第12話 ライオンの怪人
スターゲイザーとネメアの腕が衝突する。ギャキン!というスターゲイザーと爪がぶつかる音が施設中に響き渡る。
互いに衝撃を感じながら後ろに引き、再び攻撃に移る。だが、先ほどまでの力の差は感じない。むしろ俺の方が上回っている感じがする。
「やるな。なにがそうさせたのかはわからんが、今までで一番の力を感じる。いいぞ、いいぞ、もっと俺を楽しませろ!そしてその力を上回り最後はお前が倒れているのだ」
「いい加減その口を閉じたらどうだ。その余裕はもうないはずだ」
「ならばこれでどうだ」
ネメアの周りが再び緑のオーラで纏われる。これは恐らく、先ほどの攻撃だろう。俺は迎え撃つべくスターゲイザーを構える。俺の周りにはネメアと同様に赤いオーラが発生する。
「こい」
俺のその一言によりネメアが放たれる。とてつもないスピードでこちらに向かって飛んでくる。だが、俺はそれをしっかりと捉えていた。伸びてくる右手に対して、下からスターゲイザーを叩き込む。ネメアの右手ははじかれ、まるで宙に浮かぶかのようにふわりと一周する。
次に左脚が一直線に俺の頭を狙ってくるのがわかった。俺はそれをしゃがんで避け、左の拳でネメアの腹を捉える。だが、それでもネメアは怯まなかった。攻撃を受けた直後に体をねじり今度は左の手で、爪で俺の顔面を狙ってきた。少しスローに感じながら左手にスターゲイザーを持ち替えながらその攻撃を右手で掴み組み合った。
「どうした。そんなものか」
「おもしろい。一瞬でここまで強くなるとは」
「今度はこっちの番だ」
右手と左手を互いに離し、俺は両手でスターゲイザーを握る。ふ―っと息を吐き集中を高める。体に纏うオーラが大きくなる気がした。
「それを両手に集めて」
マイの声に導かれるように俺は両手に力が集まるイメージをしてみる。すると、両方の手により強い光が集まってくる。そして、スターゲイザーにその光が集まり、より大きな武器となる。
俺はそれをネメアに振り下ろす。ネメアはそれを正面から受け止める。が、先ほどまでの攻撃とは大きく違う。明らかに違った。地面にも衝撃が伝わり、地面が沈み込むほどだった。
ネメアは両膝をついてそれを何とか受け止めている状態だとわかる。俺はすぐにスターゲイザーに集めた力を右脚に集め、ネメアの顔目がけて放つ。俺の上からの攻撃に耐えるため力をそちらに集中していたのだろう。俺の蹴りは簡単に入り、ネメアが吹っ飛んでいく。
俺はゆっくりと近づき、追い打ちをかける。ネメアは片膝をつけたのちすぐに立ち上がり、こちらに向く。俺は一歩、また一歩と距離を縮め、スターゲイザーを手放し、右手、左手と拳でラッシュを叩き込む。今までとは比べ物にならないほどの手応えを感じた。
最後に右のアッパーでネメアの顎を捉えると、ネメアは後ずさるように後ろによろけた。
「ぐっ・・・。なかなかやるな。ここまで攻撃をくらうのはいつぶりかな」
「もう終わりだ」
「もう勝った気でいるのか。勝負はこれからだというのに」
「これで終わらせる。最後だ」
「よかろう。ではその攻撃を受け止めて、最後に立っているのは俺だと、最強は俺なのだと教えてやろう」
「・・・いくぞ」
俺はスターゲイザーを拾い上げ、先ほどの要領で力を籠める。すると先ほどよりも大きく、赤く輝くスターゲイザーとなる。
俺はふーともう一度息を吐き、確実に仕留めるイメージをし、ゆっくりと右足を出した。そして強く地面を蹴り、ネメアに向かって加速した。
ネメアは俺の攻撃を正面から受け止めるつもりのようだ。大きく腕を広げて俺の攻撃を待っている。俺はそれに目がけてありったけの力を込め叩き込む。本当に終わらせるつもりで。
スターゲイザーとネメアの右手がぶつかり合い、その後一瞬遅れて『ドーンッ』という大きな音が建物内に響き渡る。右手で受け止めようとしたネメアだが、すぐに左手を添え両手で受け止め、次第に沈んでいく。
「ここまでとは。やるな。」
最初は余裕を見せていたネメアだが、次第に体が沈んでいく。
「お、お前は・・・。あの時の女か」
ネメアが俺の方を見て言う。マイが見えているのだろか。
「ガアアアアアア」
次第に言葉を失っていくネメアに対しに俺は力を込める。次第に余裕がなくなっていくのがわかり、その言葉もまるでライオンの咆哮へと変わっていく。
一瞬、緑のオーラを出し、スターゲイザーを押し戻された。が、俺が更に力を込めると、その光は弱くなり、最終的には消えてなくなった。そして、消えてなくなると同時に、ネメアの両膝が地面に着く。
「お前のおかげで新たに力を手にすることができた。ありがとうな」
「ぬかせ。俺はまだ負けていない」
俺はそのネメアの言葉を聞くと、一度スターゲイザーを上に戻し、もう一度振り下ろす。
今までで一番大きな音が響き渡る。その音が鳴り終わり俺は倒れるネメアを確認した。
「これで、終わった・・・」
俺は後ろに倒れこもうとする体に反抗することができなかった。いや、しなかったと言う方が自然かもしれない。俺はそのまま地面に倒れこむ。
さすがにしんどい。体中が悲鳴を上げているようだ。起き上がる意思さえなくなってしまった。まあいい。今は少し休ませてくれ。
