第16話 フルフェイス
なぜオーラが出ないのか。俺はいまだに答えを見つけることができなかった。
「どうした、どうした?もう、攻撃はおしまいか?」
犬の怪人はこちらをじっと見つめてくる。こちらに負けるはずがないと思っているのだろう。軽快に挑発的なステップを踏み始める。
「ネメアを倒したって聞いていたんだけどな~。No.2がやったんだっけ?いずれにせよもっと強いと思ってたぜ~」
怪人は手にオーラを集め、そのオーラを足に移動させ、とオーラを移動させて遊んでいる。どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ。
俺は何もできない自分に、馬鹿にする相手に対して拳を強く握る以外の方法がなかった。
「エイタさん、しゃがんで!!」
突如、無線から聞こえる。その声に反応し俺は膝を折る。
『ゴーーーー』という音と共に火を纏った矢が一直線に犬の怪人に飛んでいく。
バチバチバチと大きな音を立て犬の怪人が火に包まれていく。
「エイタさん、今のうちに体制を整えて!」
「サンキュー、リョウヘイ」
俺はリョウヘイにもらった時間ですぐに作戦を頭の中で考え、スターゲイザーを拾いに行く。どうすれば奴に勝てる?
「おいおいおいおい。この程度の火で俺を倒せると思ってんのか???悲しい、悲しいなぁ・・・。地獄の火はなぁ、こんなもんじゃないんだよ!!!」
どこからか大きな風が吹き怪人の周りの火が消えていく。
「え、もうダメっすか?いくら何でも早すぎでしょ!」
「貴様のような人間の攻撃が俺に効くと思っているのか???」
怪人を包んでいた火が跡形もなく消えていった。
「悲しいよ・・・」
怪人は先ほどまでと同じく手にオーラを集め始める。そしてそれを矢が飛んできた方向目掛けて投げる。
ドンッ、と鈍い音を立てて球が建物に当たる。建物は球が当たった部分が球の大きさよりも大きくへこんでいく。
「あぶね!移動してなかったらやばかったす!」
どうやらリョウヘイは無事のようだ。
「そもそも二人で戦うなんてずるいよ・・・。こっちは一人だっていうのに・・・」
何やら様子がおかしい。さっきまでの勢いはどうしたというのだ。目の前にいるのは犬の怪人で間違いないのだが、まるで違う敵と戦っているみたいだ。
怪人は次から次へと、手あたり次第球を投げている。が、リョウヘイはうまくかわしているようで時々「あぶね」と声が聞こえてくるのでおそらくまだ当たってはいないだろう。
「全然あたらない・・・。俺はダメだ・・・」
怪人の攻撃は止まらない。が、どうやらその目はリョウヘイだけを捉えているようだ。こちらに意識が向いている気配はしない。チャンスか?俺はジリジリと怪人との距離を縮める。
が、怪人はこちらにくるりと向き
「不意打ちするなんて・・・」
と、言いながらこちらに攻撃を仕掛けてくる。ダメか。何か手はないのだろうか。やはりオーラの力がなければ・・・。焦る俺とは裏腹にオーラが発動する気配はない。なぜだ。なぜ出ないんだ。
「クソ、このままじゃジリ貧です!!」
リョウヘイの声が聞こえる。その通りだ。今のままじゃいずれやられる。何か、何か手はないのだろうか・・・。
バンッ!!!
と、大きな音が鳴り響く。なんだ?犬の怪人は一歩も動いていない。ではリョウヘイか?いや、違う。リョウヘイもこの音に驚いている様子がイヤホンから伝わってくる。なんだ。何かが来る。その予感の直後、背後からゾクゾクと少し寒気が混じるような気配を感じた。俺はすぐに振り向きその気配の正体を確認した。
「あれは・・・、誰だ・・・?」
その正体は全くつかめなかった。顔をバイクのフルフェイスのヘルメットのようなもので覆っているため誰なのか見当もつかない。No.2だろうか?いや、立ち振る舞いが少し違う気がする。であれば、ガンジュかユリ?いや、どちらも違う気がする。
「マイ・・・?」
俺の口が無意識に問いかける。俺は今「マイ」と言ったのか?自身の本能に問いかける。確かに言われてみれば立ち振る舞いはどこか似ているかもしれない。だが、そんなはずはない。マイはすでに死んでいる。それに・・・。体には黒く大きいオーラを纏っている。あれは、何者だ??
