第11話 覚醒と覚醒

 俺の声に呼応するようにスターゲイザーは光り輝いた。だが、その光は今までと比べものにならないほどの光だった。

 

「これ以上、仲間をやらせるわけにはいかない。お前はここで俺が止める」

「ほう、ようやく本番という訳か。それを待っていたんだよ」


 ネメアは言葉の通り、待っていました。と言わんばかりに両手をバシッ、バシッと何度もぶつける。

 俺の身体がどんどん熱くなる。今までとは比べものにならないほどの力を感じる。今ならネメアに一矢報いることができそうだ。


「来い!!」


 ネメアはそう言うと両手を大きく広げ、今にも俺の攻撃を受けとめんとする構えをとる。

 ここで俺が奴を倒さなければ、この先はない。マイの仇も、仲間も失うことになる。俺はその思いを両手に込めて走り出す。大きくスターゲイザーを振りかぶりネメアの頭目がけて振り下ろす。

 ネメアは両手をクロスしスターゲイザーを受け止める。俺はより力を込めて押し込む。すると、「ぐっ」という声と共にネメアが沈み込むのが見えた。俺は一度スターゲイザーを戻し、再度振り下ろす。

 

「ぐはっ」


 そう声が聞こえると、ネメアが目の前で片膝を地面につけ、もう片方の膝を立てるような形でこちらを睨む。


「やるな貴様。片膝をついたのは奴と戦って以来だ。だが、まだまだだな」

「黙れ、お前の命はここで終わらせる」


 俺は再度スターゲイザーを振り下ろしたが、先ほどのようにうまくはいかなかった。ネメアは今度もしっかりと受け止めており、先ほどよりも大きな抵抗を感じた。


「ほう、地面が割れるほどの威力か。どうやらその武器が光っているのが原因らしいな」


 ネメアはそう言いながらスターゲイザーを下に受け流し立ち上がる。


「では、俺も少し本気を出すとしよう」

「本気だと?無駄だ」

「それはどうかな?」


 ネメアはそう言うと「はああああ!!」と言い腹に力を入れるような体勢をとる。俺はすぐに少し間合いを取った。周りの空気が少し変わるのを感じたのだ。これは、今までと何かが違う。

 ネメアのたてがみは少し長くなり、少し光を放っている。爪は先ほどよりも鋭くなり、全体的に体の大きさも大きくなっているような気がする。


「このくらいでいいだろう。これ以上やると闘いを楽しめなくなってしまうのでね」

「どんな状態であろうと一緒だ」


 ネメアは右手を頭の上、左手を少し突き出すような構えをすると、俺に左手をくいくいと挑発するような動きを行った。


「なめるなよ」


 俺はその挑発に乗るようにスターゲイザーを再び構え距離を詰める。次は右の腹を狙い振る。ドンッ。と先ほどまでと比べ物にならないほどの音が鳴る。が、ネメアが倒れたり飛ばされる様子はない。


「やはり、先ほどまでの力であれば一瞬にしてやられていたよ」


 ネメアは先ほどまでであれば笑っていただろうそのセリフに反して表情は鋭い眼光を保ったままだった。

 俺がもう一度右の腹を狙おうと戻した瞬間を狙われた。その動きに合わせるよにネメアの蹴りが俺の手に跳んでくるのが見えた。だがそのスピードは速く俺の手からスターゲイザーは飛ばされてしまう。


「どうした?そんなものか?」


ネメアの余裕が伝わってくる。が、その表情に余裕はない。


「まだだ。まだやれるんだよ」


 俺はすぐに左の拳をネメアに向かって繰り出す。ネメアはそれをスッと避け、それに合わせてカウンターを俺に仕掛けてくる。

 今度はしっかりと拳が見えた。先ほどと同じスピードだが、今度は間一髪で避け、互いに首をかしげる状態となっている。

 俺はすぐに左手を戻し再び構える。今度は右のローキックを狙う。と見せかけて、ハイキックへと変化させる。ネメアも予想をしていなかったのか、今度はしっかりと攻撃が入る。


