第7話 協力プレイ
シカの怪人のスピードは想像をはるかに超えていた。スピードにはまあまあ自信のある俺が追いつけていない。むしろじりじりとその距離を離されていく。
クソ、このままだとまた見失ってしまう。そう思った瞬間、インカム方声が聞こえた。
「エイタさーん、こっちの避難は完了したっすよー。今どこですか?あ、あれか?」
こっちは今敵を追ってんだよ。静かにしてくれ。そう思った瞬間、「バチバチ!」と大きな音が聞こえた。この音は、以前も聞いたことがある音だ。まさか。
そのまさかだった。シカの怪人は電流によってその足を止めていた。いや、止められていた。前回のイノシシの怪人よりも効果はあるようでシカの怪人は動けなくなっている。チャンスだ。俺はすぐにその距離を詰める。すると、ユリ、ガンジュも姿を現した。
「エイタ、こっちはOKだ。あとはこいつを仕留めるだけだ」
「エイタ、やっちゃうよ」
なんでこいつらは懲りずに俺の邪魔をするんだ。
「頼むから邪魔をしないでくれ」
「エイタ、いい加減俺たちの事も信用してくれ」
「そうよエイタ。私たちだって気持ちは一緒なの。あなたもそれに気づいているはずよ」
俺が気づいている?こいつらと気持ちが一緒だと?一緒にしないでくれよ。お前らとは違うんだよ。
「私たちにはね。3歳の子供がいるの。ヤヨイって男の子なんだけどね。今は病院にいるわ」
「なんの話だ」
「さっきのホールでの話の続きよ。ヤヨイはね、あの日からずっと病院にいるのよ」
さっきから急になんの話をしているんだ?今は戦闘中だぞ。頼むから邪魔をしないでくれ。
「そろそろ電流切れるっすよ!」
そのリョウヘイの言葉のすぐ後に電流は解除され、シカの怪人はすぐに周囲を見渡した。どうやら状況を把握したらしい。が、今度は俺とガンジュ、ユリで囲っているため逃げ場がなく戸惑っている様子だ。
「でね、ヤヨイはヒーローになるのが夢だったの。No.3みたいな」
シカの怪人は走り出した。そしてユリの頭上を飛び越えようとする。が、ユリはそれを許さなかった。同じように飛び、シカの怪人の腹に蹴りを入れた。
「でも、ヤヨイの夢は今は止まったまま。あの日から。だから私たちはMATになった。ヤヨイのために!あの子の夢を奪った怪人たちを倒すために!!」
だからか、だから俺と同じというのか。No.3。お前はどこまで影響を与えているんだよ。皆お前の背中を追っているじゃないか。
シカの怪人はユリの蹴りを受け地面に降りてきた。ユリの方は無理と判断したのかガンジュの方に向かっていく。が、ガンジュはそれを見越していたのか、腕に、全身に力を込め、そばにあった車のフロントを掴み、自身の上を飛び越えようとするシカの怪人に目がけてその車を放り投げる。
シカの怪人はそれを予想していなかったのかもろに受ける。そのまま車がぶつかった勢いで倒れる。なんだ?やけに攻撃が通るな。俺はチャンスだと思い、シカの怪人との距離を詰める。片膝を立てながら立とうとするシカの怪人に俺はスターゲイザーを振りかぶり、そのまま頭に叩き込んだ。
「キュン!!」
と声を上げ、シカの怪人は仰向けになり動かなくなった。
「やったか?」
「いや、多分まだっす。エイタさん、この前みたいにまた来ますよ!気を付けて!」
リョウヘイの言う通りだった。この前のイノシシの怪人の時もそうだが、こいつら怪人は皆一度倒れたのち、強化して復活する。今度は何だ?
