第9話「折れない絆」

ソニービーン族、と言う都市伝説上の存在を知っているだろうか。

我々が知っているソニービーン族と、この世界においてのそれは多少形が違うのだ。


その一族はソニービーンと言う1人の男から始まった。

彼は貧しい生まれで、生涯の半分を1日の食事にありつくのにも命懸けの生活を送っていたが、そんな彼はある時狂気的思想に染まり、それを実行した。


「カニバリズム(食人欲求)」。

彼は自分と同じ人間を喰う事で腹を満たすと言う行為に手を染め、そして自らの子供にもまたその思想を吹き込んだ。

その子供も自分の子供に同じ事をし、ソニービーンの意思は100年に渡り続いた。


彼らは人を攫い、解体し、食していた。

その100年の間、スコットランドでは年間1万人の行方不明者が出ていた。

何故そんな恐ろしい状況が100年にも及んだのか、それはソニービーン族が「人並み外れた戦闘能力」を有していたからである。


闘牛のような怪力、底なしのスタミナ、鋼のように硬い皮膚、ソニービーン族は純粋な戦闘能力なら、闘技場コロッセオでライオンをも相手取るような戦士すら凌駕する実力を秘めていた。


彼らがのさばる恐怖の時代は100年続いた末に、ソニービーン族を殺す為の毒薬が開発され、それにより全てのソニービーン族は滅んだ……。

これがこの世界におけるソニービーン族の概要だ。



しかし、ソニービーン族は生き延びていた……。

今は人を喰う事無く密かに暮らしているが、絹のように煌びやかな金色の髪と宝石のように赤い瞳……それを見れば彼女らがソニービーン族である事は容易に理解できる。


故に彼女らは肩身の狭い生活を余儀なくされた。

ソニービーン族だから、と迫害される訳ではないが、彼女らの周囲の人々は日常生活において彼女らとの接触を最小限に抑え、もちろん友好な関係など築こうとせず、彼女らは孤独な生活を送っていた。


この日本に来るまでは……。



「エリナちゃん、嫌なら学校に行かなくていいのよ?」


「先週あんな事があったんだしさ、もしも私達の正体が周りにバレたりしたら……。」


「……分かりました。危険を察したら家に帰ります。」


エルシャナとエルザはエリナの事を心配するが、エリナは2人を心配させない為にいつも通りの生活をし続けると決意する。

そして3人で通学路を歩いていたのだが、そこに現れたのは……。


「あ、エリナちゃん。」


「……え、映太さん?」


エリナは横断歩道の前で映太と再会する。

1週間前の傷は完全に治っていないのか、彼は腕に包帯を巻いていた。

その痛々しい姿の彼を見たエリナは罪悪感を覚え、1週間前の事を彼に謝ろうとする。

悪いのはエリナではないというのに……。


「あの……映太さん、ごめ__」


「くっ……!」


「え、映太さん!?」


謝ろうとするエリナに対して、映太は右手を抑えて悶え苦しむ様子を見せた。

その直後……


「俺の右手に封印されし邪龍よ……静まれ!」


「……え?」


映太はエリナに笑いかけ、彼女を心配させない為にこう言う。


「俺はこんな冗談言えるぐらいには大丈夫だから、そう心配するなよ!」


「……映太さん……。」


だがエリナには分かっていた、自分が映太に気を使われている事が。

それをはっきりと彼自身に言うべきか、その好意を今は受け取っておくべきかと彼女は悩んだ。

そうした末に選んだものは……。


「……なら良かったです!」


「良かったわね、エリナちゃん。」


「これからも皆で仲良くしまショウ!」


エリナの曇りなき表情を見たエルザとエルシャナは一安心し、丁度そこに清司と翔子も合流した。


「おはよう映太、3つ子の皆さん。」


「映太ずいぶん痛々しい格好してんなー、大丈夫か?」


「大丈夫!ただ邪龍が封印されてるだけだから!」


「頭の方にも包帯巻いた方がいいのでは?」


清司と翔子はいつもと変わらない態度で映太に接する。

気遣いはかえって自分達のムードを悪くすると2人は考えていたからだ。


「じゃあ、6人揃った所で登校しましょう。」


「イェーイ!」


そうして映太達は学校への通学路を歩いていった。

その道中で清司とエルザは今夜放送される○ーパー○隊特集の番組についての話に、翔子とエルシャナは来月放映される見たい映画についての話に花を咲かせ、一方でエリナは映太に「以前の質問」を再び問いかけた。


「映太さん、貴方は本当の私を……受け入れてくれますか……?」


「……もちろん!」


「……ありがとうございます。」


映太はエリナの質問に即答し、それを聞いたエリナは安堵の表情を浮かべる。

映太にとって1番大事なのは彼女自身が、プロのアスリート選手も青ざめる程の脅威的な力を秘めた人間かどうかではなく、どんな人間であっても、自分が仲良くなりたいかどうかなのである。


「いやー、俺エリナちゃんと友達になって良かったわ。」


「そ、それはどういう……?」


「これから楽しくなりそうだなって思っただけ。」


「〜ッ!!」


映太は何気なくエリナにそんな事を言い、それを聞いた彼女は、映太は自分に何を期待しているのか、まさかあんな事やこんな事を……!?

と、妄想を暴走させ、その高ぶる気持ちを発散する為に映太をポコポコと殴る(映太はノーダメージ)。


「ちょ、何するの、やめてよ〜。」


「映太さんが悪いんですよ!突然あんな事言い出すんですから!」


「な、なんか失言したなら悪かったよ〜。」


可愛らしくじゃれ合う映太とエリナを見て微笑むエルシャナとエルザ、「映太が女たらしになってしまった……」と戦慄する清司と翔子。


若人達の何気ない日常風景……かに思われたが……?


「すみませ〜ん!!」


「え……?」


突然6人組の前に現れたのは、カメラを持った男性1人とマイクを持った女性が1人。

男性は帽子を被っており、そのベロに男性と女性が所属する社名が書かれていた。

彼らは……


「私達!亜申兎新聞の記者、聴撮執子と申します!」


「亜申兎新聞……って、ウチで読んでる新聞じゃん……。」


「突然声をかけて申し訳無いのですが……貴方!金髪女子の中で1番背の低い貴方です!」


「え……?」


執子はエリナを指名し、エリナはなんだか嫌な予感がしつつも、自分に何の用かと質問する。


「私に何の用……ですか?」


「貴方は先日、凶悪カツアゲ犯を1人で撃退したと聞きました!そんな貴方にインタビューがしたいのです!」


「私に……インタビュー……!?」


予想外のハプニングがエリナを襲う……!

いや、ハプニングとか言うのはダメだな……新聞記者だって仕事でやってるんだから。


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