第9話 ヒント

 その日俺はいつものようにトレーニングルームにてトレーニングをしていた。今日は誰もいない。集中して行うことができる。俺はこれから来るであろうヘビの怪人をより一層意識してバーベルを持ち上げた。400kgのデッドリフト。これはチームの中で2番目の記録だ。1番はガンジュの450kg。世界記録の502kgには届かないが、かなりの筋量なのでは?と自負している。が、1番ではない事は非常に腹立たしい。

 

 これだけの筋肉量をもってしても怪人退治は一筋縄ではいかない。この前の2体とも俺の攻撃を受けて何発も耐えていた。つまりはそれが人間と怪人との差なのかもしれない。俺は人間を超える必要があるのか・・・。

 

 そう考えバーベルを地面に置く。汗が額から落ちるのを感じた。俺はヘビの怪人に会って少し焦りを感じていた。「今のままでは勝てない」そう感じていたからだ。この前のシカの怪人の時のように協力すれば。ということでもないだろう。そのくらい奴と俺とでは実力差がある。その焦りをぶつけるかのように俺は再びバーベルを持ち上げる。


「何とか奴を倒す方法はないのか・・・」


 俺は無意識のうちにそう呟いていた。


「あるよ、その方法」


 はっ、として俺はすぐに身構えた。このトレーニングルームには今は誰もいないはず。


「誰だ?何が目的だ?俺にヘビの怪人を倒す方法があるだと?」

「そう、ある。ヘビの怪人を倒す方法が」

「どういうことだ。どうすれば奴を倒せる」

「そのためにはいくつかの条件が必要になる。まずはあなたの覚醒。これは必須」

「俺の覚醒?それはなんだ?どうすれば覚醒する?」

「それは・・・」


 声はそこで途切れた。

 俺の覚醒?どういうことだ?俺は一瞬あることが頭の中を駆け抜ける。それはNo.2も言っていたスターゲイザーの発光と何か関係があるのか?あの赤い光と。


「俺とスターゲイザーの覚醒。そういうことだな?」


 声は返ってこない。俺は答えが無いことにモヤモヤとした気持ちが生まれ、これ以上バーベルを持ち上げることができなかった。一体誰が、なんの目的で・・・。


 俺はトレーニングを引き上げ、自室に戻ろうと片づけをする。

 するとガンジュが部屋に入ってくる。


「ああ、エイタか。お前もトレーニングしていたのか」


 そう声を掛けてくるガンジュの肉体は筋骨隆々としており、俺の1.5倍ほどの体格と言っても過言ではない。リョウヘイと比べたなら2~3倍はあるだろう。圧倒的なパワーファイター。MATの前は自衛隊にいたという話も聞くし、プロレスラーだったとも聞く。当時の俺は周りの話になど興味はなかったので覚えていない。


「俺もトレーニングしないとどうも落ち着かなくてな。まあ、うちの連中はほとんどがそうだと思うが。調子はどうだ?」

「悪くはない」

「そうか、それなら良かった。そういえばこの前のスターゲイザーの件だが何かわかったか?」

「いや、何も」

「まだわからんか・・・。やはり状況的に考えても仲間意識は何かトリガーになっているかもしれないな。いずれにしてもあれを常時発動できればかなり強力な戦力となる。頼むぞ」

「ああ」


 俺はトレーニングルームを出ようし、ガンジュの身体を見る。その身体は昔見た時よりもさらに大きくなっていると感じた。


「今、デッドリフトMAXどのくらいだ?」


 俺は思わず聞いてしまった。


「今か?この前で500kgいったな」

「500kgか」


 俺はそう言い残し部屋を出た。500kgの重りを持ち上げる男ですら簡単に怪人を倒せない。むしろ苦戦している。その事実に俺は改めてスターゲイザーの覚醒が必要だと感じた。


 俺は一度じいちゃんに聞きに行くことにした。じいちゃんは俺の祖父でもあるが師匠でもある。つまりは今の俺の戦いはすべてじいちゃんから叩き込まれた。スターゲイザーに関して何か知っているとは思わないが、博識なじいちゃんの事なら何かヒントをくれるかもしれない。

 俺はすぐに実家へと戻る。道中、俺はじいちゃんとの地獄の日々を思い出していた。あれは俺が・・・、そう、復讐を決意した日。マイとの別れの日からだった。じいちゃんが強いのは知っていた。常日頃から体を鍛え朝から型のような練習を繰り返しているし、その他武器を扱って素振りをしているのを幼いころからみていた。

 俺はいつもその横でひたすらにバットを振って素振りをしていた。それがあってこのスターゲイザーを棍棒の形にしてくれとNo.2に頼んだのだ。

 

 家に着くと相変わらず人の気配はない。俺は玄関を抜けリビングに入ると相変わらず生活感のない、が、それでいてこまめに清掃されているとわかる状態だ。その見事なまでの徹底ぶりに思わずおお。と感嘆してしまった。そういえば最後にMATの自室を掃除したのはいつだろう。

 そんなことを考えながらリビングから中庭を見るとやはりじいちゃんがいた。相変わらず何かを振っている。今日は長い棒、物干し竿のようなものを優雅に、綺麗にそれでいて力強さを感じるように振っていた。


「エイタか。どうした」


じいちゃんはこちらを見ずに棒を回しながら言った。


「いや、特に大きな用事はないんだが、聞きたいことがあって」

「なんだ」

「俺の武器、スターゲイザーは前に見せたと思うんだけど、あれ変なところがなかった?」

「変なところ?それはどういう意味だ?」

「ここ最近の戦いの中でスターゲイザーが光るんだ。どうやらその光を発した時だけいつもの倍以上の力が出るというか。俺の実力以上の力が出るんだ」

「ほう。なるほど。あの時は・・・。なにか特別な力は感じなかったな」


 俺はじいちゃんも感じなかった、No.2にもわからない。この事実に少しがっかりしてしまった。


「OK。ありがとう。またなんかあったら来るよ」


俺はそう言いMATに戻ろうとした。


「それは何色の光だ?」

「え?」

「何色に光ったんだ?その時は」

「赤い色だけど」

「赤か・・・」

「色がどうかした?」

「いや、なにもない。武器が光るとこなど見たこともないからな。スターゲイザーは確か特殊な素材で作られていたはずだ。それに何かヒントはあるかもしれないな」

「そうか・・・。わかった、ありがとう」


 じいちゃんは一度やめた素振りを再開した。俺はそれを見て玄関に向かった。


「赤の光か・・・。となると、あれを使ったか。」


 ボソッとじいちゃんが呟くのを俺は聞き逃さなかった。

 俺はすぐにじいちゃんの方に戻り、


「なにかしっているの?」


と聞いてみたが、


「いや、何もわからん。エイタ、仲間を大事にしろよ。きっとそれがヒントになるかもしれない」


とだけ返ってきた。


 じいちゃんは何かを知っている?だが、これ以上聞いたところでじいちゃんが何かを教えてくれるとは思わない。昔からそういう人だ。ヒントだけを与えて決して答えは教えてくれなかった。


「ブー、ブー、ブー」


と携帯のバイブが鳴った。

俺は通話ボタンを押し耳に当てると、


「エイタさん、次の敵が現れました!すぐに本部に戻って皆さんと合流してください」


とはっきりと聞こえやすい女性の声が聞こえた。


「すぐ戻る」


俺はそう言い電話を切りすぐに駆けだした。

 次の敵か。ここで何かわかるかもしれない。スターゲイザーの秘密が。


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