シカの怪人は仰向けの状態から足を延ばしたまま頭の方に持っていき勢いよく戻すことで起き上がった。その目は白目をむいている。起き上がるなり
「ピャッ!!!ピャッ!!!ピャッ!!!」
といつもの泣き声よりも数倍大きく数段高い声を出し始めた。
俺はすぐに次の攻撃に備え構えた。
シカの怪人の鳴き声と共に体全身に毛が生え、角は先ほどまでの1.5倍ほどに、さらには足がよりシカの形に近づいていた。
「来ますよ!!」
リョウヘイの掛け声とともに、シカの怪人は2、3回跳ねたかと思うと、ガンジュへと駆けていくその走りは先ほどまでの人間の形をしたものがシカのようなスピードと跳躍力を持っているのではなく、シカそのものに近づいたような走りだった。
ユイの方に向かって走っていったが、ユイはその攻撃をひらりと躱した。「ドンッ」と鈍い音と共に車にぶつかる。その車の傷からその攻撃の威力がどのくらいなのか分かった。おまけにあの角だ。イノシシの怪人は牙だったが、今度の角は何本も伸びてきている。受け止めるのは容易ではないかもしれない。
だが、俺は止まるわけにはいかない。シカの怪人はその長すぎる角が車に刺さり身動きが取れず一瞬動きが止まった。その隙を俺は見逃さなかった。奴との距離を詰めスターゲイザーをその背中に叩き込む。が、手ごたえはあるが効いている様子はない。俺は再び振りかぶり叩こうとするが、ユリに掴まれその場を離される。
「放せ!!」
俺はすぐにユイのその手を振りほどいた。だが、確かにユイに引っ張られなきゃシカの怪人の攻撃を喰らっていた。間一髪だった。という訳だ。
シカの怪人はその角に刺さった車ごとこちらに攻撃を仕掛けていた。それをユイの手によって避けることができた。シカの怪人はその角についている車が気になるようで何度も角に付いた車を地面に叩きつけている。
「エイタ、ここは少しでいいから協力しましょう。前も言ったけど私とあなたとの目的は一緒のはずよ」
「うるさい。俺は一人で十分だ」
ダメなんだ。俺一人でやらなきゃ。マイの仇は俺が討たなきゃ。
「それでマイさんは喜ぶの?」
俺はハッとした。マイが喜ぶかどうか?
「リョウヘイからさっき聞いたわ。あなたがなんのために戦っているのか。幼馴染で彼女を殺されたんでしょ?奴らに。確かに私たちの子供は生きているから、あなたと完全に一緒という訳にはいかないかもしれない。でも・・・。それでも怪人を倒したい気持ちは一緒。だからお願い、協力して。私は皆を守りたいの」
皆を守りたい気持ち。それはマイも良く口にしていた。
「私は、皆を守りたいの。たとえどんな相手だとしても逃げないわ」
これは俺が小学生の時、友達との下校中、適当な因縁をつけられて上級生に虐められそうになった時助けに来たマイが言っていたセリフだ。
俺はそのマイのセリフとユリのセリフが偶然にも重なったことに思わず笑ってしまった。
「え、どうしたのエイタ」
ユリは俺が、普段笑いもしない俺が急に笑い出したので驚いている。
「いや、なんでもない」
なぜこんなにも笑ってしまったのか自分でもわからない。ユイの言葉にマイを感じた事が嬉しかったからだろうか。だが、つい笑ってしまった。
「ユイ、エイタ、来るぞ!」
シカの怪人は車をようやく取り終わったようでこちらに向かって今にも攻撃しようとしていた。
「リョウヘイ!電流を使え!」
俺はリョウヘイに指示を出した。
「はい!って、え?エイタさんの声?」
「いいから早くしろ!次来るぞ!」
「は、はい!充電完了しているんですぐいけます!!」
すると、ピュッと音がして飛んできた矢はそのまま見事にシカの怪人の背中あたりに当たる。さすがリョウヘイの腕前だ。シカの視覚もよくわかっている。
”バチバチバチ!!”と大きな音を立てシカの怪人の体に電流が流れる。が、やはり最初の状態と違い今は強化されている状態。完全に動きを止めることは無理そうだ。シカの怪人は今も動こうとしている。
タフな奴だな。やはり強化状態の怪人は厄介だ。
