第10話 猛る咆哮
現場到着すると、そこはショッピングモールだった。そうやらこの中で怪人が暴れているらしい。
俺たちはいつものように車から降りてそれぞれの配置についた。俺はすぐに敵の元へと向かう。が、前回のシカの怪人やイノシシの怪人の時と何かが違う気がした。だが、その違和感の正体を掴めずにいた。
少しショッピングモールの奥へ入っていくと、怪人がいた。その見た目から、どうやらライオンの怪人のようだ。首をきょろきょろと左右に振り動かし、様子をうかがっている。いや、何かを探しているようにも見える。
「ようやく来たか!!!」
そのライオンの怪人は俺を見つけるなり大声を張り上げた。その振動でショッピングモール内のテナントの窓がビリビリと震えているのを感じ取れるほどだった。
「待ちくたびれたわ!!!」
待てよ?しゃべっているだと?俺はふと冷静になって気づいた。イノシシ、シカと今までの怪人はまるで動物のような鳴き声を発することしかなかった。しかし、今目の前にいるライオンの怪人は喋っている。喋ることができるのはヘビの怪人だけだと思っていた。
俺はライオンの怪人の前に立ちふさがり、自身の間合いを取った。だが、ライオンの怪人はギロリとこちらを見るばかりで攻撃を仕掛けてくる気配はない。
「俺たちを待っていた。そう言いたいのか?」
「そうだ。貴様らの事をここでずっと待っていたのだ」
そうか。俺がこの建物に入って最初に気づいた違和感の正体はこれだったのか。こいつは前の2体とは違い理性を持ている。だから、建物や人に全く被害が無い。そこに違和感を感じたのか。
「お前は喋れるんだな」
「そうだ、貴様が倒してきた前の2匹と同じにするな。俺は百獣の王。その辺の奴らと同じと思われては困る。我が名はネメア。貴様と戦いに来たのだ」
「面白い。貴様ら怪人は俺が全員ぶっ倒す」
俺はすぐにスターゲイザーを構えた。ネメアと名乗るその怪人は両の手を大きく広げ右手を少し上に、左手を少し下にして構えをとっている。
「行くぞ!!」
ネメアは真っ直ぐに俺との距離を詰める。俺はスターゲイザーを肩に担ぎ、上から振り下ろす構えをした。ふんっ。と振り下ろすスターゲイザーをネメアは両手をクロスし受け止める。
「なるほど。確かに良い攻撃だ。だが、この程度では俺は倒れん。そしてこの程度の攻撃で前の2体を倒せるとも思わない」
俺はその言葉に少し動揺した。やはりスターゲイザーを赤く光らすことができなければ、怪人たちを倒すことは難しいようだ。スターゲイザーは奴の腕で軽々と防がれている。
「うるせえ。最初の攻撃を防いだだけだろ」
ネメアは「フハハハ!!」と大きな声を上げ笑っている。
「確かにそうだな。では次はこちらの番だ」
ネメアは受け止めていたスターゲイザーをはじき返すと、そのまま俺の腹に蹴りを入れてきた。ぐっ。イノシシほどの威力はないが、少しよろけるだけの力はある。
「ほう、やはりこの程度では効かないか。そのスーツもかなり優秀なようだ。少しは楽しめそうだな」
俺は腹筋に力を入れ今もらった蹴りのダメージを必死に抑える。今のは本気じゃないとでもいうのか?確かに耐えることはできるがこれ以上があるということか。面白い。
俺は目の前の強敵に少し心が躍るのを感じ、それを抑えるのに必死だった。
俺とネメアは再び距離をとる。じりじりと二人の距離を保ったままお互いに構える。先に動いたのは俺だった。俺は再び大きくスターゲイザーを振りかぶる。
「なんどやっても同じよ!!」
ネメアを再び防御の姿勢をとる。俺は構えたスターゲイザーを振り下ろす。当然のごとくネメアに防がれる。だが、俺の狙いはそこじゃない。俺はがら空きになったネメアのボディに前蹴りを放し、突き飛ばす。ネメアの虚を突くことができたのか、ぐっ、と声を少し漏らしよろける。
「フハハハハ、やるじゃないか。これでおあいこだな」
