第5話「事情のある親子」

ブラッドレイン三姉妹が映太達の学校に来てから3日が経過したある日の事である。

映太は放課後、自分の住んでるマンションの近くにあるスーパーに食料の買い出しに来ていた。

そこで彼はエリナと遭遇する。


「ちょっと多く買いすぎたかな……。」


「え、映太さん?」


「エリナちゃん。こんな所で会うなんてね。」


「偉いですね、お使いなんて……。」


「いや、ウチの買い物係は俺だから。エリナちゃんはこんな所で何してるの?」


映太にそう聞かれたエリナは、自分の目的を悟られないようにそれらしい理由をでっち上げた。

彼女はその目的を映太に素直に言うのがちょっと恥ずかしかったのだ。


「わ、私はエルザからお使いを頼まれたんです。欲しい食玩があるとの事で……(言えない!近くのたこ焼き屋さんで買い食いしてたなんて……!)」


「あ、〇だこでたこ焼き食べたの?歯に青のりついてるけど。」


「〜〜〜っ!」


だが映太は勘が良く、エリナの歯についている青のり、そしてこの辺りに〇だこがある事を知っていた彼は即座にエリナがここにいる理由を当ててみせた。


「お、女の子にそんな事……言わないでください!」


「わ、悪かった!デリカシーが無かったよな!」


エリナは顔を赤くしながら映太をぽこぽこし、映太は彼女に謝罪するが、その時映太が持っていた買い物袋に穴が空き、そこからトマトがこぼれ落ちべちゃっと音を立てて地面に落ちてしまった。


「あっ……。」


「トマトが……!ご、ごめんなさい!せっかく買ったものが……私に弁償させてください!」


「いやいいよ……ってエリナちゃん?」


「弁償します〜!」


今度はエリナが映太に謝る事になり、映太は特にエリナを責めようとはしなかったが彼女はスーパーの中へと入り、5分でトマトを買ってきた。


「どうぞ!」


「あ、ありがとう……。」


「あと映太さんの家まで袋を私に持たせてください!」


「そこまでする?」


「私の心境の問題なんです!」


映太へのお詫びをしたいエリナは、彼が2つ持っていた袋のうち1つを手に取り、彼の家まで自分が持ち運ぶ事にした。

こんな事をされた映太は逆に自分が申し訳ない気持ちになるも、今はとりあえず彼女の意志を尊重する事にする。


エリナは映太について行き、15分ほどかけて彼の家にたどり着いた。


「袋重くなかった?」


「軽かったですよ。今日はいつもより調子良いので。」


「それなら良かったけど……。」


エリナの言葉を聞いて安心した映太は部屋の扉に手をかけようとするが、それよりも早く部屋の内側から扉が開けられた。

扉を開けた人物は……。


「おっ、親父。」


「映太……そういや今日は買い出し行ってたんだったな。その子は?」


「は、初めまして!私はエリナ・ブラッドレインと申します。3日前に映太さんの学校の映太さんのクラスに転校して、彼とは友人の関係です。」


映太が親父と呼んだ人物は、無精髭を生やしており服装はシャツにジャージのズボン、そして気だるげな表情と、エリナにとっては少し不気味なように見えたが、自分が映太と友人である事を教えると……。


「そうかそうか!映太の友達か!よろしくな!俺は三条映作。映太の親父だ。よろしくな!」


「よ、よろしくお願いします!お父様!」


映作に対して身構えていてエリナは、口を開くと案外気の良さそうな人物だと分かると一安心した。

だが、彼女が言った「お父様」の言葉に映作は……。


「お、おとうさま……おとうさま……だって……?」


「え……?」


「お……「お義父様」だって……!?」


「親父が想像してるのとは違うと思うぞ。」


映作の脳内では「お義父様」と変換れていたのだ。

それを見抜き即座にツッコむ映太。


「おおおおちおちおちちち落ち着け俺!映太はまだ15だぞ?フィアンセなんて早すぎる……!」


「フッ、フィアンセ……!?私はそういうのじゃないです!まだ!」


「……」


妄想を膨らませ勝手に焦りだし映作とエリナ。

映太は、自分は何を見せられているんだ……と思いつつもなんとか2人を落ち着かせて、とりあえずエリナにお茶でも淹れる事にした。



「ふぅ……」


「っつー訳でエリナちゃん、俺は小説家の親父と一緒にこのマンションに住んでる訳。俺に兄弟とかはいない。こんな小さな部屋で暮らしてるけど、親父の両親……ばぁばとじぃじが俺の為に仕送りしてくれてるから不便はしてないかな。」


「なるほど……。」


お茶を飲んで落ち着いたエリナに、映太は改めて自分と映作の事を簡単に紹介する。

エリナはそれを聞きながら部屋をまじまじと観察し、DVDの入った○SU○AYAの袋が近くに置かれたテレビや、それなりに整えられた本棚を見て映太の普段の生活の様子を想像する。


そして、映太の言葉を聞いたエリナは気になった事を2人に質問する。

それが2人……というか映作にとっての「地雷」だとも知らずに……。


「お母様はどうしてるんですか?」


「ヴッ!!」


エリナの質問を聞いた映作は胸を抑えて倒れてしまった。

だがそれを見てもどうともしてない映太。


「え、映作お父様ーっ!?」


「大丈夫大丈夫、コイツ元お袋の話されるといつもこうなるけど、すぐに元に戻るから。」


一体これはどういう状況なんだ……と困惑しつつも、エリナは自分を落ち着かせて映太に質問をする。


「お、お母様は……一体……というか、「「元」お母様」……って?」


「__俺が小さい頃、別の男と浮気して親父捨ててどっか行った。」


映太はエリナに対して、いつもと変わらない明るい表情でそう答える。


「ッ……!」


エリナは三条家の闇に直に触れた事で目眩がしてしまうも、映太は映作の事など気にも止めずにお茶を飲む。

この空気の中で彼女が思った事は……


「帰りたい!!」


そりゃそうだ。



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