第48話 義兄

でも大礼堂のサイドドアを出てすぐ、階段に座っている羊宮隼人を見つけた。


彼は地面が水たまりであることを気にせず、僧侶のように遠くをじっと見て座っていた。


「どうしたの?そんなに苦しそうな顔して」と、俺は羊宮隼人の隣の階段にきれいな場所を見つけて座りながら言った。


「俺はお前と怜奈ちゃんが一緒になるように祝福したんだろ?」


祝福?羊宮隼人はそうは思っていないらしい。


俺は怜奈ちゃんが会場から走り出す時のその表情も見た...完全に俺に心を動かされたんだ!


「どうしてそんなに暗い顔をしてるのかって聞くのか?」羊宮隼人は少し苦しそうに言った。「お前の歌でみんなを鬱にさせたのに、どうしてそんなににこにこしているんだ?!」


俺はどうしてにこにこしているのか?


だってお前の妹を口説くつもりだからさ!


まだ彼はさっきの対決で、怜奈ちゃんが本当に俺に心を動かされたことをよく理解している。


だから、今は怜奈ちゃんが俺に告白して、俺と怜奈ちゃんが本当に付き合い始めることを恐れているのかな?


残念ながら…


羊宮隼人がひとりで落ち込んでいる間もなく、俺が先に口を開いて自分の考えを言った。


「俺、引くことにしたんだ。」と俺が言った。


「え?引くの?」と彼が驚いて言った。


羊宮隼人は俺の決断に少し驚いて、しばらくためらってから言った。


「桐谷!怜奈ちゃんがもしかしたら…ちょっとお前のことが好きになっているかもしれない。」


え?まさか自分のライバルに正直なことを言ってくれるなんて?


羊宮隼人は確かにバカだけど、悪い奴ではない。


むしろ、ちょっとお人好しすぎるくらいのいい人だ。


残念ながら…


「怜奈ちゃんが本当に俺のことを好きだとしても、彼女の両親が許すはずがないから、今引くのが最善の選択だとわかる。」と、俺の声は少し寂しそうだった。


羊宫隼人はそれを聞いて、本当にそうかもしれないと思った!


俺は自分を解放したのだ。


羊宫隼人は泷上怜奈の家柄をよく知っている。


彼は泷上怜奈の父親との知り合いを利用して無理やりカップルになるかもしれないが、俺が本気で泷上怜奈を追うのは本当に難しすぎる。


泷上怜奈が少し俺のことを好きになったからと言って解決できる問題ではない。


そう考えると、羊宮隼人の気持ちは急に晴れやかになり、思わず笑顔がこぼれた。


俺が引いたからって、お前が怜奈ちゃんと一緒になれると思ってるのか?


少年よ!過去十年の失敗した人生を思い出してから、まだ笑えるのか?


もう彼をからかう気にもなれないで、ただ羊宮隼人の肩に手を置いて言った。


「だから兄弟、俺が引く前にちょっとわがままなお願いを聞いてくれるか?」


「何のお願いか言ってみな、絶対手伝うから。」


羊宫隼人も真剣になった。


彼の経験からすると、俺のような一途な男が最後にする願いは、「あの子をよろしく」「彼女は体が弱いから冷たい水はダメ」「朝には温かいミルクを忘れずに温めてあげて」など、泷上怜奈への最後の世話や心配事だろう。


でも、俺が言おうとしているのは…


「お前の妹の連絡先ちょっとくれ!」


まるでプロポーズをするかのような真剣な表情で言った。


「え?ええっと…ゴホゴホゴホ…」


俺のこの一言で羊宫隼人は自分の唾を噎せ返った。


彼は咳を止められず、俺が彼の背中を叩いてようやく落ち着いた。


「何て?」


「お前の妹、乃音、映画を見た時にお前を殴った高校生、彼女の携帯番号知ってるだろ?ダメならLINEでもいい。」と俺は付け加えた。


「お前…お前……」


羊宫隼人は言葉が喉に詰まりながらもようやく俺の意図を理解した。


「お前、俺の妹を口説こうとしてるのか!?」


「口説くって言わないでよ、追うんだ、そう!俺はお前の妹を追いたいんだ!これから俺はお前を義兄と呼ぶからな!」


この時点で俺も隠すことなく、自分の意図を直接告白した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る