どうやら効いている様子はない。ライオンの凛々しい顔を保ったままだった。
「まだまだいくぞ」
次に仕掛けたのはネメアからだ。一歩、二歩と軽快なステップで助走をつけてくるとそのままの勢いで右脚を旋回させてくる。俺はその飛んでくる右脚に合わせて自身の右脚を合わせる。お互いの顔の前で交差した足はその反発を受け元の位置に戻っていく。次に俺はその戻った右脚の勢いをままに左の拳でネメアの右わき腹を狙った。ドンッ、という鈍い音が鳴ったが、その直後、ネメアの左脚前蹴りが俺の腹を捉えた。
だが、倒れるほどではない。俺は再び右脚でネメアの頭部を狙う。が、その蹴りは空を切り、俺はそのまま一回転し今度は左足で顔面を狙う。だが、それは右の手で受け止められた。
「いいね、これだよこれ!!これを待っていたんだ!!」
ネメアは掴んだ俺の左足を投げ捨てるように離しながら言った。
「最高にワクワクするだろ。お前もそうだろ?」
「黙れ、俺はただお前を倒すだけだ」
「フンッ、まだ俺を倒せる気でいるのか。面白い、やってみろ!!」
ネメアは右手を大きく開き迫ってきた。その手が俺の顔を狙っているのがわかる。俺はそれを横にずれることで躱し、右手で握るスターゲイザーをそのまま右わき腹に叩き込む。が、ネメアは動じることなく振り向きながら左手で同じく顔を狙ってきた。俺はそれを避けることができず、頭に攻撃を喰らい地面に叩きつけられる。
「うっ」
「どうした?終わりか?」
頭部から温かいものが流れる感覚がある。だが、まだ意識もはっきりしているし案外ダメージもない。まだやれる。
「いいねえ、まだやれそうだ!こんなのあいつと戦った日以来だよ!!」
「うるせえ、俺はまだやれる。貴様の攻撃など効かない」
俺はすぐに立ち上がり、スターゲイザーを構えた。
思っている以上にタフだ。俺の攻撃が効いている気がしない。手ごたえはある。だが、その手ごたえに対してのダメージが少なすぎる。
「お前はなぜ喋れるんだ。この前の二体と何が違う」
ネメアはニヤリと笑う。
「この前の二体と何が違うか?何もかもだ。俺は百獣の王。奴らのようなただの獣が怪人になったのとでは訳が違う。王が他の愚民と同じわけがないだろう。俺はすべての頂点に立つ。いずれはあのヘビも食ってやる」
「ヘビの怪人の事か。やはり、お前らのボスは奴なんだな」
「違う!!!俺が最も強く、誇り高き戦士だ。あんな白ヘビがボスなどと俺は認めん」
どうやら、奴らの中でもいろいろあるらしい。おかげで少し体力と傷によるダメージが回復した。
「まあいい。お前らを全滅させることが俺のすべてだ。お前もここで消えてもらう」
「百獣の王を前にしてまだそんなに元気があるとは。面白い」
俺とネメアは再び構える。
「エイタさん!こっちは避難完了しましたよ!!」
無線からリョウヘイの声がする。
それと同時に視界に入ってくるものがある。それはネメアに一直線に飛び込んでいき、その頭部に両足で蹴りを入れる。それはユリの姿だった。
「エイタ!こっからは全員でやるよ!」
ガンジュが横に来るのを感じた。どうやら全員揃ったようだ。リョウヘイは恐らく二階にいるだろう。ちょうど吹き抜けになっている。上から狙うには絶好の場所だ。
「ほう、もう来てしまったか。せっかくこいつと楽しんでいたところだったのだが・・・。まあいい、お前らも俺を楽しませてくれるのか?」
ネメアはそう言いユリの方にギロリと目を向ける。ユリはすぐに距離をとる・
「え?!こいつ今喋った?エイタさん、どういうことですか??」
「俺にもわからん。ただ、今までの奴とは比べ物にならないほど強いということだけはわかる」
「なるほどね。今までのは雑魚だったって訳ね。これは覚悟決めなきゃ」
「全員死ぬなよ」
そのガンジュの言葉を皮切りに俺とガンジュ、ユリでネメアを取り囲む。
