第19話「危険な買い物」

エルザと清司が買い物をしていた頃、エルシャナも翔子と共に隣町のあるお店で買い物をしていた。

そのお店とは……


「遂に来たぞ……マリーンプラネッツのポップアップショップ!ありがとうねエルシャナさん、付き合ってくれて。」


「構わないわ。翔子ちゃんが行きたい所だったらどこへでもついていってあげちゃう。」


「ま、まるで甘々お母さんだ……。」


その日2人が来たのは、翔子が子供の頃見てた、民法放送局で放送されていたテレビアニメ「マリーンプラネッツ」の10周年を記念してオープンされたポップアップショップだった。

マリーンプラネッツは大海原を舞台とした心を持った魚達の日常を描くストーリーである。


「ところで翔子ちゃん、なんで私を同伴させたの?映太君や清司君でも良かったんじゃないの?」


「いや、あいつらはこういうのもう興味無いと思うし、それに……」


「それに?」


「いや、なんでもないよ。多分杞憂に終わると思うし。」


「そう……なんでも言っていいのよ?」


「大丈夫。ほら列に並ぼう!」


そうして2人はお店の前の列に並び、20分程かけて店内に入店した。


「人多いなー。」


「気をつけてね、翔子ちゃん。」


翔子の言う通り、店内は商品を求めて来店した人で埋め尽くされており、翔子は人にぶつかって倒れたりしないように歩きながら店内を物色し、エルシャナは翔子を見守るようにその後をついていく。


「コップ……タオル……ボールペンに……クリアファイルか……どれにしようかな……。」


「あ……これ思い出したわ翔子ちゃん。」


「何を?」


「エルザちゃんはアニメが好きってよく言ってるわよね?あの子確か最初に見た日本のアニメがマリーンプラネッツだったのよ。そこから日本のアニメが好きになった……ような気がするわ。」


「へー。」


「今お店の中にいるのは皆この作品のファンなんでしょ?こんなに人気な作品だったなんて、知らなかったわ。」


「うん、私も予想外だよ。(皆この作品のファン……か……多分転売ヤーとかもいるし、あと……いや、エルシャナさんが語ってくれたエルザちゃんの思い出に泥を塗るような事は言わないでおこう……。)」


