第8話 希望
俺はMATの本部に戻り、ヘビの怪人との因縁をチームのメンバーに話した。マイが奴に殺されたこと。それをNo.2が教えてくれたこと。そこからこのMATを作ることを教えてもらい奴を倒す決心をしたこと。
ユリは悲しい顔をしていた。まるで自分のことのように。ガンジュは相変わらずの表情だった。リョウヘイに至っては涙を流して悔しさを訴えていた。
俺は今までの自分を恥じた。数時間前まではヘビの怪人、復讐の元凶に遭い、何もできず、己の無力さを呪った。だが、仲間がいるだけでここまで心の負担が軽くなると思ってもいなかった。もしかすると俺はずっと誰かにこの話をしたかったのかもしれない。この話はじいちゃん、No.2以外には誰にも話せずにいたから。
「辛かったね、エイタ。話してくれてありがとう」
ユリはそう声を掛けてくれ、ガンジュと共に部屋に戻った。
俺はリョウヘイと共に部屋に向かった。
「エイタさん、絶対あいつ倒しましょうね。あいつだけじゃない。すべての怪人を。俺、俺まじで許せないっす」
リョウヘイはそう言うと自室へと戻っていった。
これが仲間か。ずっとそばにあったのに何も気が付かなかった。いや、俺が遠ざけ見ないようにしていただけかもしれない。
「良かったね。仲間と打ち解けられて」
そんなマイの声が聞こえたような気がした。いや、これは気のせいではない。実際に聞こえているのだ。
「誰だ。誰なんだこの前から。なぜ姿を見せない」
「少し表情が明るくなったね。安心した」
「マイ、お前なのか?」
その問いかけに返答はなかった。周囲を見渡しても誰もいない。マイなはずがない。俺は確かに、彼女の死を確認した。
俺は寝付くことができなかった。頭の中で今日一日の出来事がぐるぐると巡り、俺を寝かせてはくれなかった。シカの怪人の事、ヘビの怪人の事、声の正体、仲間との衝突、和解。考える事が多すぎた。
その日、俺はマイの夢を見ることはなかった。
次の日チーム全員がNo.2の部屋に報告のため集められた。
「よく全員無事でいてくれた。しかも2体目。おまけに住人の被害もなし。こんなに素晴らしいことはないよ。国ももう君たちしかいないと言ってくれているぐらいだ」
No.2はテレビの前で見せるのとまったく同じ笑い方を俺たちに向けた。口元からはその白い歯がこぼれている。
「ありがとうございます。ただ、奴、白いヘビの怪人は逃がしてしまいました」
「そのようだね。僕も映像を見せてもらったよ。奴は突然現れ突然消えたね。なにが目的だったんだろう」
「奴と会った時、まったく動けなくなりました」
「そのようだね。まったく、厄介な敵だ。もう少し警戒のレベルを上げないといけないかもしれないね。そして君たち自身の強化もだ」
No.2はそう言いながら余裕の表情崩さなかった。それは自身が出れば勝てるという余裕の表れだろうか、それとも・・・
「ところで、エイタ君。君はまたスターゲイザーを光らせていたね」
「はい、またイノシシの怪人の時と同じ感覚でした。いや、今回はもう少し力が湧いてくるような。そんな感覚です」
「ふむふむ、もしかすると発動するきっかけがあるのかもしれないね。君の体に異常はないのかい?」
「ええ、まったく。いつもと変わりありません」
「そうか。いずれにせよ悪い力ではなさそうだ。その力をもっと引き出せると良いかもしれない。そうすれば、もっと怪人を倒すことができるかもしれない」
そう言いNo.2はニコッと俺に笑いかけた。
この力を引き出すか・・・。俺は未だにこの力が何なのか分からずにいた。スターゲイザーの影響なのか、はたまた俺自身の力なのか、それとも・・・?発動条件みたいなのがあるのだろうか?
「発動条件みたいなのはあるんでしょうか?」
「うーん・・・。私もはっきりとしたことは言えないが、君たちの話や映像を見せてもらった限りではどうやら”ピンチ”とか”仲間”とかが関係しているかもね。あの時の君の気持ちや状況を整理するともう少し見えてくるかもしれない」
「ピンチや仲間・・・」
確かに、最初の発動はピンチの時に、無我夢中でユリを助けて発動した。だが、その次はピンチではなかった気がする。仲間との協力はしたが。
「いずれにせよ、君たちはよくやってくれた。ヘビの怪人の件は私も少し考えてみよう。君たちはとにかく休んで、次の敵に備えてくれ」
「は!ありがとうございます!」
俺たちは部屋を後にした。ふと、No.2の部屋に飾ってある首飾りが気になった。No.2のトレンドマークだ。No.1とNo.3はヘルメットのようなもので顔を覆い、それが目立っていたが、No.2は顔を出していた。そして戦闘の時いつもNo.2はこれをつけていた。そこには二つの宝石のようなものが埋め込まれていたが、少しくすんでいるようにも見えた。
これを着ければ俺もヘビの怪人を簡単に・・・。と思ったが、これを着けたからと言って何か変わるわけもなかった。
俺は「失礼します」と言ってドアを閉めようとした。No.2が誰かと電話しているのが見えた。
No.2の部屋を後にした俺たちは各自の部屋に戻ろうとした。
「にしても、残り何体倒せばこの戦いは終わるんすかね?」
リョウヘイが口を開く。それは確かに誰もが疑問に思っていた事かもしれない。
”この戦いに終わりがあるのか?”
「それは・・・、恐らくヘビの怪人を倒したときだろう。奴が親玉であることは間違いない。つまりは奴を倒せば終わりだ」
「なるほど・・・。でも仮に敵が残ってたらどうなるんすか?先にヘビの怪人を倒したら?」
「うーん、それはわからんな・・・。だが、」
「俺たちはただ出てきた敵を倒すだけだ。ヘビの怪人もその一人。いや、奴は必ずこの手で殺す。マイのためにも」
「そうっすね。とにかくやるしかないっすよね!あれ、エイタさん?今俺たちって言いました?」
俺は自身が自然と「俺たち」と皆も含めて発言していたことに気が付いた。
「あれ、確かにそう言いましたよね?この前まで俺が~、俺が~、って言ってましたもんね?」
「黙れ」
リョウヘイはニヤニヤしながらこちらを覗きこんできたので俺はリョウヘイの足に蹴りを入れエレベーターに乗った。リョウヘイは終始にニヤいていたが、俺はそれを全くの無視をした。
エレベーターが着くとユリとガンジュが先に降りた。ユリは俺に「ありがとう」とだけ言い、ガンジュと共に部屋に戻っていった。
俺はリョウヘイと共に部屋に向かう。
「でも、エイタさんから指示貰った時はうれしかったっす。ようやく認めてもらったっていうか。エイタさんが仲間と思ってくれたのかなって」
俺は答えなかった。
「次も頑張りましょうね!」
リョウヘイはそう言い部屋に入る。俺もその後すぐに隣の自室へと戻った。
部屋に戻り再びスターゲイザーの発光と、その時のあの溢れ出る感覚を思い出した。何が発動の条件なんだ?なにがきっかけだ?いくら考えても同じ疑問が頭の中を駆け巡るだけで何も答えは出なかった。
こんな時マイならわかるのだろうか?マイ、なにがきっかけなんだ?教えてくれ。当然のように部屋には沈黙が流れるだけだった。
この力を引き出せれば俺はヘビの怪人も簡単に倒すことができるかもしれない。俺はそんな希望を胸にベットに横になり夢の世界へと没入する。マイが出てきてくれるのではないかとそんな希望も抱いて。
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