第13話 No.2
俺の目の前にいるのは何を隠そう、No.2そのものだった。首にはトレードマークの首飾りをつけており、真っ白なコスチュームに身を包んでいる。
「危なかった、どうやら間に合ったようだね」
「なぜあなたが・・・」
「いやあ、元々は戦いに来たわけじゃないんだよ。今まで以上の強敵のように見えたから回収の際には私も一目見てみようと思ったんだ。現場にね。そしたら、君は奴を一度倒した。と、思ったら復活したからね。おまけに君は動けそうにない。そう思って急いできたのさ」
「すみません、ありがとうございます」
俺は急に自分が情けない気持ちを感じているのに気付いた。この感情はなんだ。
ネメアが倒れた状態からむくりと起き上がり、ゆっくりとこちらに向かってくる。その目は完全にNo.2を捉えているように見える。
「きますよ」
「ああ、君は休んでいていい」
No.2は腕と足にぐぐぐっと力を入れるとすぐさまネメアの元に飛び出していく。その速さはネメアと匹敵するほどだった。なんだよその速さ。俺は再び悔しさがこみ上げる。
No.2はネメアにその勢いのまま右の拳をネメアに叩き込む。俺があんなにも苦労していた相手をいとも簡単に吹っ飛ばす。
「なかなか頑丈だね。今ので普通なら粉々になっているはずなのだが」
そういいながら歩きながら距離を縮めていき、片手一本でネメアの首を掴み起き上がらせる。まるで親猫が子猫を掴むかのように。そのあまりの強さに俺は何も発することはできなかった。
さっきまで俺がやっとの思いで倒した相手だぞ?俺はNo.2が行動すればするほど自分との差を感じてしまう。
ネメアは気づけばサンドバッグ状態だった。ほとんど動かなくなったネメアをNo.2はポイっと簡単に捨てた。
「確かにこの力とタフさがあれば君たち、いやエイタ君の力があって覚醒してようやく倒せるくらいかもしれないね。この状態になった時に間に合ってよかった」
ネメアは「ぐっ」と言いながらその変身を解き元の姿に戻っていた。
「なぜお前がここにいる」
「私がか?ヒーローだからだ」
「現れないと聞いていたのだがな」
「私は正義が必要とあらばどこであろうと現れる」
ネメアはゆっくりと状態を起こし立ち上がった。その状態は先ほどまでの俺と戦っていた時とは違い、見せていた余裕はない。
「まあいい。前から戦ってみたかったんだよ。本当に強いのかどうか俺が試してやる」
ネメアはそう言うと緑のオーラを体に纏わせていく、先ほどの変身か?と思ったがそうではない、奴の得意の攻撃のようだ。だが、そのオーラは先ほどまでのものとは比べ物にならない。
「気をつけてください。あの攻撃は強力です」
「風前の灯火、火事場の馬鹿力というやつかな?今までで一番強い力だ」
No.2はそういいながら口元が緩んでいるように見えた。No.2が構えると、ネメアはそれに向かって突進していく。バーン。という大きな音と衝撃と共に二人がぶつかっていく。俺はただただそれを見守ることしかできなかった。頼む、無事でいてくれ。
俺の予想、気持ちとは裏腹に、No.2は涼しげな顔をしていた。俺がNo.2を見ていた場所から一歩たりとも動いてはいない。そんなことがあり得るのだろうか。
「なぜだ、なぜ動かん」
どうやらネメアも同じ気持ちのようだ。
「とても良い力だ。スピードもパワーも申し分ない。でも、それでは私には届かないよ」
そう言うとNo.2はじりじりとネメアを押し返していく。その手にはネメアと同じ緑のオーラが見える。
「特別サービスだ。私も同様の力をもって君を葬ろう」
No.2がぐっと一瞬力を籠めると、ネメアの倍はあるオーラを放出する。
「嘘だろ・・・」
俺は思わず呟いてしまう。俺のレベルはまだまだだと言われているようだ。No.2との力の差をはっきりと見せつけられた気がした。
No.2は、グググッとネメアを押し続け、ついには壁際まで追いやる。その間、ネメアも必死に抵抗しているように見えたが、まるで大人と赤子かのようにその抵抗は虚しく終わった。
