第45話 愛の言葉·1
「『成全』っていう曲名はどういう意味?曲名は『愛してる』、『あなたが好きです』とかじゃないの?」
花岡さんが泷上怜奈に戸惑いながら尋ねた。
泷上怜奈も呆然として、ステージ上の俺を見つめた。
この瞬間から、俺の目はもう彼女を見ていない。遠くのスポットライトを見上げていた。
そうだな、成全って何の意味だ?今、告白すべきじゃないのか?まるで『愛してる』という明るいラブソングのように。
でも違った。マイクを取る瞬間、会場には切なく低いチェロの前奏が流れた。
この前奏は何か告白の曲のそれではなく、とても悲しいものだった。
舞台裏のスクリーンには、この曲の最初の歌詞が表示された。
「あなたと彼が私の前に来て、久しぶりと笑って言った。」
その歌詞を歌い始めた瞬間、ステージ下のざわめきもぴたりと止まった。
俺の歌声が夜の会場に響き渡り、小さな小さなことを語るかのように空虚で幻想的で優しい。
その一節だけで、俺の声はその場にいた全員を魅了した。
でも、もっと多くの人が歌詞の意味を味わっていた。「あなたと彼?」この歌は一体誰のことを歌っているの?
理解できない人もいて、少し困惑していた。
でも幸いにも高坂さんはその歌を一瞬で理解した。
彼女は手で口を覆いながら、泷上怜奈と羊宮隼人の方を見た。
「怜奈ちゃん…」
高坂さんが何か言おうとした時、俺はもうその話を続けていた。
「もし初めに私の成全がなければ、今日まだ元の場所でぐるぐるしているのかな…」
その二番目の歌詞が歌われた瞬間、皆が理解した。
これは確かに告白のラブソングだが、ただの失敗者の告白の歌だ。
いや…違う、失敗者じゃない。
「無理に馬鹿げたプライドのためにじゃない。」
その一節を歌うとき、俺は再び泷上怜奈と、彼女がどこに投げたかも分からないその小豆粥のカップを見た。
「全ての悲しみを別れの日に捨てて、必ずしも永遠だけが愛とは限らない。」
その部分を歌う時、俺は調子を速めた。
「一人の成全は、三人のもつれよりマシだ。」
一人の成全は三人のもつれよりマシだ。
恋愛を手放したように見えるこの歌詞が、瞬間的にすべての聴衆の心を掴んだ。
似たような感情体験を持つ先輩たちの表情は完全に固まってしまい、中には胸を抑えたり、目から涙がこぼれたりしている人もいた。
成全?誰が成全したいんだ…女の子が好きでも男の子が好きでも、この世の誰が彼らを自分の側に置きたくない?
でも、それができない!できないんだ!
できない理由はいろいろあるが、自分が十分でない、その子に相応しくない。でも、一番の理由は彼女がお前を好きではなく、お前よりも優れた人を好きだからだ。
その時、お前に何ができる?
彼女のそばにしつこく留まるのか?
それは本当に醜いし、そうやってしつこく続ける人もいるだろうが、どれだけ持続できる?
誰もがわかっている。彼女にとって最良の選択は、主動的に手放すことだ。どんなに不甘でも、どんなに苦しくても。
でも、この世の誰がそんなにさっぱりと自分が好きな女の子を他の人と一緒にいさせる成全ができるだろうか?
「お前に捧げた青春は長い年月で、それに対するお礼はただの一言、『成全してありがとう』だ。」
俺の次の歌詞もまた全員の心に響いた。
お前の目には俺の良いところはそれほど重要ではなく、当然とされている。お前の悪いところは全部俺が受け入れて、不公平だとは思わない。なぜなら俺はお前が好きだから。
そんなに長い間苦労してきた付き合いも、お前が好きなその人の一言の甘い言葉には敵わないかもしれない。
俺が次に歌うように。
「彼がお前に誓った山のような愛の言葉、俺には…ただ一言の後悔のない『成全』だけだ。」
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