたのはエリナの友人、三条映太だった。
エリナの夢の中に別の人物が介入する事など、今まで起こるはずのない出来事だったのだから、2人とも驚くのは無理も無いだろう。
「エリナちゃんを泣かしてるのはアイツって事でいいな?」
「……えっと……。」
「な、何故にエリナ・ブラッドレインの夢の中に余所者が……!!立ち去れぃ!!」
ソニービーン族の始祖は地面を強く蹴り映太に接近し、右ストレートで勢いよく殴ろうとしたが……それを左手で受け止める映太。
「な……!!なんだこのパワーは!!」
「エリナちゃんを……泣かせるなぁぁぁぁぁぁっ!!」
映太はそう叫びながらソニービーン族の始祖の顔面に反撃のパンチをお見舞いし、灰のように脆いその身体は粉々に砕け散った。
「な……!!」
「よぉし!!もう大丈夫だぜ、エリナちゃん……エリナちゃん?おーい__」
その記憶を最後にエリナの夢の中での意識は段々と薄れていき、彼女が目を覚ますと……
◇
「え、映太……さん!?」
「おっ!大丈夫か!?」
「な……なんでここに!?」
エリナの目に最初に飛び込んできたのは、映太の顔だった。
何故ここに映太がいるのかと疑問を抱いたエリナだったが、その理由は机の上に置かれていたものを見ればすぐに察する事ができた。
「……プリンとリンゴ……?こんなのあったっけ……まさか映太さん、私のお見舞いに……?」
「そうだよ。そしたらなんかエリナちゃん悪い夢でも見てるみてーに魘されてたから……手を握ってあげてたんだよ。」
「はへ……?」
映太の言葉を聞いたエリナは自分の右手に目を移すと、確かにその手は映太によって握りしめられていた。
「〜〜〜っ!!」
「あ、悪い!もう目覚めたから離してもいいよな!ずっと握りっぱなしなんて……」
躊躇うこと無くエリナの手を握ったはずだった映太は、彼女の恥ずかしそうな表情を見て自分もそれに釣られてなんだか恥ずかしい気持ちになり、パッと手を話す。
「……まさか映太さんが手を握ってたから映太さんが夢の中に……!?」
「え……夢?」
「なんでもないです!」
エリナは顔を赤くして映太にそう返し、そんな顔を彼に見てほしくないが為に布団に身を包む。
「あ、明後日頃には治るかもしれないので……安心してください……。」
「おう。元気になったら学校で会おうぜ!」
「……はい……。」
エリナの悪夢はそうして払われたのだった……。
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