第15話 2つの顔
それは突然現れた。俺が12歳くらいの頃、街で強盗か痴情のもつれか忘れたがどこかの一軒家で立てこもり事件があった。当時メディアでも緊迫した様子を生放送で流していたので俺もどうなるんだろう。と先の見えない状況に、聞こえてくるアナウンサーの声に緊張しながらテレビを見つめていた。
「じいちゃん、これ助かるのかな?」
「さあな、警察もバカじゃない。犯人も人質を取ったところで結末も見えてしまっている。逃げられやしないよ」
「ふーん。そうなんだ」
俺がそう言うと、テレビの中から「ドーン!!」と大きな音が聞こえた。え?何が起こったんだ?アナウンサーも困惑し、カメラの奥にいるであろうスタッフと現場を交互に見ていた。次の瞬間、家を映し出していたカメラが捉えたのはしがみつく人質を優しく力強く抱きかかえる人物の姿だった。
「え、じいちゃん見て!!」
「・・・ついにか」
じいちゃんはそう言い、テレビに背を向け台所へと姿を消していった。
テレビに映り取材班に囲まれるその人物はこう語った。
「これからは私に任せてください。この、不安にまみれる社会から平和に暮らせる世の中にと思い私は立ち上がりました。事情があり顔はお見せできませんが、これからは私が平和を守ります」
こう言い空に消えていった人物はこう名付けられた。
「No1」と。
俺はアマネとの会話で出た少し前の記憶を思い出す。俺は昔から、いや、当時の子供は皆が憧れていた。『No.1』それは最初に現れた正義の象徴、正義のヒーローだった。今までのテレビや漫画とは違う、本物のヒーロー。悪を倒し、弱きものを助ける男だった。
「リョウヘイ、『No.1』って知ってるか?」
俺は隣にいたリョウヘイに聞いてみる。ネメアとの戦いの傷からすっかり回復したらしい。リョウヘイは特に被害が少なかったようだ。
「エイタさんから質問なんて珍しいっすね。もちろんっすよ。僕も小さいころ憧れてましたからね」
「だよな」
「たしか、犯人を追っている時に運悪く事故で殺されたんでしたっけ?確か、素顔が公開されないまま、『死亡』って公表されたような。そのあとちょっとしてNo.2が出てきて、怪人が出てきて、No.3がって感じでしたよね?」
「確かな」
「まさか自分がヒーローになるなんて思ってもなかったすね」
リョウヘイはそういいながら少し目を輝かせていた。彼にとってヒーローであることは憧れを叶えているといううれしいことなのだろう。俺にとっては復讐の方法だとしても。
「どのヒーローもかっこよかったすよね!エイタさんはどのヒーローが好きっすか?」
「俺は・・・No.・・・」
ブブーーー!!!ブブーーー!!!
俺が言いかけたタイミングで警報が鳴った。どうやら次の敵が現れたようだ。
「来たか」
「行きましょ!」
俺たちはすぐにその場を離れ強化スーツを着用しにスタンバイルームへと急ぐ。ガンジュとユリ二人の姿はなかった。まだ本調子ではないのか?
「ガンジュさんとユリさんはあとから合流するそうです!お二人で先に行ってください!」
部屋に急に入ってきた男性スタッフがそう伝える。やはり、ケガの影響か。
「行くぞリョウヘイ」
「OKっす!」
俺たちはすぐに下に行き、バイクにまたがる。リョウヘイが俺の後ろに乗る。
「いいなー、バイク。かっこいいすよね。俺も専用のやつ欲しいなー」
「振り落とされるなよ」
リョウヘイが俺に捕まったのを確認し、すぐに走り出す。フルスロットルで開け、エンジンを回していく。
「少し行ったところみたいす!このペースならあと五分もしないうちに着くっす!」
俺はリョウヘイの言葉にこくりと頷き、車を追い抜いていく。
次の敵に俺たちは勝てるだろうか。ましてや二人での戦いだ。もし、ネメアよりも強い敵が来たならば?No.2は手助けに来るのか?俺は徐々に迫りくる感情を何とか押し殺す。
「ここを右っす!」
俺は言われた通りに右に曲がる。この前のネメアとの戦いをリョウヘイはどう感じているのだろうか。喋っている感じは普段と変わりがない。
「こっちっす。今日のは人通りが少ない場所らしくて避難は済んでるみたいっすよ。なんでも前回の戦いが放映されてからは直接見たいって人が増えたみたいで、本部が早急に手を打ったらしいっす。さすがはNo.2だな~」
確かに人はすでに居なかった。いつもなら逃げてくる人たちとすれ違っていたのに。やはりネメアとの戦いの影響は大きいか。あの戦い以降、No.2と話すことは無かったがどう感じているのだろうか。これほどまでの対策を打つということはやはり・・・。なぜか今日は前回の戦いが気になってしまう。
「エイタさん?大丈夫っすか?今日もいくっすよ!!!」
リョウヘイはそういいながら建物に向かって走っていく。いつもの高所のポジションへ。俺は一つ息を吐き、自分を高める。ゆっくりと一歩目出し、徐々にスピードを上げていく。
目の前に敵が見えてくる。今度はなんだ?犬か?まるで黒い犬のようだ。
「ようやく来たか。待ちくたびれたよ」
「早くやっちまおうぜ!」
敵は吠えるようにこちらに叫んでくる。どうやら今日の敵もネメアと同じく人の言葉を話すことができるタイプらしい。ということは・・・。ネメア同様あのオーラを使ってくることが頭をよぎる。
「お前も喋るタイプなんだな」
「おっと、失礼。俺は興奮するとついおしゃべりしちまう」
「しかもネメアと同じかそれ以上喋るんだな」