「何者なんだよ・・・。もうこれ以上増えないでくれ・・・」
怪人も近づいてくる人物に気づいたようだった。そしてすぐに両手にオーラを集めその近づいてくる人物に目掛けて投げる。その攻撃は真っ直ぐに黒い人物目掛けて飛んでいく。『ドーン!!!』大きな音を立て物の見事に直撃する。誰だかわからないがなぜ避けない?出てきて一瞬でやられるとは・・・。
「はあ・・・。なんで出てきたんだよ・・・。びっくりしただろう・・・」
怪人は着弾したのを確認し、すぐさま俺に目線を移しけん制すると、再びリョウヘイの方に向きなおす。
「そろそろ・・・、終わりにしよう・・・。これ以上人が増えても嫌だ・・・」
怪人はリョウヘイに向けて撃つためにオーラを手に集めた。本気で終わらせるつもりなのだろう。そのオーラの大きさは先ほどまでとは比にならないくらい大きく、バランスボールほどはあるだろう。
「はあぁぁぁぁ」
怪人が振りかぶり投げようとした瞬間、怪人がバッと後ろに振り向く。それと同時に俺も振り向く。視線の先には先ほどの黒いオーラを纏った人物が立っていた。いや、一歩ずつ確実に歩みを進めている。
「うそだ・・・。なんで生きてる・・・??」
「やれやれ・・・」
そう言うとその人物は黒いオーラを拳に纏わせた。
「そんなのありえない・・・」
犬の怪人はその手に持っていたバランスボールほどの球を近づいてくるその人物へと標的を変え放つ。この大きさでスピードがより上がるのか。まずい、さっきのは避けていたとしても今度は距離も近い、避けれないはずだ。クソ、この距離じゃ助けに行こうと思っても球の着弾の方が早い。
「おい、避けろ!くらえば死ぬぞ!!」
その人物は避ける気配など微塵も見せなかった。そして深く腰を落とし、飛んでくる球に対して正拳突きを放った。球は当たると同時に『パンッ』と音を立てはじけて消える。なんだ、何者なんだ?あまりにも強すぎるし、オーラを扱えるだと?見るからに完璧にオーラをコントロールしていた。
「うそだろ・・・、どうして・・・」
さすがの怪人もびっくりしているようで、次の球の用意はしていない。その隙をついてか、その人物は一気に距離を詰めてくる。その身のこなしはまるで忍者。音もなく、まるで浮いているかのように近づいてくる。
「動くな!!余計なことをするな!!」
その人物は大きな声を出す。余計なことをするな?いや、俺は何もしていないが・・・。この声だけでは誰かなのか愚か、性別すら判別がつかない。何か機械のようなものを通して聞こえている。
「え、なんでばれたんすか?エイタさん、あいつやばいっす。味方っすか?大丈夫っすか?」
「今のところはな」
そうとしか言えない。俺もまだ奴が何者なのかわかっていない。犬の怪人と敵対しているということは少なくとも奴らの仲間ではないだろう。それだけは言える。だが、だからと言ってこちらの仲間とは限らない。
その人物はすぐに距離を詰めもうすぐ怪人まで手が届く距離だ。怪人はうつむいている。が、突然バッと前を向いたかと思うと、にやりと笑い、両手にオーラを集める。それは球を投げるのと別のスタイルだ。
「おいおいおい、随分と張り切ってきてくれるじゃねーか!!!来いよ!!!」
「相変わらず少しうるさいな」
近づくヘルメットの人物に対して怪人はその右の拳をぶつけに行く。が、ヘルメットはそのヘルメット目掛けて飛んできた拳を避け、そのまま先ほどのように腰を落とし左の拳を突き出す。その動きはまるで空手のようだった。真っ直ぐ放たれたその拳は確実に怪人の腹を捉える。
「ぐあぁぁぁ!!」
たまらず怪人は声を上げる。だが、その隙をヘルメットの人物は逃さない。すかさず前蹴りをお見舞いする。その際のオーラの動かし方に無駄はなく、美しかった。所作すべてに無駄がない。まるでお手本のようだ。
ヘルメットの人物は飛んで行った怪人に近づき、倒れている怪人に対して右の突きを繰り出した。ひゅっとこちらまで音が聞こえてくる程のその拳は空を切り怪人の目の前で寸止めとなる。その先についたオーラが怪人の鼻の先にちょうどついている。
「このまま続けて死ぬか、引くか選べ」
「クソが!!俺が引くわけねえだろ!!!」
「そうか・・・」
ヘルメットの人物は拳を引き、再度拳を繰り出した。今度は寸止めではなく怪人の右側に顔をかすめて地面を抉る。ドン!!と大きな音でその威力がわかってしまうほどだ。
「去ね」
少し間があいたのち、
「クソがぁぁぁぁぁ!!!!」
と、大きく叫び犬の怪人はどこかへ走り去る。
「え、エイタさん!逃げられるっす!!!早く追わないと!!!」
「いや、いい」
「エイタさん??」
俺はヘルメットの人物に近づく。
「何者だ。俺の知ってるやつなのか?いや、マイなのか?なぜ怪人を逃がしたんだ」
ヘルメットの人物は顔だけ少しこちらに向けると、
「相変わらずオーラを操れないんだな。このままでは負けるぞ」
と、言い放った。
「俺と一緒に本部に来い」
俺はその身柄を参考人として確保しようと近づく。
が、その人物はフッと笑い、しゃがんで高く飛び上がる。
まるで重力など感じさせない。空中で一回転し、
そうして俺の頭上を越えていく。
「今の怪人は大丈夫だ。しばらく出てこない」
「なぜわかる」
ヘルメットの人物は手を振るだけでそのままこの場を立ち去っていく。
一体何者だったんだ。マイなのか?だが、言葉の使い方、雰囲気がまるでマイとは似つかない。だが、あの動きは・・・。
俺はふと視線を下に落とす。そこには先ほどヘルメットの人物が突きをした場所があった。ネメアの攻撃もすごかったが、それとはまるで質の違う攻撃だった。ネメアの攻撃は大きく地面が広い範囲で衝撃が加わっていたのに対して、ヘルメットの攻撃は深く、一点に集中して、地面がへこんでいる。いや、穴が奥深くまで続いている。これほどまでの攻撃を繰り出せる者はそういない。ましてやオーラを扱える人物なんて。
謎は深まるばかりだった。
奴はいったい何者なんだ。
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