最初に動いたのはユリだ。その自慢の足技でネメアの足を狙う。が、当然のごとく攻撃は入らない。ネメアはびくともしない。ネメアはそのままユリを両手でつかもうとする。そこにガンジュが割って入り、その両手に対抗するようにその両手を掴む。
「ほう、貴様ら二人もいい。人間にしては良い力を持っている。少しは楽しめそうだ」
そう言いながらネメアはガンジュと力比べをする。が、ガンジュはじりじりと押し負けていく。嘘だろ?あの背筋力でも負けるというのか?そのままガンジュはユリの上に覆いかぶさるような形で叩きつけられる。
幸い二人ともダメージはないようだった。二人ともすぐにネメアと距離をとる。
「こいつは相当ね。気合い入れなきゃ」
「エイタ、あれは発動できそうか?」
「いや、ダメだ。そんな気配はない。自分からどうこうはできなさそうだ」
「そうか、やれることをやるしかないな」
そう言い次はガンジュが飛び込む。ガンジュは攻撃しようと伸ばしたネメアの腕をつかみ投げの体勢に入る。が、びくともしない。ネメアはニヤリと笑っている。
俺もその間に近づき背後からスターゲイザーを両手で握りネメアに打ちつける。
当然のごとくびくともしない。俺は再度スターゲイザーを振る。
ネメアはまずガンジュが掴んでいるその手を簡単に払いのける。そしてこちらにクルリと向きを変え、今度は俺に右手でパンチを放つ。その手が俺の胸を確実にとらえてきた。
俺とガンジュは飛ばされる。ぐっ。まったく攻撃が通らないことに焦りを感じる。このままでは全滅だ・・・。だが、気持ちとは裏腹にスターゲイザーが答えてくれる様子はない。
「このっ!!」
ユリがネメアに蹴りを入れる。だが、その右わき腹に到達した足はいとも簡単に止められ、その足を掴まれそのままガンジュと同じ方向に投げられる。
そのままネメアが二人の方に向かう。
「どうやらここまでのようだな。これ以上の楽しみはなさそうだ。イノシシとシカを倒したというので楽しみにしてはいたが・・・。これにておしまいだな」
一歩、一歩とその距離を詰めていく。ピュッ。という音と共に距離を詰めるネメアの前に矢が刺さる。矢が地面に刺さると同時にその矢は煙を上げ、ガンジュとユリの姿は見えなくなった。
「二人とも今のうちに距離をとって!このままだとやられるっす!」
ネメアはその煙で二人を見失った様子だ。どうやらリョウヘイの作戦がうまくいったようだ。
ネメアはギロリとその目を一度リョウヘイに向けると、そのまま少し離れた場所に置いてあるショッピングモールの椅子まで歩き手にする。そしてその椅子の足をつかんだまま、まるで円盤投げの選手のように体をねじりその椅子をリョウヘイの上へと投げる。
「あぶね!!」
「リョウヘイ、離れろ!!」
その椅子はリョウヘイの遥か上へと飛んでいきリョウヘイに当たることはなかった。が、奴の狙いはリョウヘイではなかった。その椅子はそのまま天井に当たる。そこには陽を取り入れるための大きな窓がある。
まずい!!そう思った時には遅かった。椅子は窓に当たり大きな音を立て砕け散る。砕け散ったガラスがリョウヘイの上へと土砂降りのように降り注ぐ。
「うわあーーーー!!!!」
リョウヘイの声がインカムと直接耳に届く。
俺は頭に血が上るのが分かった。リョウヘイ・・・。
割れた窓によりリョウヘイがまいた煙も上へと吸い込まれていく。それにより、ガンジュとユイの姿も顕わになる。どうやら二人とも先ほどのダメージから立ち上がることができていない様子で、重なり合うように横たわっていた。
「そろそろ終わりにしようか」
ネメアはそう言うと動けなくなっている二人の方へと歩き出す。
「やめろ・・・、やめろーーー!!!」
俺は体の中が熱くなるのを感じた。
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