No.2が同じく壁にめり込んでいるガンジュとユリをちらりと見た。
「私のチームメンバーを傷つけた罪として、私が君を裁こう」
No.2は左手でネメアの首を掴み上まで持ち上げる。反対の右の手でグッと力を籠める。そうすると緑のオーラが右手に集まっていく。すべて集まったのち、その右の手はネメアを一瞬にして貫いた。その心臓があろう場所を正確に。
「化け物が・・・。これだから貴様が嫌いなのだ・・・」
ネメアが最後の言葉を話す。
「強くなれエイタ・・・!今のお前では俺たちのボスには勝てない・・・俺たちのボスは・・・」
その言葉を言い切る前にNo.2の手はネメアの心臓をもぎ取っていた。
こうしてショッピングモールでの戦い。3番目の怪人ネメアとの戦いは幕を閉じた。俺は結局何もできなかった。自分とトップとの実力差を思い知らされることとなった。この戦いは俺の中で大きく何かを変える気がした。
幸いにもガンジュ、ユリ、リョウヘイは無事だった。三人とも大きなケガはあるが、命に別状や、後遺症が残るほどのレベルではなかった。ネメアは実は殺す気はなく、ただ戦いを楽しみたかっただけなのではと思えて仕方なかった。
そして戦いが終わった後No.2が俺に語った言葉。
「君はきっと、このまま私が戦った方が町の被害も少なく、簡単に怪人を倒せると思っているだろうね。おそらく町の皆も。だが、それは無理なんだ。私がこの力を使える時間はそう長くはないし、かなり負担がかかっている。そう何度も戦えない。そして先ほどのネメアのあの言葉。その言葉の通り私は白いヘビの怪人には勝てない。それは一度戦った。いや、戦いでもないだろう。あの時No.3が私を救って、かばってくれなければ私は今頃ここにいないだろう・・・」
そう語るNo.2はその言葉はNo.3に向けているのか、どこか遠くを見つめていた。
ネメアが一番強い訳ではない。その事実が俺に重くのしかかる。今のままではダメだ。俺が苦戦したネメアを軽く捻るNo.2、さらにその上に白いヘビの怪人がいるとしたら・・・。俺にはもっと力が必要だ。だが、これ以上どうしていいかわからなかった。ただ闇雲に体を鍛えればいいというものでもない。この先はもっと別の何かが必要になってくる。もっと別の強い力が・・・。
俺は一人部屋の中で考えていた。どうすればもっと強くなれるのか。その答えはいくら考えようがわからなかった。まるで暗闇の中で迷路のゴールを目指すように。一度眠ろうとそっと目を閉じた。さすがに疲れた。かつてこんなにも疲れたことがあっただろうか。じいちゃんの修行を上回るかもしれない。ただの肉体的な疲れだけではないだろう。俺は一度考えるのをやめた。
マイ。俺はどうすれば強くなれる。どうすればお前の仇を討てるんだ。どうすればお前のように強くなれるんだ。俺に足りないものはなんだ・・・。
俺が夢の中をさまよっている間に、No.2は世間に声明を発表していた。その理由は、この先もNo.2自身で怪人を倒せばよいのでは?という疑問が世間の中で湧き上がっていたからだ。だが、No.2は真っ向からそれを否定した。
先の戦いで自身が本来の力を出せないこと。怪人を倒すためにはMATの力が必要不可欠だということ。そしてチームメンバーがいなければ被害を最小限に留めることができなかったということ。
それによってNo.2はより市民を味方につけた。と言ってもいいだろう。この前、廊下を歩いていたら問い合わせの電話が鳴りやまないと、ぼやいている人もいた。それだけ今回の戦いは世間に影響を、そしてNo.2は力だけでなく、市民にも影響を与えているんだと実感した。
そしてその話を聞くたびに、やはり力の無さを実感し、焦ってしまう。今のままでは・・・。そう焦る俺の気持ちとは反対に、時間は緩やかに流れているように感じた。怪人が現れることもなく、俺がパワーアップするわけでもなく。ただ、ゆっくりと時間が流れていくだけだった。
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