第37話 歌う
学園祭が近づいているため、俺は夜の時間も出して、公演のリハーサルに充てなければならない。
リハーサルの場所は学校の音楽教室で行われる。
俺と九条勝人がここに来たとき、教室にいたのは全員女の子だった。
これは何だ?九条勝人、お前のハーレムか?
そんな失礼なことは心の中だけで思っておく。
音楽教室にいるのは全員音楽系の先輩たちだ。
九条勝人は学校での女の子からの人気が高いため、今回の公演で呼んだサポートも全員女の子であることは理にかなっている。
「勝人、学園祭がもうすぐだけど、何の曲を演じるか決めたか?」
話しているその先輩は、俺の記憶では
彼女と九条勝人の関係はとても親密だが、恋人同士の関係ではない。
説明するなら、もっと戦友のような関係か?
「決めたよ、この桐谷さんが自分で作った曲で、彼が今回の公演のメインボーカルだ。」九条勝人が俺を指差して言った。
その時、俺は急いで在場の先輩たちに軽く頭を下げて挨拶した。
しかし、宇佐美さんは九条勝人の決定を聞いた後、彼を引っ張って音楽教室の隅に連れて行った。
「自分たちで作った曲!?勝人、お前は彼に自分の状況をちゃんと説明していないのか?」
「勝人の状況?」
不運にも、この音楽教室はそれほど広くない。
だから宇佐美さんの声がはっきりと聞こえてしまう。
「ごめん宇佐美、確かにまだ彼には話していなかったが、今からでも説明する時間はある。」
九条勝人は少し気まずそうに俺の前に歩み寄って続けた。
「秋、前に言ったろ、この学園祭の公演は、私の敵に見せるためにやりたいんだって。」
「それは覚えてるよ、では具体的な状況はどうなの?」
今になって気づいたけど、この親友について知っているのは彼の女の子にモテることだけだ。
「この話は数年前から始まるんだ。」
九条勝人がそう言って、それほど長くない話をしてくれた。
しかし、驚いたのは…その話が羊宮隼人の過去と関連があることだった。
数年前に芸能界を騒がせた女優の自殺事件が、羊宮隼人の父親の死につながった。
その事件にはもう一人の女優も被害者で、それが九条勝人の姉だ。
「お姉さんが…」と聞いて、俺の中に不吉な予感がわき上がった。
「姉はまだ生きているが、自殺したその女優は彼女の親友だったんだ。」
九条勝人は非常に落ち着いた口調でゆっくりと話した。
「当時、姉はその友人のために復讐をしようとして、当事者を衝動的に殴ったんだ。」
「その結果、姉は引退を余儀なくされたが、当事者は何のこともなく、今でも芸能界で非常に人気がある。」
「そして今。」
宇佐美さんが隣で補足した。
「その
俺は黒川骏一という役者を少し覚えているが、彼はもともと歌手だった。
しかし、多くの人気映画やドラマに出演して、役者としても非常に評価されている。
とにかく、今の芸能界で最も人気のある男性アーティストの一人だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「だから、勝人、お前がステージに立つのは彼に復讐するためか?」と俺は続けて聞いた。
「復讐とは言わないな、ちょっとした抵抗、あるいは警告と言うべきかな?」
その時、九条勝人は自嘲の笑みを浮かべて言った。
「学園祭のステージで、名声のある歌手のパフォーマンスが、学生のそれに及ばないとしたら。」
「もし本当にそうなったら、あいつは公衆の面前で自分の面目を失うだろう。」
確かに…九条勝人が学園祭でやろうとしていることは、復讐というより、
子供っぽい意地の張り合いのようなものだ。
でも、九条勝人のその恐ろしい表情を見て、これが彼にとっての始まりに過ぎないことが感じられる。
彼はいつかその男に重い代償を払わせるつもりだ。
「それじゃあ、学園祭での俺のパフォーマンス、頑張らなきゃな。」と俺は言った。
「これは努力する問題じゃない!」
その時、宇佐美さんが我慢できずに言った。
「もともと学生の歌唱力で、長年の名声を持つ歌手に勝つなんて無理な話だ!しかも自分で曲を書いて歌うなんて?」
学生の歌唱力に加えて、学生自身が書いた曲で、どう考えても長年のプロの歌手には勝てないよ!
「とりあえず秋が書いた歌を見てみよう、失望はさせないから。」
九条勝人が俺が書いた楽譜を宇佐美さんに渡して言った。
「彼が書いた歌?勝人から聞いたけど…学園祭で告白するつもりか?!私は告白の歌が一番苦手だ!」
宇佐美さんはそのような陳腐なラブソングをあまり好まないようだ。
しかし、俺が書いた歌を見た後、彼女はそのメロディと歌詞を軽く口ずさんで…
なんと…泣き出したんだ。
俺には歌作りが分からないが、一度だけシステムから完璧な歌作りのチャンスが与えられた。
この曲は前世の中国の歌「
この歌は、好きな人の感情を手放し、苦しい気持ちでその人が他の人と一緒にいることを祝福する内容だ。
宇佐美さんはその二行の歌詞を止めどなく歌い出した。
「彼があなたに約束した永遠と甘い言葉、でも俺には後悔しない「応援する」の一言しかない。」
「あなたのためにこれほどの青春と時間を費やし、最終的には「あなたの応援するに感謝します」という一言で報われた。」
「うううう…」
宇佐美さんはそれを歌っているうちに、涙を止められなくなった。
彼女の顔には「くやしい」という表情が浮かんでいた。
「宇佐美さん、どうしたの?」と俺は九条勝人に小声で尋ねた。
「彼女は最近、付き合っていた10年間の彼氏と別れたんだ。しかも、男が浮気しているのを彼女に見つかったそうだ。」と九条勝人が小声で言った。
なるほど…だから宇佐美さんがこんなにも悲しく泣いていたのか。
この歌はまさに彼女の人生を歌っているんだ!
彼女は彼氏にこんなにも多くを捧げたが、結果としては他の女性に奪われた。
「じゃあ、学園祭でこの歌を演じることに決めた!」と宇佐美さんは涙を拭いながら言った。「あなた!ちゃんと歌ってよね!この歌を学校中、いや、東京中、日本中に流行らせたいの!」
「了解…」
俺は宇佐美さんの気迫に圧倒された。
どうやら学園祭での公演は、絶対に失敗できないもう一つの理由が加わったようだ。
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