第5話 真の主役

明後日、俺が参加する学生美術展の開催日だ。


この学院は本当に今回の展示会を重視しているみたいだ。わざわざ美術館のスペースを空けて、俺たちが提出した優れた作品を展示しているんだ。


参加者も皆、そんじょそこらの人たちじゃなくて、訪れる人たちにはいくつかの有名な芸術家や地方議員もいるみたいだ。


作品が選ばれた俺たちも、自分の作品のそばで期待に満ちた顔をして待ってる。


この時、先生たちや訪問者たちからの賞賛を得られれば、学校内で一年中自慢できる話になるんだろうな。


俺の「星夜せいや」ももちろん選出された。選考する先生も少しは眼識があって、「星夜」の非凡な部分を感じ取ったみたいだ。


そのため、「星夜」は一目で素晴らしいと感じるような作品を美術展の目立つ場所に置いてくれたんだ。今日の主役作品「海鷗かもめ」のそばにあるんだ。


「海鷗」は長平先輩の作品で、早々に理事長によって今回の美術展の絶対的な主役と内定されていたんだ。


その時、間違いなく多くの人々が「海鷗」の前で賞賛の言葉を並べるだろう。


しかし、これらはすべて冷徹な舐め犬である俺とは関係がない。


現在、俺は美術館の隅で、手にはミネラルウォーターやドリンクの大量を抱えて立っている。コーヒー、コーラ、烏龍茶に至るまで、合わせて8、9本のようだ。


俺はそれらを全部抱えていると、まるでカンガルーのようだ。


そして、俺の前に座っているのは、そのシステムによって指定された金鉱…違う!俺の女神、星野未来だ。


星野未来の表情は少し陰りがあり、目つきも少し恐ろしい。彼女がこのような表情を見せるのは俺のせいではない。俺は彼女の「手の中のおもちゃ」で、もちろん彼女にこのような表情をさせることはできない。


星野未来がこんなに怒っているのは、名目上の彼氏であり、今回の美術展の主役である中尾長平なかお ちょうへい先輩の周りにいくつかの女の子がいるからだ。


「本当に腹立たしい、1時間遅れただけで、先輩のそばに入れないなんて!先輩の周りになぜこんなに多くの女性がいるの!」って、星野未来は歯を食いしばりながら、一人の先輩と楽しそうに話している中尾長平先輩を見ていた。


昨日までその先輩は彼女を星野ちゃんと呼び、絵が売れたら一緒に渋谷で思いっきり楽しもうと言っていたんだ。


結果、今日彼の周りにはたくさんの「星野ちゃん」がいるんだ!


俺はこの光景を見て小さくため息をついた。あなたが舐めた「女神めがみ」は実は別の「男神だんしん」の舐め犬だ、この世界は本当に不思議だよ。


「星野ちゃん、自動販売機の水を全部買ってきたよ、何が飲みたい?」って、俺はこの女性からの金鉱をしっかりと掘り尽くす時間があるんだ。


星野未来は俺を少しイライラした目で見たが、イライラしながらも「コーヒー」と言った。


俺は缶コーヒーを一つ渡した。彼女がこの缶コーヒーを欲しがったのは、彼女がコーヒーが好きだからではない。純粋にその缶コーヒーが俺の抱えている中で一番外側にあり、俺の体との接触面積が最小だったからだ。


「400円の報酬を受け取りました」


今回の舐めによる報酬は高くないが、俺にも理解できる。星野未来は今…中尾長平先輩の周りにいるその悪い女性たちによって気分が悪いんだから!


あなたの「男神」にそんなに多くの代替品がいるのは俺のせいではない!


代わりになる自覚を持て、少女よ!俺を見習え!


俺は横で文句を言いつつ、今回は自分が損をした気がする。手に持つこの飲み物の束は、俺が1000円以上も出して買ったものだ。


この女性は最低でも1000円をくれて、自分が舐め犬として受けた精神的損害を補填してくれるべきだ。


もっと金鉱を掘り出す方法を考えなくては!