「ユイ、ガンジュ、俺の攻撃に合わせろ。決して邪魔だけはするなよ」
「おっけー。奴が跳んだときは任せて」
「俺も奴の動きを止めるよう動こう。その後はエイタ、お前に任せる」
「よし、ついてこいよ」
俺は自分の中でギアを少し上げた。ここで決める。そう決意した時、再びスターゲイザーが赤く光る気がした。それと同時にあのイノシシの怪人を倒した時と同じ感覚。これならいける。俺はそう確信した。
シカの怪人は真っ直ぐにこちらに向かって走ってきた。電流のせいで自由が利かず、いつもよりのバネはなさそうだ。奴はそのままガンジュに向かって走る。
ガンジュはそれを真っ向から受け止める。ガンジュの手には特殊なグローブがはめられている。これもNo.2から与えられたガンジュ専用の武器だ。ガンジュはそのまま角を受け止めシカの怪人の動きを止めた。その隙に俺はスターゲイザーをシカの怪人の腹に叩きこむ。
再び、「キュン」とシカの怪人は声を出す。よし、攻撃は効いている。もう一撃その腹に叩き込む。先ほどよりも大きな声が発される。もう一撃。とした時、電流が切れてきたのか、ガンジュは持ち上げられそのまま地面に叩きつけられる。が、弱っているのかその叩きつけの力は弱い。ガンジュは先ほどの車を叩きつけていたイメージが残っていたのだろう、叩きつけられないように空中で角を掴むその手を離した。
シカの怪人は少しよろけながら、俺とガンジュから距離をとった。そしてクルっと向きを変え再度逃げようとした。
「逃がすか!!」
俺はすぐに追いかけようとした。だが、シカの怪人の跳躍に合わせ、ユリも跳んでいた。
「これ以上、街を、皆を傷つけさせない!!」
ユリは空中でシカの怪人の腹に向かって蹴りを入れる。まるでテレビで見た仮面ライダーのようだと一瞬思ったが、俺はすぐに落ちてくるシカの怪人に攻撃を加える事ができるように構えた。
「これで決める」
俺がそう呟くとスターゲイザーは赤く輝く。その光は自分でもはっきりと見ることができた。だが、俺はその光が初めて見るものではないような感覚を感じた。どこか懐かしく感じるような。
俺はタイミングを合わせ落ちてくるシカの怪人の背中にスターゲイザーをフルスイングした。
「キューーーー!!」
今までの中で最大限の、まさに断末魔だ。これによってシカの怪人は完全に動きを止めた。どうやらこれで終わりのようだ・・・。
マイ、やったぞ。これで二人目だ・・・。また一歩、奴に近づくことができた・・・。俺は気が抜けて倒れそうになる。
「あらあら、派手にやられましたね」
どこからともなく声が聞こえた。この声は・・・!
その声が聞こえると同時に目の前に姿を現したのは白い怪人。その姿は伝説に聞くメデューサそのものだ。忘れもしない、その声、その姿。
「貴様は!!貴様ぁ!!」
俺は完全に頭に血が上っているのを感じた。すぐにそのヘビの怪人に殴りかかる。
が、届かない。体が動かないのだ。
「まあまあ、落ち着いてくださいな。今日は戦いに来たわけではありません。あなた方がどの程度の力か見せてもらっただけです。今日のところは帰ります。それじゃまた」
ヘビの怪人は手をひらひらとさせ一瞬光ったかと思うとその姿を消した。
クソ!!くそが!!俺は何もできなかった!!奴が、奴が目の前にようやく姿を現したというのに!!くそがぁ!!
「今のは・・・、あのヘビの怪人は・・・、私たちが必ず倒さなきゃいけない最大の敵」
「ああ、奴こそ。数年前にあの悲劇を引き起こし、人類に宣戦布告した張本人。人類最大の敵だ」
「何もできなかった・・・。動くことすら・・・」
マイ、マイ、マイ!!俺の脳裏でマイの姿が何度も何度も再生される。そして最後にはマイの、亡骸が・・・。
「うおおおおおおおお!!!」
俺はやり場のない怒りにただ叫ぶことしかできなかった。
そう、奴こそ俺の最大の目標。すべての始まり。そしてマイを殺した、俺のすべてを奪った仇だ。
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