第7話「正体」

「パパ!」


エリナは必死の形相でそう叫んで、悪漢から暴行を受けていた男性に近寄る。

そう、彼はエリナの父親だったのだ。


「おいおい娘さんかぁ?」


「パパが何をしたって言うんですか!」


エリナは男に臆する事無く、父親がこんな目にあっている理由を問いただそうとする。

映太も突然のエリナの行動に唖然としていたが、なんとかこの状況の打開する為に、と止まっていた足を動かした。


「そいつぁ俺の親父が経営するバーでよぉ、俺の彼女のケツ触りやがったんだよ!酔っ払った勢いで、ってところだろうなぁ!」


「外国人は性欲が強いんだってね!ホント恐ろしいわ!」


自分がエリナの父親に暴力を振るっていた理由を簡潔に述べる悪漢と、それに同調する彼の背後の女性。

エリナにとってはそれが信じられなかった。

心優しい父がそんな事をするはず無いと信じ、父親にそれを確認する。


「……ホントなの?パパ……?」


「触って……ない……断じて触ってなどいない!」


エリナに真偽を問われた彼女の父親は、自分は無実だと主張した。

彼の言っている事は本当の事で、彼は悪漢とその取り巻きに因縁をつけられ、ついてない事に暴行を受けていたのだ。

悪漢とその取り巻きはそういう手口で標的から金を巻き上げるカツアゲ犯だった。


「そんな……言いがかりをつけて暴力を振るうなんて……貴方達は酷いです!」


「酷いのはお前のパパだろ?やることやっといて言い訳して逃げようなんてよぉ!お前のパパは痴漢野郎なんだよ!認めろよ!」


「出るとこでりゃ俺達が100パー勝つぜ?その時はバカにならねえ程の金、コイツから巻き上げてやらぁ!」


父に濡れ衣を着せる悪漢達に怒りを顕にするエリナだったが、彼らは全く悪びれる事無く、逆に威圧的な態度を取る事で自分たちの正しさをアピールしようとする。

さらにエリナの父に暴力を振るっていた悪漢は、下卑た笑みを浮かべてエリナにこう言う。


「それか、お嬢ちゃんが俺達と楽しい事してくれるってんなら話は別だがな!」


「た、楽しい事……?」


「高校生なんだからそれぐらい分かるだろ?カマトトぶってんじゃねぇよ!君が俺達と楽しい事するってんならパパの罪はチャラに__」


「何言ってんだよ!そんなものがまかり通るんなら世の中世紀末だぜ!」


エリナに下劣な選択肢を与える悪漢に対し、映太が反論した。

映太は内心悪漢達がとても怖かったが、エリナが勇気を出して彼らに立ち向かってるのに、自分だけ傍観すると言う訳にはいかないと思っているのだ。


「なんだガキ……文句あんのか!?」


「大アリだね!女の子恐喝してやらしい事させようだなんて、何見て育ちゃそんな腐った根性にな__」


ドゴォッ!!


悪漢に対して強気に出る事で彼らを撃退しようとした映太。

それが逆にいけなかった。

映太は頭に血が上った悪漢によって腹部を勢いよく殴られ、意識を失いかけその場に倒れ込む。


「映太さん!!」


「クソガキが……調子に乗るなよ!!」


「あはは、終わったわねあのガキ。元プロボクサーのジャン助を怒らせたんだから。」


「やったれ!」


「根性見せろやクソガキ!」


「ギャハハハ!」


ジャン助と呼ばれた悪漢が映太に攻撃を喰らわせた事で、悪漢の取り巻き達は下卑た笑みを浮かべて盛り上がる。

悪漢は倒れ込む映太を執拗に攻撃し、エリナはそれをただ見ているだけしかできなかった。


「私が……大人である私が責任を取って……彼を助けなければ……うっ」


「パパ!動かないで……!」


エリナの父親は、自分を庇って悪漢の暴力を受けている映太を助けるべく動こうとするが、先程受けた傷によって立ち上がる事すらできなかった。


エリナがこの最悪の状況をなんとかできるのは自分しかいないと理解するのにそう時間はかからず、意を決して彼女はその場から立ち上がり、取り巻きに近づく。


「貴方達……あの男を止めてください。」


「あぁ?」


エリナは取り巻きを睨みつけそう呟くが、彼らからすれば所詮女の子だとしか思わず、その提案を拒否する。


「そうだねぇ〜、さっきアイツが言った通り、お嬢ちゃんが俺達と気持ちいい事してくれるなら考えてやっても__」


取り巻きは鼻の下を伸ばしながらエリナに手を伸ばす。

その手がエリナの身体に触れようとした時、 彼女自身がその手を振り払った。

自分の手に僅かな痛みを感じた取り巻きは、怒りの混じった半笑いの表情を浮かべて拳を振り上げる。


「じゃあ、力ずくで分からせるしかないねぇ……!」


「エリナ……!」


取り巻きの拳はエリナに振り下ろされ、彼女の父親は咄嗟にエリナの名前を呼ぶ。

その光景を映太は悪漢による暴力を受けながら見ていたのだが、次の瞬間その場の誰もが想像しなかった事が起こる……。


「このメスガ___」


ドゴォォッ!!


鈍い音が響き、エリナに拳を振り下ろそうとしていた取り巻きは勢いよく吹き飛ばされ、建物の壁に身体を打ち付け気絶した。


「……え?」


映太の朧気な視界に写ったエリナは、瞳が紅く光っていた。

気を失っている取り巻きはエリナによって蹴り倒されたのだ。

さらに次の瞬間、彼女は2人目、3人目の取り巻きに手刀を叩き込み気絶させ、ジャン助の元に歩いていく。


「な……何なんだこのクソガキ……!?空手かなんかのプロか!?」


「ジャン助!そいつ止めて!バケモノよ!」


ジャン助の彼女は必死の形相で彼にそう呼びかけるも、それよりも速くエリナは標的であるジャン助との距離を詰めた。


「はっ……!?」


彼は突然自分の眼前に迫ってきたエリナに、攻撃の予備動作を構える隙すら与えられず、一瞬にして4回の拳打を急所に叩き込まれ気を失った。


「が……っ!」


これで悪漢とその取り巻きのうち、ジャン助の彼女以外の男性3人が倒された。

そしてエリナはジャン助の彼女を見据え、ゆっくりと歩いていく。


「……いやいやいやいや、知らないじゃん知るわけないじゃん!こんなバケモノだって分かってたら喧嘩なんて売るわけないじゃん!ただの女の子だと勘違いしてましたごめんなさい許して___」


必死に謝り許しを乞うジャン助の彼女。

しかし彼女がエリナの動きを認知する間もなく、エリナは彼女の背後に周り手刀で彼女を気絶させた。


「……エリ……ナ……ちゃん……?」


何故普通の女子高生であるエリナが悪漢3人を息もつかせぬ間に倒せる程の力を秘めているのか、映太には理解できなかった。

そもそも先程の動きはまるで人間ではなく、化け物のような動きだったと、薄れ行く意識の中で映太は思った。


「映太さん……!」


そんな映太の元にエリナは近づき、彼を介抱しようとするも、彼は限界が来た事により気を失ってしまった。


「エリナ……今、救急車を呼んだ。」


「ありがとう、パパ……。」


その後現場に救急車が現れ、映太は病院へと運ばれる事になった。

彼の乗る救急車にエリナも乗り合わせ、今の映太が自分に返事をしないと分かっていてもエリナは彼にこう質問する。


「貴方は……本当の私を受け入れてくれますか……?」



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