静寂がショッピングモール内に流れる。他のメンバーはどうなった?無事なのか?ガンジュとユリはすぐそこにいるはずだ。かなりのダメージだが、死んではいないはずだ。リョウヘイは?最後に煙幕を張ってくれてからというものの何も応答がない。あの煙幕がなければ俺はやられていただろう。
マイ・・・。今回の敵はかなりきつかった・・・。もっと強くならなきゃいけないかもしれない。おそらくヘビの怪人はこの比ではないはず。となるともっと力が必要だ。
俺は手元にあるスターゲイザーの感触を感じていた。今回は前回の比ではないほどの力をくれた。それがなければ、俺は今こんなことを考えることすらできなかっただろう。でも、なぜ?なぜ、こいつが光ると俺の力は引き上げられるのか。どうすれば光るんだ?謎ばかりが浮かんでくる。やはりこの先もこの覚醒がカギかもしれない。
倒れている俺にできることは思考を巡らせることだけだった。おそらくどかっかで見ているはずのMATがもうすぐで隊員たちをよこしネメアを片付けるはずだ。それまでこのままでいよう。
俺がしばらく倒れていると、気配がした。なんだ、ガンジュかユリか?どうやら目を覚ましたようだ。やはりこの強化スーツは伊達じゃない。簡単には死なないだろう。俺はどちらが目覚めたのか、少し顔を上げるように上体を可能な限り起こして確認した。が、そこには俺の予想と全く違う光景が見えた。
ネメアがそこに立っている。なぜ?俺は確実に倒したはずだ。間違うわけがない。だがなぜ?なぜ起き上がっている?
「・・・ないぞ」
ネメアは何かを呟いている。が、その言葉はあまりに小さく俺まで届かない。もしくは俺が聞き取れていないだけなのか。
「・・・ない、認めないぞ!!!!」
今度ははっきりと聞こえた。
「この俺が負けるなどありえない!!この俺が負けるなど!!!」
どうやらかなり取り乱しているようだ。今がチャンスかもしれない。が、クソ、俺の体は今の起き上がりをキープするので精一杯だ。頼むスターゲイザー、もう一度俺に力を貸してくれ。
だが、スターゲイザーは光らない。どうすればいい。俺は必死に考える。このままだと・・・。
「ヴォオオオオオオオ!!!!!」
ネメアのものすごい方向が建物全体をまるで揺らすかのようだった。その叫びと同時にネメアの体から大量の緑のオーラが出現する。それは先ほどまでと比べものにならないほど色濃く、大きく広がっていく。
嘘だろ?ということは先ほどの数倍の力なのか?今の俺があれを喰らって助かるのか?
だが、俺の予想に反し攻撃が今すぐ飛んでくることはなかった。が、その大きく濃く光るオーラは徐々に液状化していき、ネメアを包み込んでいく。なんだ?なにが起きているんだ?オーラ?液体?がネメアをすっぽりと覆った。どうなっているんだ?
ネメアの咆哮は包まれると同時に聞こえなくなった。次の瞬間、サーっと一気にネメアの体を纏っていたものが消えていく。そしてそこにはネメアが一体立っていた。いや、正確にはネメアが一匹立っていた。その姿は・・・。ライオンそのものだ。いや、ライオンよりも体は大きく、黒い。それはネメアがそのままライオンになったというべきだろうか。
「ガルルルルル」
ネメアの鳴き声が聞こえる。二、三周その場をゆっくりぐるぐると回ると、俺と目が合う。まずい。俺の体から、全身から汗が吹き出し背中に冷たいものを感じる。やられる。頭に浮かんだのはこの四文字だった。
俺はすぐに立ち上がるよう試みた。が、ダメだ体が動かない。俺は必死に立つことだけを考えた。が、思うように力は入らない。それは疲労と恐怖によるものなのだろうか。
ネメアはこちらをじっと見たままゆっくりと歩みとこちらに進めてくる。時々首を左右に振りながら、目だけはじっとこちらを捉えている。
俺は手元にあるスターゲイザーで何とかするしかないと覚悟を決めて待つ。
じりじりと近づくネメアがピタッと動きを止める。俺をじーっと確認し、一呼吸魔が開く。どうだ?来るのか?来ないのか?俺は一瞬、来ない可能性に賭けた。が、うまくはいかない。
「ガァ!!!!」
こちらに向かって大きく吠えた。それはまるでネメアが今から行くぞと言っているようにも見える。ネメアはライオンそのものの走りで一直線にこちらに走ってくる。俺は必死に手だけでスターゲイザーを構える。こちらに走ってくるネメアに向けて手だけで振り下ろす。当たった。が、当たっただけ。スターゲイザーは弾かれ、それでは動きは止まらず、そのままこちらに飛びついてくる。
俺は何とか手でその迫りくる牙を防いだ。が、時間の問題だ。今の俺の力では1分も持たずして噛み殺されるだろう。俺は必死に抵抗する。俺の上に乗るネメアは今すぐにでも噛み千切ろうと俺の喉元を狙ったまま、力を込めてくる。
だめだ・・・。力が入らない・・・。このままでは・・・。何か手はないのか?仲間の誰も目を覚まさないのか?
俺は諦めかけた。が、次の瞬間、ふと、体が軽くなった。俺の体が回復したんじゃない。俺の上からネメアがいなくなっているのだ。
代わりに飛び込んできた景色。それは一人のヒーローがすらりと立っている姿だった。
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