エルザについての会話もしつつ、翔子は20分ほど物色をした後、予算内で買える複数の商品をカゴに入れて会計を済ませ、店を出た。



「いやー、人がたくさんいる所は疲れるわー……。」


「お疲れ様〜。(翔子を撫でるエルシャナ)」


「……と、ともかく今日はありがとう。目当てのものは一通り買えたから良かったよ。」


「それは良かったわ。」


「購入特典のポストカードも貰えたし、記念に1枚撮っておこうかな……店の外なら安全だろうし(小声)」


「何か言ったかしら?」


「な、なんでもない。」


翔子が言った事の意味は何なのだろうか……と考えるエルシャナの横で袋からポストカードを取り出してスマホで写真を撮る翔子。

楽しい買い物はこれにて終了。

証拠の「ある不安」も杞憂に終わる……かと思ったその時……。


「そこのお姉さ〜ん、何撮ってるのかな?」


「え……?」


そこに現れたのは厳つい風貌の2人の成人男性。

その内1人はスマホで翔子を撮影している……翔子の不安は起こってしまった……。


「それ〜、そこのポップアップショップで買ったやつだよね?写真撮って何しようとしてたのかな〜?」


「こ、これは__」


「転売は懲役1年以下もしくは10万円以下の罰金だよ〜?」


「ッ……。」


翔子の不安、それは最近ニュース等でも取り上げられる「彼ら」と出くわしてしまう事だった。

その名も「私人逮捕系YouTuber」……警察を待つのではなく自らの手で悪人を捕まえ、その様をYouTubeやSNSに投稿する者達である。


「(お、落ち着け私……!)わ、私は転売なんてしな__」


「はいはい、詳しい話は警察にしてね__」


翔子の言い分も聞こうともせず男は彼女の手をつかもうとする……しかしそれをエルシャナが許さなかった……。


ガシッ


「この子、怖がってるでしょ?やめなさい。」


「なになに?反抗するの?」


「いえいえ、反抗だなんてとんでもない!ここは穏便に済ませましょう?ね?」


男性を宥めようとするエルシャナだったが、男性は強硬手段に打って出る。


「よし、警察呼びますわ!そんな反抗的な態度を取られるんだったらねぇ、こっちにもやり方っていうのがあるんですわ。警察呼びまーす。」


「やめなさい。」


「あ……?」


警察を呼ぼうとする男性を見かねて、エルシャナは翔子を守る為にいつもとは声色の違う声で男性を制止しようと試みる。


「この子は転売なんてしません。そして貴方達はその子を怖がらせた……そんな事は……やめなさい。」


「ッ……!」


男性は自分を睨みつけるえルシャナの瞳に、スマホを操作しようとする手を止める。

このまま退いてくれるのが翔子とエルシャナにとってありがたいのだが……。


(このガキが……大人を舐め腐りやがって!ちょっと気骨のあるガキだが所詮は女だ!こんな細い腕で大人の俺に勝てる訳ねぇだろ!)


「やっちまえ兄貴!」


「おう!」


男は撮影をしてる取り巻きの言葉を聞いてやる気を出し、標的をエルシャナに変えて彼女の手首を強引に握りしめる。


「……」


「ガキが舐めた口聞いてるんじゃねぇぞ!」


「……さっきは散々法律がどうこう言ってらっしゃってましたが……手をあげたからには、それはもう貴方を守るものではなくなってしまいました……その事を理解した上でのこの暴挙でしょうか?」


「エルシャナさん、もう良いよ__」


「あぁ?」


エルシャナの言葉で精神を逆撫でされて頭に血が上る男。

彼はエルシャナの手首を握る手にさらに力を込め、それによってエルシャナは苦悶の表情を浮かべる……それが男の勝ち筋だったのだが……。


ググググ……


「あ、兄貴……?」


「え?お、俺今どうなってるんだ……?」


その場にいる翔子、男の取り巻き、騒動を見てた者達……皆が驚きを隠せなかった。


エルシャナは手を高く掲げていた。

「手首を掴む男性の身体ごと」。

高く掲げられたエルシャナの手首を握りしめている男性の巨体は宙に浮かび上がっており、男性には何が起こっているのか理解できず、自分の珍妙な姿を晒している事など気づくはずもなかった。


「な、なんだこりゃ〜!?」


「この手を振り落とせば、貴方はコンクリートの地面に身体を打ちつける事になるでしよう。私達の目の前から立ち去る事を誓うのならゆっくり下ろしてあげますがね。」


「そ、そんな事したら暴行罪__」


「自分の事を「ルールで守られるような一端の人間である」と自負しているのですね?なら先程のような悪行はやめなさい。ルールは真っ当に生きる人間を守る為のものです。今の貴方は違いますがね。そんな貴方をコンクリートの地面に叩きつけてもなんの罪悪感もありませんが、いかがでしょうか?」


「ひぃ〜!も、もうこんな酷い事やめますぅ〜!」


交渉はエルシャナが勝利し、地面にゆっくり降ろされた男性と取り巻きは即座にその場から逃げるように立ち去っていった。


「ふぅ、80パーセントほどの力を使っちゃったわ……。」


「エ、エルシャナさん……。」


「え?」


翔子の声を聞いてハッとしたエルシャナは、自分達の周りに多くの人だかりができていた事に気づく。

翔子を守る為とは言え流石に目立ちすぎたかと思ったエルシャナは……


「翔子ちゃん、逃げるわよ〜!」


「え、ちょ……!」


エルシャナは翔子の手を引き、駅まで駆けていく。

トラブルに出くわしてしまったお出かけだったが、2人とも無事に家に帰ってくる事ができたのだった……。



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