「なんだ今のは」


 どうやらネメアは驚いているようだった。なるほど。そこに少し勝機が見えた気がした。どうやらこいつは武術という者には馴染みが無いようだ。

 俺は左の拳を再度ネメアにぶつけに行く。が、それもフェイク。すぐに右のストレートに切り替え、ネメアの顔を「パンッ」という音と共に打ち抜く。

 ネメアはよろよろと後退する。どうやら効いているようだ。俺はその隙を見逃さない。そのまま距離を詰め、右の蹴りでネメアの胸を捉える。後退していたのに追い打ちをかけたためネメアはそのまま後ろへ飛んで倒れる。


「フハハハ。面白い技を持っているな。だが、その程度だ」


 ネメアは寝転がる状態から余裕を見せる。


「どうかな。俺には攻撃が効いているように見えるがな」

「確かに、先ほどまでとは比べ物にならないほどの良い攻撃だ。だが、それでは俺を倒すことはできない。俺を寝転がすことができたのは人間では二人目だ。この前のヒーローとお前だ」

「この前のヒーロだと?」


 ネメアはむくりと起き上がり続けた。確かにその様子だと攻撃が効いていないようだと一目でわかった。


「そうだ。お前たちがよく知るヒーロー。3号?No.3?よく覚えていないがマスクをかぶった奴だ」

「No.3と戦ったのか?」

「逃げられちまって殺せなかったがな」

「そうか。ならば俺がお前を殺してやる」


 俺は立ち上がったネメアとの距離を再び詰める。途中、床に転がっていたスターゲイザーを拾い、スターゲイザーを奴めがけて投げる。ネメアはそれをパシッと受け止める。が、その瞬間、俺はとび蹴りをその頭に食らわせる。


「ぐはっ」


 ネメアの声が空間に響く。血が全身に今までよりも強く、そして早く流れているのを感じる。先ほどよりも強い力だ。全身を力が駆け巡るのがわかる。

 俺はネメアに駆け寄り倒れるその身体に馬乗りになる。そしてそのまま、顔を右、左とランダムに使いながら殴る。ただひたすらに。ネメアの表情からは何も読み取れなかった。が、効いていることだけは確信を持てる。


「貴様との戦いもこれで終わりだ」


 俺は動かなくなったネメアに対して最後のとどめを刺そうと横に落ちているスターゲイザーを拾い上げる。が、次の瞬間、背中に強い衝撃を感じる。と同時に体が前方へ飛ばされた。

 一瞬、何が起きたかわからなかったが、すぐに理解した。奴だ。ネメアだ。どうやらまだ無事だったようだ。今度は俺が一瞬の隙を突かれたようだ。


「俺はそう簡単に倒れん。百獣の王だからな」


 そう後ろから声が聞こえた。

俺が地面に倒れたその視線の先にはネメアが立っていた。その両手をバンバンと叩きながら自身を鼓舞しているようだ。俺はすぐに立ち上がる。今の攻撃で少し肺がやられたのか呼吸が少ししずらい。

 奴は少し腰を落としこれまでと同じ両手を広げたポーズをとる。

 終わらせに来る。そう確信した俺も同様に構える。二人同時に一歩を踏み出す。俺はスターゲイザーを振り下ろし、ネメアは同方向から左手を振り下ろす。スターゲイザーと奴の左手がぶつかり、鈍い音を立てる。俺は左脚をすぐに繰り出す。その左脚はネメアの腹を確実に捉える。が、ネメアは動じずそのまま右手で俺の左頬を打ち抜く。

 はあはあ・・・。互いの息が今にも聞こえそうだった。もちろん奴の息など聞こえない。だが、それほどまでに互いの力が拮抗しているのを感じた。奴が終わらせに来ているのはひしひしと感じていた。その証拠に最初の余裕が消えている。俺に何か一つ、あと一つ力があれば・・・。そう考えざるを得なかった。


