第14話「何者であっても」

15世紀のスコットランドのとある町__

その街には、常に鼻を刺すような血の匂いが漂っていた。


「クックックッ……アァーハッハッハッハ!」


その男は人の血を啜り月夜の空に狂喜の高笑いを放つ。

肉も、骨も、血液も、臓器も、髪の毛すら、男は餌の全ての部位を喰らい尽くし己の血肉へと変える。


バンパイア、フランケンシュタインの怪物、ミイラ男、狼男、そんな「夢想の存在」それが本当に実在していたとして、それが人間に牙を剥き人間の平和を脅かす最悪の存在だったとして……それを前にした人間はただただ喰われる事しかできないのか……。


それを決めるのは被食者である人間ではない。

全てを決めるのは「喰う側」の怪物本人である。


その怪物を前にして、人間は酷く脆弱だった。

どこに逃げても追い詰める。

どんな武器も脅威ではない。

女も子供も老人も等しく喰らう。


それが怪物、「ソニービーン族」だった。



「私達はそんな怪物として生を受け、生来友達も信頼できる人も作る事ができませんでした。同年代の子供達はもちろん、大人達も私達を自分達の同類とは見てくれず、自分達とは違う存在なのだという考えに基づいて私達と接するのは必要最低限にしていたのだと思います。」


「私は自分の血を恨んだりはしてないデスけど、それはそうと友達ができないのは不勉強デシタ……。」


「家の中では仲良くしてるけど、家の外ではいつも一人ぼっちのエリナちゃんとエルザちゃんを見てると、私も胸が苦しかったわ……。」


エリナ達は自分達の祖先であるソニービーン族の説明をした後、それ故に長らく友達を作る事ができなかったと映太達に明かす。


(そりゃあ人喰いの化け物は敬遠されるよな……でも)


(僕だって、もしも映太と翔子がいなかったらと思うと今どうなってたか分からない……でも逆に)


(そんな生まれでもこの3人は捻くれること無く頑張ってきたんだろうな……だから)


「「「俺(僕)(私)が3人にとって最初の友達って事?」」」


「……はい。」


「そうデース。環境が変われば、何かが変わるかもしれない……そう信じてパパは私達をここに連れてきてくれたデース!」


「それが功を奏して貴方達と友達になれた。」


映太達が考えた末に導き出した結論、それを聞いた三姉妹は、自分の血筋を語っていた先程までとは違い嬉しそうな表情を浮かべる。


「私からも君達には感謝したい。娘達と友達になってくれてありがとう。」


「いえいえ、俺達はエリナちゃん達がソニービーン族だろうとなんだろうと、友達やめる気はありませんよ!」


「ぼ、僕も……です!」


「ちょっと不謹慎かもしれないですけど……この6人だけの秘密って、なんかワクワクするなーと思いますね……。」


映太達は自分らに頭を下げて感謝してくれたライアンにそう返す。

それから皆はまた楽しい談笑に戻ろうとしたのだが……


「じゃあ、また映太さんの面白い話が聞きたいです!」


「いいぜ!じゃあ去年この3人で映画館に映画見に行った時にあった面白い話を__」


ガシッ


「!?」


「映太君、だっけ?」


次の瞬間、映太は強い力で右腕の手首を掴まれた。

一体誰が……そう思って自分の手を握りしめている映太が顔を上げると、そこにいたのはエリナ達の母親であるエリュシオンだった……。


「マ、ママさん……?」


「フフフ……君は優しいね……そんな君に聞きたい事がある。」


「な、なんすか?」


エリュシオンは映太を冷たい瞳で見つめて、彼らを試すようにこう質問する。


「もしも今、エリナ、エルザ、エルシャナが人の血を欲したとして……君は……君らは3人に血をあげる事ができるかな?」


「……」


「友達なんだろ?なら__」


「はい。」


「は、はい!」


「勿論ですよ。 」


「へ?」


映太達を試す為に敢えて意地悪な質問をしたエリュシオンだったが、その答えは彼女が想定していたよりも即答で、それも一切の躊躇いが無いものだった。


「エリナちゃん達が血液が欲しくなって、それが無いと困るんだとしたら……貧血してでも俺の血液を飲ませてあげますよ。」


「映太は昔吸血鬼の映画を見てから吸血フェチに目覚めたんだよな。」


「そう言う翔子だって即答したじゃねーか!」


「いや、血液ドナー的なやつと同じ感覚だから……。」


「ぼ、僕もそんな感じだけど……。」


そう話す3人を前にして、エリュシオンは確信した。

この3人なら娘達の最高の友達になり得ると。

そう確信したエリュシオンは冷たい表情から一変し……


「いやー試すような事をして悪かったね。君達の心意気は分かったから、これからもエリナ、エルザ、エルシャナと仲良くしてね。」


「うっす!」


「は、はい!」


「任せてください。」


映太、清司、翔子の真っ当な人間性を確認できたエリュシオンは一安心し、再び自室へと戻った。

それを見送り、母親と映太達が険悪な関係にならずに済んだと安心したエリナは自分達も決心をする。


「わ、私達もできるだけそういう状況にならないよう毎日トマト食べますので!」


「1日5個ミニトマト食べるデース!」


「ミニトマトを5つも!?私には恐ろしくてできねぇ……」


「翔子ちゃん、好き嫌いはしちゃダメよ。」


エルシャナはトマト嫌いな翔子を咎める。

咎め、改善させる事も保護者の務めなのだから。

翔子はエルシャナの庇護者ではないだろ、というのは置いといて。


「悪いね3人共。エリュシオンは心配だったんだよ、友達が悪い人じゃないかって言うのが。妻は軍人でね、厳しい性格をしているんだ。」


「良いっすよ。こっちだって俺達の誠意ってやつをアピールする丁度いいチャンスだと思ったんで!」


「ぐ、軍人って事は、ソニービーン族特有のフィジカルも相まって尋常ならざるレベルで強いって事……?」


「そうデース!ヒグマだって戦車だって倒せまーす!」


「マジ!?ソニービーン族すげぇ!」


「映太、流石にヒグマや戦車を倒せる奴がいる訳……いやソニービーン族ならワンチャン……。」


それから映太、清司、翔子、エリナ、エルザ、エルシャナ、ライアンの談笑はしばらく続き、長い夜はゆっくりと過ぎていった。


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