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「星野ちゃん、中尾長平先輩を呼んでこようか?」って俺が試しに聞いてみたんだ。


立派な舐め犬として絶対に言っちゃいけないセリフってのがあるんだよね…


「あの男のことは気にしないで、俺がいるよ」


あるいは…


「あいつは本当にろくでなしだ」みたいな言葉!


舐め犬、そして控えめな立場をちゃんと理解する必要があるんだ。


彼女の『男神』がどんなに乱暴に彼女を扱っても、俺この代替品よりずっと良いものだ。


だから正しい選択は…「女神」の「男神」を引っ張ってくることさ。


「必要ないわ、彼に悪い印象を与えるから」


星野未来は結構頭がいいんだ。


今、中尾長平先輩は理事長と話している最中で、無闇に声をかけるのは自殺行為みたいなもんだからな。


「800円の報酬を受け取りました」


いいね!精神的損失費用はこっちに、400円多くくれたから、もう一回何かしてあげるか!


「それじゃ、先輩のそばのその学姉たちを引き離してあげようか?」って俺は引き続き策を練ってみたんだ。


「あなたにできるの?いらないわ…余計なことはしないで!」


星野未来は俺に早く立ち去るように手を振った。


でも、遠くで理事長と話してた中尾長平が突然、美術館の隅で座ってる星野未来に気づいたんだ。


彼は顔を明るくして星野未来の方へ歩いてきたんだ。


星野未来の元々不機嫌だった表情はこの瞬間、喜びに変わったんだ。


でも、俺が隣にいるのを見ると、さらにうっとうしそうだ。


「ちょっとどいてくれる?邪魔なの」


星野未来は直接、イライラと手を振って言った。


「わかったわかった!」って俺はすぐに美術館の片側に走ってったんだ。


「あなたの絵画スキル+1」


この報酬を見て、ふと思ったんだ…


もし中尾長平先輩をこの女の寮に縛り付けたら、どれだけの報酬がもらえるかな?


やめとこうかな、縛るための道具を買うのは面倒だし。


「星野!」


中尾長平先輩もイケメンでさ、学校でも名声のあるヤツだ。


俺の記憶だと、この男の彼女は毎日変わるタイプだ。


「先輩、話し終わったんですか?」って星野未来はちょっと興奮して立ち上がって、俺がさっき渡したコーヒーを一口も飲まずにゴミ箱に捨ててさ。


「まだ話してるよ、こっち来て一緒に聞いてみて。君にもいいかもしれないよ」って中尾長平先輩が言ってさ。


「いいわよ!」って星野未来は中尾長平先輩の隣にすり寄ってさ、直接理事長の方へと歩いて行ったんだ。


俺は二人を見て再び考え込んだよ。困ったな…


もし本当にこの金鉱が中尾長平先輩と一緒に旅行に行っちゃったら、俺はもう金を掘ることができなくなっちゃうじゃないか?


やっぱり、ある時に先輩を縛り上げるべきか?


縛るための道具はよく考えたら簡単に手に入るし、コンビニで買えるし。


縛り上げて川に沈めたら、この辺りの川は流れが速いから、きっと誰にも見つからないよ。


でも、俺のこの考えはすぐに消え去ったんだ。


その理由は、中尾長平が理事長の隣に戻った時、理事長の隣にいるある芸術家の視線がもう中尾長平の「海鷗」から離れて、「海鷗」と三、四つの展示枠を隔てた「星夜」に固定されていたからだ!


その芸術家は羽織を着た老人で、周りの人々のお世辞を気にせずに「星夜」の前に素早く歩いて行って、細かく観察した後、その驚きが次第に夢中に変わったんだ。


おそらく所謂の一目千年、魂を直撃する感じがこれなのだろう!


「最後の報酬は俺のものだ」


俺は手に持ってる大量の飲み物をゴミ箱に捨てるかどうか考えていたけど、結局理事長やその場にいる芸術家たちに分けて飲んでもらうことにしたんだ。無駄にするのはやはり惜しいから。







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