第8話「事後」
映太が病院に運び込まれてから数時間後……彼は身体中のいたる所にできた傷の処置を施された状態で意識を取り戻した。
「……ここは……?」
「岸波病院だよ。家から1番近い病院だ。」
意識を取り戻した映太に、彼をずっと見ていた映作はそう答える。
「何があったんだ?お前の携帯でエリナちゃんが電話かけてきて、映太が大変な目にあってるって言われたから飛んできたんだが……。」
映太はなぜこんな状況になっているのか、それを本人から直接確かめようとする映作。
彼は自分が見たもの、体験したことを素直に話すべきか、それとも隠し通すべきかと悩んだ結果、嘘をつく事にした。
ただの女子高生が成人男性3人を息もつかせぬ間に無力化した、なんて事は普通有り得ない事だ。
そんな話が広まればエリナは……ブラッドレイン三姉妹はどうなるか、映太は察せない程子供では無かった。
最も、自分の口からでなくともあのチンピラ達の口から「喧嘩慣れした成人男性がただの女子高生に負けた」と言う噂が広がる可能性も考慮していたが、自分が喋らない事でわずかでも彼女達の助けになれば……映太はそう考えていた。
だから彼は嘘をつく事にした。
「転んだだけだよ。ちょっと派手に転んだんだ。」
「そうか、転んだだけ、ね……。」
表面上は納得したような態度を示す映作だったが、彼は映太の発言の意図を完全ではないが見抜いていた。
映太が何かしらの隠し事を自分にしているというのは、彼を16年間見てきた父親である映作にとっては造作もない事である。
それと同時に映作は理解していた。
「映太は自分一人を守る為だけの嘘はつかないし、それほど悪知恵の働く程器用な人間ではない」と言う事を。
だから敢えて映太の嘘に乗る……と見せかけて、やはりそれでは納得出来ない映作は……。
「エリナの父親がチンピラにボコられて、それをお前が助けようとしてボコられて、結果エリナちゃんがチンピラを止めた。本当はこんな所だろ?」
「……っ!!」
映作の言葉を聞いた映太は「バレてたか……エリナちゃん本人か親父さんから聞いたのだろうか」と考えるも、気持ちを切り替えてエリナとその父親、2人はどうなったのかと映作に質問する。
「……エリナちゃんはどうなった?あとエリナちゃんの親父さんもいたよな?」
「お前が寝てる間にエリナちゃんは警察から事情聴取を受けたよ。」
「……!!それで、どうなった……?」
映作から帰ってくる答え次第では、エリナを庇おうとする自分の行いは無駄になるのでは……その不安がよぎる映太だったが……。
「「エリナちゃんはただの喧嘩が強い女の子で、エリナちゃんがやった事は正当防衛でした」でカタがついたよ。親父さんは一方的にボコられてたから完全な被害者だからな。チンピラ共は全員お縄だ。」
「そっか……。」
「あんな小さい女の子がお前なんかよりよっぽど強いなんてな……お前も鍛えたらいいんじゃね?」
「別に俺は強くなる必要ねーし。だいたい男子高校生が大人4人を無傷で制圧するなんて無理ゲーだろ!エリナちゃんはあれだ。なんかジークンドー的な格闘術を習ってたからめっちゃ強かったのであってな……」
「ははっ、元気そうで安心したよ。コンビニに行ってジュースかなんか買ってくるよ。今夜の1時だから売店やってねぇし。」
「コーラ頼むわ。」
そうして映作は映太の病室を出てコンビニへと向かった。
◇
その10数分後、映作はコンビニで買ったタバコを吸いながら病院へと戻り、映太にボトルのコーラを渡した。
「……っぷはーっ!深夜に飲むコーラってのは背徳感があってなんかいいな!」
「わかるー。で、映太。」
「ん?」
「お前はこれからもエリナちゃんとは仲良くするのか?」
映作の質問に対して、これに関しては映太は嘘をつくことなく、躊躇いもせずに答えを言う。
「……もちろん。エリナちゃんがチンピラを瞬殺しようがヒグマを蹴り飛ばそうがな。」
「よく言った!それでこそ俺の息子だ!」
映太の答えを聞いた映作は一安心し、傷が完治する1週間後に映太を迎えに来ると約束し病院を去った。
「映太の気持ち次第では、俺が直接チンピラを殴りにいってたんだがな。」
映作はそう呟くと、車を自宅へと向かわせた。
◇
その頃エリナは、父の病室で父とある話をしていた。
彼女と、そして2人の姉妹の背負った大きな問題であり、それが3人を今まで苦しめ、この日本では他の人には隠し通すと決めた事だ。
「すまない、私の為に「力」を使わせてしまって……。」
「大丈夫。パパと……映太さんが傷つけられる事の方が何よりも許せないから。」
「お前と……エルザ、エルシャナが「ソニービーン族の末裔」である事は、この日本では何としても隠し通さねばならないのに……。」
「……」
そう、エリナ、エルザ、エルシャナは、15世紀スコットランドを震撼させた恐怖の人喰い戦闘民族、ソニービーン族の末裔だったのだ……。
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