第50話 お姉さん

学園祭の会場を離れた後、九条勝人が俺を誰かに会わせると言ったので、彼について学校の静かな角へと来た。


ここは学校の寮の一つのようだが、もう使われていない感じがする。


全体的に西洋式で陰気なスタイルだし、中に何か吸血鬼きゅうけつきが住んでいてもおかしくない。


「誰に会わせるんだ?」


この場所、まるで人を殺して埋めるのにぴったりな感じがするけど。


「私の姉、九条夏紀だ。」九条勝人が言う。


お前の姉さんが廃寮に住んでるのか?まさか吸血鬼じゃないだろうな?


九条勝人は俺の疑問を察して説明した。


「実は九条家も芸能界ではかなりの名家で、両親は名誉を非常に重んじる人たちだ。」


「だからあの事件の後、両親は姉との縁を切ったんだ。」


九条勝人がそう話す時、顔には消えない陰があった。


「縁を切るなんて、本当に必要だったの?」と俺は聞いた。


「わからない…多分、親にとっては泷上家との関係を保つ方が大事だったんだろう。その時、姉は刃物を持って泷上家に復讐しようとしたからな。」九条勝人が言う。


お前の姉ちゃん、本当に勇敢な女性だな。


「その後、俺が自分のコネを使って、姉がこの学校で庭師みたいな仕事をすることになったんだ。」


九条勝人は俺を連れて寮の中に入った。


確かにこれは使われていない寮で、大広間にはほこりと蜘蛛の巣がいっぱいで、人が住んでいる形跡はまったくない。


でもその時、誰かが提灯を持って階上から降りてきた。


「勝人か!友達を連れてくる必要なんてなかったと言っただろう。」


話しているのは勝人の姉、九条夏紀に違いない。


彼女が今着ている作業服と、頭にかぶった麦わら帽子を見て、彼女は女優よりもむしろ普通の農家の少女のように見える。


「秋は私にたくさん助けてくれたから、少なくとも彼に全ての事情を知ってもらう必要があると思うんだ。」九条勝人が言う。


「全ての事情とは、私が早めに引退して隠居生活を始めたことさ。」


九条夏紀は意外にも非常に穏やかな態度だった。いや…この態度を穏やかというよりは、もう諦めて放棄したという方が正しい。


「勝人、お前も友達を変な争いに巻き込むな。今ここに住んでいるだけで十分だ!」


「毎日野菜を育てたり、小動物を飼っているんだ。」九条夏紀が言う。


「でも姉さん!あの事件がなければ、今芸能界のトップにいるのは姉さんのはずだ。こんな暗い場所に住むのではなくて…」


九条勝人の感情が突然高ぶり、私は彼の肩を手で押さえて彼を落ち着かせた。


「帰ろう、勝人。そしてその友人君…ずっと我が家の勝人を面倒見てくれてありがとう。また時間がある時に来て、新鮮な野菜をごちそうするよ。」


九条夏紀はもう弟と話す気がないようだった。


九条勝人も落ち着いて、その寮を去った。


俺も多くは話さず、彼に付いて行った。


「すまない、秋…お前に笑われるようなことを見せてしまって。」九条勝人が言った。


「大丈夫だよ、むしろお前は宿舍で少し休むべきだと思うよ。」


俺の提案に、九条勝人は何も言わずに先に宿舍へと戻った。


俺は夜食を少し買ってから宿舍に戻る予定だった。


でもあまり遠くに行かないうちに、細い人影が道の果てに立っているのを見た。


その人影を見た瞬間、全身が寒くなり、その場で動けなくなった。


終わった…終わった…終わりだ!泷上怜奈この雪女が命を取りに来た!

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