第4話 雪女のような少女

「これ何の絵だよ、まるで小学生の落書きみたい。」


俺の指導教師が俺の背後で笑いながらそう言ったんだ。


「わかんないよ、多分ホントに落書きだろ。」


俺がそう返すと、画室のクラスメイトから笑い声が起きて、何人かが俺の背後に集まっていろんな冗談を飛ばし始めた。


「その絵の絵の具、足りてるのか?」


「この適当に塗りたくった線で芸術品になるんだな!さすがだね!」


「そうそう。」


俺は後ろの連中のからかいに対応しながらも、でも自分の目の前の絵の制作に集中し直したんだ。


システムからもらった「世界級の絵画制作のチャンス」をフル活用してるんだ。今、俺の身体中がインスピレーションで溢れていて、腕はまるで絵画の神様に操られているかのようにキャンバスの上で自由に絵の具を動かしてる感じだ!


そして、俺が選んだ印象派の作品は、前の世界で有名なファン・ゴッホの「星X夜」さ。


制作中に他人が見たら、それはただのごく普通の線、適当に描かれたものに過ぎない。でも俺は自分が世界を変えるような美しい絵を作っているってことを知っている!


システムのサポートがなければ、どんなに絵の技術があっても「星X夜」を再現するのは無理だったろうな。だって、芸術作品はちょっとした色の違いで全くの魅力を失うからな。


贋作はどんなに原作に似ていても結局は贋作。でも「世界級の絵画」制作の保証があれば、俺が今描いているのは本物の名作だ!


絵を描き終わるのには時間がかかった。昼頃、ようやく全て描き終えた時、画室の生徒や教師はみんな昼食を食べに行っていたんだ。


「なかなかいいじゃん!」


俺は長いあくびをして、自分で再現した「星X夜」を眺めた。


「これで審査に出してみるか。」


イーゼルを慎重に持ち上げようとしたその瞬間、背後から突然女の子の声が聞こえてきたんだ。


「あなたが描いた絵、すごく綺麗よ。」

「!」


ビックリして、何千万もの価値がある「星X夜」を落としそうになっちゃったよ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



その冷たい声に俺は思わず振り返った。


そこにはいつの間にか俺の後ろに座っていた、まるで雪女のような少女、泷上怜奈の姿があったんだ。


彼女はいつの間にか椅子を取って俺の後ろに座り、「星夜せいや」の華やかさにまだ浸っているようなぼんやりとした表情をしていた。


「驚かせた?」彼女は柔らかな声で俺に尋ねた。


「驚いたよ、次から人の後ろで突然話しかけないでくれる?」って、本当は「ねえ、君は幽霊なの?人の後ろに忍び寄って、口から冷たい息を吐いて、まさに雪女じゃないか!」と言いたかったんだけどな。


「気をつけるわ。でも、あなたの作品に名前をつけたの?」って、彼女の視線はずっと俺の手にある絵に注がれていた。その憧れのような目つきは、俺の手の絵に飛び込みたいかのようだった。


「星夜。」って、隠さずに言ったよ。どうせ明後日の美術展で全校の人がこの絵の名前を知ることになるんだから。


「星夜、星夜…その色合いが本当にきれいで、言葉にできない感じがする、あなたは…」って、彼女はその絵の名前を呟きながら、そして俺の名前を言おうとしたところで立ち止まった。


ああああ!もう2年も一緒に学校に通っているのに。


俺の名前を覚えていないの?少女よ…俺の存在感はそんなに薄いのか?


「桐谷秋。」って、やや呆れたように言ったよ。


「桐谷くん、どうやってこの絵を思いついたの?インスピレーションはどうやって来たの?もっと知りたいの。」って、泷上怜奈はまるで魔法にかかったようだった。


俺が絵を高く持ち上げた時、彼女も立ち上がり、その目つきはまるで俺を飲み込もうとするかのようだった。


どう思いついたって?おじいさんが夢に出てきて教えてくれたんだよ、ってのはどう?しかも直接俺の体を借りて描いてくれたんだよ!


「ええと…ちょっとね。」って、もちろんそんなでたらめな理由は言わなかったよ。


しかし泷上怜奈は諦める様子がなく、俺が後ずさりすると彼女は前に進み続けた。


少女よ、何をしようとしてるの?雪女が人を食べるぞ!!!


もうちょっと近づいたら叫ぶからね!


俺が叫ぼうとした瞬間、ドアの方から九条勝人の声がした。


「秋、昼飯だよ!」


「行く行く!」って、親友の助けに心から感謝して、手にした絵を抱えてそこから逃げ出したんだ。


「秋、もしかして泷上さんに興味があるの?」って、九条勝人が道中で心配そうに尋ねた。


彼女に興味がある?あの雪女が俺を生きたまま食べようとしてるんだよ!


せめて親友を慰めてくれよ!


「興味ないよ、彼女どうしたの?」って尋ねたよ。


九条勝人はこの大学の多くの女性と知り合いで、それもかなり親しいタイプ。俺が女子学生を追いかけるたび、彼はいつも俺にその女子学生の長所と短所を丁寧に教えてくれるんだ。


しかし最後はいつも「諦めたほうがいい、お前の資質では彼女たちを動かすことはできない!」という言葉で終わる。


「彼女の身分背景は簡単ではないようだし、性格もかなり付き合いにくいと聞くから、秋…」

「わかってる、わかってる!まずは俺が参加してる美術展のホールに行こう、俺の絵が完成したんだ。」

「もう完成したの?見せて…」


九条勝人が俺の手に持っている絵を一瞥した。


「なかなかいいね、でもやっぱり落書きみたいだけど、先生は通してくれるだろうな。」って、九条勝人は青春を謳歌し、学校へは時間を過ごしに来ている学生だ。彼が展示する作品も適当に描いた「芸術作品」で、だから俺も同じ態度を取っているとよく理解しているんだ。


ただ、審査員が来た時に、この手当たり次第に作り出された「世界の名画」がいくらの価値があるかは分からない。

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