第4話「絆」

映太は自宅に帰宅し宿題を済ませた後、すぐにエリナから借りた「ホワイト・マジシャンと赤い秘石(前編)」を読み始めた。

彼は父親と一緒にマンションの一室に住んでおり自分の部屋はそう広くはないが、そんな暮らしも慣れればあまり苦ではなくなった、と言うのが彼の心境だ。


「なるほど……冒頭のシーンから違うのか……このセリフは映画には無かったな……。」


映太は本を読み進めていく度に映画と原作の違いを次々に見つけていき、夜ご飯を食べた後もその本を読み続け、気がついたら……



「エリナちゃん、この本読み終わったよ。」


「え!?もう読み終わったのですか__ッ!?」


翌日、学校にて自分に本を返しに来た映太の顔を見たエリナは、思わず彼の顔を見てこう呟いてしまった。


「これが日本の歌舞伎……!」


「いや、クマドリじゃないから。ただのクマだから。」


そう、映太はホワマジを読む為に徹夜したのだ。

目の下に濃いクマが浮かび上がる程に。


「くくくっ……映太のあの顔……!」


「だ、だ、ダメだよ笑っちゃ……ぶふっ」


翔子と清司は今朝の映太の顔を見るなり思わず吹き出してしまい、遠目から彼の顔を見て笑いを必死に堪えている。


「帰ってからすぐ読み始めたんだけどさ、めっちゃ面白くて深夜の3時までかけて読み終えちゃったよ。」


「この本の分厚さ見て分からないんですか!?こういうのは小分けにして読むんですけど!!」


「そ、そんな気はしてたけどさ……エリナちゃんと早くこの本について熱く語り合いたかったから!」


映太はエリナに本の読み方を指摘されるも、徹夜した理由を簡潔にエリナに説明する。

それを聞いたエリナは彼に対する申し訳なさを感じてしまい……。


「それじゃあ、私が映太さんにその本を渡したから映太さんが寝不足に……!」


「エ、エリナちゃん?」


「ご、ごめんなさぁぁぁい……!貴方の時間を奪ってしまってぇぇ……!」


エリナは突然映太に謝りながら泣き出してしまった。

映太はそんな彼女を前にして、自分は女の子を泣かすなんてなんて事を……!と思い、咄嗟に彼女に謝罪する。


「え、えっと、ご、ごめんエリナちゃん!悪いのはこういう本の読み方を理解してなかった俺だから!」


「だ、大丈夫か?」


「おーよしよし。怖くない怖くない。」


そこに翔子、清司、エルザ、エルシャナが駆け寄ってきて、エルシャナが泣きじゃくるエリナを抱き寄せて彼女を落ち着かせようとする。


「あのー、エルザちゃんにエルシャナさん……エリナちゃんを泣かせてすみませんでした……。」


「映太クンは悪くないデース。この子はどんな時も弱音を吐かない、というか吐けない性格で……新しい環境、新しい友達、激しい変化でストレスが溜まってたでしょうに……きっとそれが爆発したんデス。」


エルザはエリナの性格をそう説明した。

それを聞いた映太は、彼女に言うべき事は謝罪ではなかったと理解し、改めてエリナにこう言う。


「エ、エリナちゃん。」


「……はい?」


「人は皆初めての環境だと緊張するのは仕方ない事だと俺は思うんだ。だけどエリナちゃんは頑張ってこの新しい環境に馴染もうとしたんでしょ?」


「……はい……。」


「それってスゲェ事じゃん!スコットランドと日本とじゃ言語とか生活様式とか、何から何まで違うだろうに、エリナちゃんはホント凄いと思うよ!」


先程まで目元が赤くなるまで泣いていたエリナだったが、彼女の罪悪感を拭いさり、自信を持たせる為に映太の口から発せられた言葉を聞いた彼女はいつもの調子に戻った事を周りにアピールする。


「エルシャナ、もういいよ……映太さん、ありがとうございました。貴方の言葉で少しは前を向けるような気が……します。」


「そりゃ良かった!」


「2人とも仲良くなったみたいだね!」


「な、仲良く!?そ!そういう訳じゃ!」


「えっ!?違うの!?ショック〜!」


エルザの言葉を脊髄反射で否定するエリナ。

それを聞いた映太はショックのあまり膝から崩れ落ちてしまう。


「いや、あの、違くて!友達としては仲良しになったと思います!友達!として!」


「マジ?良かったー!」


だがエリナの言い分を聞いた映太は即座に立ち上がり、普段の明るい笑顔を取り戻す。

それを見たエルシャナとエルザは一安心し、エルザはエリナに抱きついてこう言った。


「もーエリナちゃんは不器用なんだからー!」


「あの、エルザさん……喋り方がいつもの「外国人が喋る日本語」みたいな喋り方と違うような……。」


エリナの喋り方を聞いた翔子は思わずそうツッコんでしまった。

何せ今のエルザの喋り方は普通に日本語を話せてるみたいだったからだ。

その指摘を受けたエルザは一瞬背筋が凍ったような表示を浮かべた後、脳内で「家族と話す時のモード」から即座に「外国人キャラモード」にスイッチを切り替えた。


「あ……もー!エリナちゃんは不器用なんデースからー!」


「流石に無理があるような……。」


「うわ〜ん!私は所詮養殖物デース!!」


今度はエルザが不機嫌になり、それをエルシャナが慰める事になった。

その様子を見て「この3つ子色々と大変だなー」「そういうキャラもあり!日本人はあらゆるフェチを受け入れる!」と考える翔子と清司。

その一方で映太とエリナは……。


「あの、映太さん……。」


「何?」


「貴方は本当の私を受け入れてくれますか?」


エリナは勇気を振り絞って映太にそう聞き、映太は一瞬「どったの急に?」と思ったが、その後すぐ彼女に答えを告げた。


「当たり前だろ。エリナちゃんはエリナちゃんだもん!」


「ッ……!!」


映太から帰ってきた答えは、エリナにとっては照れくさい答えだった。

なので彼女は照れを隠す為に映太をぽかぽかと叩いてしまう。


「ん〜っ!」


「な、何何?」


映太は、一体どういう感情?と戸惑いつつもそれを受け入れ、今はただエリナと仲良くなれた事が嬉しかった。


そんな彼がエリナ、そしてブラッドレイン家の秘密を知った時、彼はどう思うのだろうか__



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