第6話「父と子供」

エリナに地雷を踏まれて爆発した映作と、それをいつもの事だとスルーする映太。

これが日本の日常……?と考えたエリナは、この空気をなんとか堪える事にした。


「暗くなってきたし、夜ご飯でも食べてく?」


「え、い、今?お父様は……?」


「あと数分で目覚めると思うから。」


「ならお言葉に甘えて……家族に電話しますね。」


そうしてエリナは映太の家で夕食を食べていく事になり、映太はキッチンで今日買った食材を調理しはじめた。


「〜♪」


映太は鼻歌を歌いながら夕食を調理する。

彼が作ろうとしているのはトマトスープとポテトサラダだ。

それと炊飯器でお米を炊いてある。


「……」


エリナは映太が夕食を作り終えるのをじっと待っているつもりだったが、自分も何か手伝える事が無いだろうかと思い、キッチンへと向かった。


「映太さん、何か手伝える事はありませんか?」


「え?手伝ってくれるの?ありがと!じゃあ味付けしてくれないかな。俺あんま良いもん食べてきてないから舌がバカでさ、エリナちゃんなら俺よりも良い味付けできるんじゃないかな?」


「まぁ料理の心得はありますが……。」


「じゃあよろしく!」


映太はエリナにトマトスープとポテトサラダの味付けを任せる事にした。

キッチンに並び立ち共同作業をする映太とエリナ。

この状況に対して映太は何とも思ってなかったが、エリナはと言うと……


(こ、この状況はまるで……新婚の夫婦さんでは!?ダ、ダメだよ!私達まだ高校生なのに〜……!!)


「まるで共同作業だな。」


「ひゃあっ!?」


「親父、起きたか。」


そこに映作が現れ、エリナは自分が考えていた事を見透かされたと勘違いして焦ってしまう。

映作は2人がどんな料理を作っているのか気になって鍋を覗いてみた。

その時である……。


「映太は相変わらず料理が上手いな!それにエリナちゃんもいるとなると、三ツ星レストランのシェフも顔負けの料理ができるんじゃないか?どれどれ……?」


「わ、私達はそういう関係じゃないですってば……!!」


「ぶぎゃーーーっ!?!?」


映作がトマトスープの鍋を覗いたその時、トマトスープがまるで火山の噴火のように噴き出し、それを覗いていた映作の顔面にクリティカルヒットしてしまった。


「お父様!?!?」


「親父!?」


「そんな、嘘、私のせいで……!!」


「エリナちゃんの……せい……?」


顔面に大火傷を負った映作を見て目元に涙を浮かべてひどく取り乱すエリナ。

彼女の言う「私のせいで」の意味を映太はこの時はまだ分かっていなかった。

だが映太にとってはその言葉の意味の方が、映作が大火傷をした事よりも重要だったのだ。

何故なら映作の大火傷はその程度の問題だったからである。


ベリっ


「え?」


「ふぅ」


「こいつ脱皮するんだよ。」


「え?」


映作は自ら顔面の皮を剥いで大火傷を無かった事にした。

その状況に再び困惑するエリナだったが、先程までの取り乱した様子から困惑が上塗りされ、彼女は平静を取り戻した。


「台所って危ねーな。俺テレビ見ながら待ってるよ。」


「そうしてろ。ところでエリナちゃん、さっきの「私のせい」って?」


「あ、え、えっと……後日お話します。」


「……おう。」


その場は取り敢えず大事には至らず、エリナの味付けによっていつもより美味しくなったトマトスープとポテトサラダが三条家の食卓に並んだ。



「ご馳走様でした。私はもう帰ります。」


「おう!またいつでも遊びに来てね!映太、エリナちゃんを送ってやれ。」


「へーい。そういう訳だから、エリナちゃんの家教えてくれないかな?」


「はい。私の家はこの辺りで……」


夕食を食べ終えたエリナは、映太に○oo○leマップで家を教えてそこまで送ってもらう事になった。

その道中で2人はその日の出来事を語り合う。


「親父にちゃん付けで呼ばれて不快じゃなかった?」


「い、いえ。」


「なら良いけど。」


「あの、お母様がいなくて……映太さんは寂しくないんですか?」


「別に?俺が物心つく前に出てったからな。寂しくなんかねーし、元お袋も俺を捨ててったって事は俺の事愛してなんか___」


「それ以上言わないでください!そんなの、悲しい……です。」


エリナは、それ以上悲しい事を言おうとする映太の手を引いてそれを止めようとする。

その意志を汲み取り、彼は話を変える事にした。


「悪かった。もう言わねーよ。でも、別に俺はそんな事どうとも思ってねーよ。今は今で退屈はしねーし、昔の事はどうでもいいと思ってるぜ。


それに親父はな、あんなんでも俺の事絶対に一人前の人間に育ててみせる!っつって1人で俺の学費稼いでくれて、ランドセルとか中学生高校で使うバッグとか教科書とかも親父が買ってくれて……親父のお陰で今の俺はあるんだ。


小説家やってるって言ったけど、それだけじゃ食っていけねーから他にも色んな仕事やってるんだぜ。」


「立派なお父様ですね……。」


「エリナちゃんのお父さんは日本料理を勉強してスコットランドに日本料理のレストランを開くんだっけ?それも立派な事だと思うぞ?」


「そう、ですね……私の誇りの父親です。」


2人は自分の父親の事を自慢に思っている、という形でその話題は落ち着き、映太が次の話題……自分の趣味の映画鑑賞に関する話題を持ち出そうとしたその時……。


「ところで__」


「金出せやくそジジイ!!」


バコォッ


「!?」


突然聞こえた暴言と鈍い音。

映太とエリナがその音がした方向を見てみると、そこには男性に暴力を振るう大男、そしてその取り巻き数人がいた。

エリナは暴行を受けている人物を目を凝らして確認し、その顔を見て唖然とした。


「うわっ、治安悪いなー。」


「あれは……!」


彼女は即座に彼らの元に駆け出し、映太は突然駆け出したエリナに驚きその後を追う。

悪漢の暴行を受けていた人物、彼はエリナの……


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