怪人はその言葉にピクリと反応し、こちらを睨みつける。
「俺がネメアと同じだと?そんなわけないだろぉ」
ハハハっと乾いた笑いが響く。
そして少し間をあけたその刹那、こちらに向かって走ってくる。そのスピードはネメアよりも、今までのどの怪人よりも速く見えた。
俺はすぐにスターゲイザーを構える。
「ヘイヘイヘイ、それじゃ俺を倒せないぜ?」
真っ直ぐにこちらに向かってくる。その表情は余裕が見え隠れする。が、次の瞬間、その怪人の頭は爆風に包まれた。リョウヘイの攻撃がヒットしたのだ。
「こっちに気が向いてなさそうなんで。当たったすね」
爆風に包まれたその顔が少しずつ見えてくる。何やら様子がおかしい。先ほどまでの表情から一変して、少し悲しげな表情に見える。
「不意打ちか?それはないんじゃないか?」
オイオイと怪人が泣き出す。俺はつい呆気に取られてしまう。先ほどまであんなに意気揚々としていたのに。
「それはさぁ、あんまりじゃんかぁ」
一瞬油断した。あまりに急な表情の変化だった。だが、その隙に怪人は手に小さな球を作り出していた。そしてそれをそのままリョウヘイのいる方向に投げた。
「うおお!あぶねえ!!」
リョウヘイの声がイヤモニを通して聞こえる。どうやら無事だったようだ。
「場所変えるっす!エイタさんその間頼みます!」
その言葉を聞き、もう一度スターゲイザーを握り直し構えをとる。そして今度はこちらから攻撃を仕掛ける。
が、簡単に受け止められる。片手一本だ。
「その攻撃で俺を倒せると思ったのか?悲しいよ・・・」
そう言いながら先ほどの球を掌につくっているのが見えた。俺はとっさに避ける。
「はあああ。悲しい」
すぐに体勢を整える。球がいくつか飛んでくるのが見えた。これは・・・。オーラなのか?初めて見る攻撃に戸惑いを隠せない。オーラのようにも見えるが、俺の赤やネメアの緑とも違う。どこか違う雰囲気がある。
「全然当たらない・・・。俺はダメだ・・・」
そう言いながら次から次へと球を投げてくる。俺はしっかりと避けながら相手の様子を伺う。どうやら遠距離のタイプらしい。球を投げてくる以外の攻撃方法を見せない。
「これは距離を詰めてこちらの土俵にすべきか?」
俺は飛んでくる球に合わせてスターゲイザーを振る。それはまるでMLBの選手、俺の憧れだったマイク・トラウトのように。
見事にスターゲイザーと球は当たり、犬の怪人目がけて一直線に伸びていく。見事なピッチャーライナーだ。その球はどこか赤いオーラに変わっているようにも見える。
「ぐえっ・・・!!!」
球を投げることに夢中だった怪人へ見事的にこちらの打ち返した球が直撃する。
「うう・・・。聞いてないよこんなの・・・」
俺はこのチャンスを逃さなかった。すぐに距離を詰める。怪人は球が返ってきたことに驚き、当たったことに慄いている。ここを逃すわけにはいかない。反応を見るにやはり遠距離を得意とするのだろう。俺は確信し接近戦へと持ち込む。怪人が慌てて球を作り出すが遅い。俺の方が一足先に射程距離に入り込む。
「こっちの番だ」
俺は右手に握ったスターゲイザーを振る。赤いオーラは発動していない。が、止められた先ほどとは違い今度は・・・。いや、違う。今度も止められている。俺の攻撃に合わせて左手一本でスターゲイザーを受け止めている。
「オイオイオイ。またそれか?さっきも言ったよなぁ、それじゃ効かないって!!」
怪人はスターゲイザーをグッと握る。俺は咄嗟に離れようとするが、だめだ。全く動けそうにない。
「それじゃダメなんだよ!!!」
怪人の右手が俺の顔面目掛けて飛んでくる。俺はスターゲイザーを手放し、一歩引く。くらっていれば少しの間は動けないだろう。そう感じさせるほどの風圧がこちらの鼻先をかすめる。これが風圧でよかった。
「おおー、避けるのは上手だな」
手に持ったスターゲイザーを地面に投げ捨て笑っている。なんだ?先ほどまでの様子と違う気がする。どこか雰囲気も変わっているような。
「さて、次はこっちの番だな」
そう言うと一気に駆け出しこちらに向かってくる。はやい。やはり犬というだけあってかなりのスピードがある。このスピードを攻撃に乗せられるとかなり厄介だ。
俺も同様に怪人に向かって走り出す。向こうのペースに合わせてはいけない。こちらからも仕掛けるべきだ。なぜかわからないが遠距離を捨ててきている。今がチャンスかもしれない。
「おらぁ!!!」
ボフッ、という音と共に拳が左の耳をかすめる。紙一重のところだ。俺もすかさずに右に重心をそのままずらし左の蹴りを脇ばら目掛けて放つ。
が、簡単に止められてしまう。
「なんだ?おめえは戦い方を知らねえのか???俺が教えてやるよ」
そういうとにやりと笑い。俺と同じように蹴るモーションに入る。その左足には先ほどまでの球同様に、黄色いオーラを纏っている。「まずい」そう感じた俺はすぐにその攻撃を躱した。なんだこいつは。近距離もできるというのか。だが、この動きどこかで見たことがある気がする。どこだ?知っている気がするぞ。
「こうやって攻撃するのが攻撃じゃねえのか???知らねえのか???」
その既視感の正体を見つけられずにいた。というかそんな余裕はなかった。
俺だって出せるもんならとっくに出してるよ。
俺はオーラが出ずに焦る。
このままではじり貧だ。
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