「お前との楽しい戦いもここまでだ。俺はもう十分楽しんだ。そろそろ終わりにしよう」


 ネメアはそう俺に言うと、再び両手を広げて構えた。が、先ほどまでと何かが違う。その身体の周りには緑の光をまとっているように見えた。


「それは・・・。俺のスターゲイザーと同じ?いや、少し違うのか?」

「それは知らん。だが、次の攻撃で終わりだ」


 緑の光、というよりオーラをまとったネメアは、地面を右足でズリズリと二、三度こすると俺に狙いを定めてきたのがわかる。来る。俺もそれに答えるように構える。ダンッ。という音と共にネメアが駆けだす。そのあまりの衝撃に地面が抉られているのに気が付いたのはすべてが終わった後だった。

 ネメアの右手が真っ直ぐ俺に伸びてくるのが見えた。俺はそれをスターゲイザーで防ぎに行く。「ガキン」奴の拳とスターゲイザーとの間に火花が散る。今までとは比べ物にならない程の衝撃。まるで車、いや電車に衝突されたかのような衝撃で、俺はたまらず後方に弾き飛ばされる。それは数メートル先まで俺の身体が跳ぶほどだった。

 俺はあまりの衝撃に、意識を保つことで精一杯だった。だが、スターゲイザーのおかげで体がどうこうなった訳ではなさそうだ。しかし立ち上がるまでに時間はかかりそうだ。


「ほう・・・、まだ生きているのか。すごい武器だな。うっ。だが、次で終わりだ・・・。がはっ。止めを刺してやる」


 奴も相当な負担なのか、ダメージがあるのか。俺はかろうじて保っている意識の片隅で考える。

 だが、体が動かない。ネメアがゆっくりと近づいてくる。


ボン。


 俺とネメア、二人の間に突然矢が刺さる。それはリョウヘイの物とすぐにわかった。


「エ、エイタさん・・・。逃げて・・・。今のうちに。今エイタさんがいなくなったら、この街を、怪人を倒すことができる人間が居なくなります・・・。うっ・・・。だから、・・・俺が時間を稼ぐうちに・・・」


 途切れ途切れのかすかに聞こえるその言葉は間違いなくリョウヘイのものだった。


「くそが!!邪魔するんじゃねえ!!まだ生きていやがったのか!!」


 目の前にいるはずのネメアの声がする。だが姿は見えない。リョウヘイの矢は、先ほども使った煙幕の物だった。恐らく奴からも俺の姿は見えていないのだろう。


「くそが!!くそが!!雑魚の分際で!!!」


 明らかに冷静さを失っているのが感じ取れた。俺の意識も少しずつ回復してきている。


「てめえらから殺してやるよ!!」


ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ


 と四回鈍い音が聞こえた。それは明らかに何かを蹴る音だ。

 その音と同時に煙幕が薄くなって、先の様子がかろうじてうかがえた。

 俺は思わず息をのむ。それは壁にガンジュとユリがまるで磔のように埋まっている様子を見たからだった。先ほどまでは地面に倒れていたはず・・・。俺が答えにたどり着くまでには時間はかからなかった。


「ようやくお前の番だ。雑魚は片づけた」


 俺はようやく体を動かせた。いや、自分でも動かせるのが不思議な感覚だ。これは・・・。手に握っているスターゲイザーが赤く熱く光っている。

 

「そうだよな。お前も仲間を傷つけられて悔しいよな。なあ、スターゲイザー。俺に力を貸してくれないか」


 俺の呟きに呼応するように、どんどんと赤く、熱くなる。意識がはっきりとしてくる最中、ふっ、と見えたものがある。俺は俺の手を握るマイの姿だった。マイ、見ていてくれ。見守っていてくれ。マイが俺の手をより強く握ってくれた気がした。


「大丈夫。エイタならきっと倒せるよ」

「マイ、俺に力を貸してくれ」


 次の瞬間、俺の体のすべてが優しく包まれる感覚を一瞬感じ、その後すぐに体に力が漲っていく感覚になる。


「お前は俺がここで止める。これ以上、生かしておくわけにはいかない」

「そうだな。俺たちの戦いもここまでだ。お前の死によってそれは終わる」


 俺は深く息を吸い込む。体中の力を感じて。今なら奴を倒せる。いや、倒さなければいけない。


「「いくぞ!!」」


 俺が走り出すと同時にネメアが走り出す。恐らくこれが二人の最後の戦いになるであろう。

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