第6話 衝突

 俺は目が覚めると、涙が流れていた。どうやらいつもの夢を見ていたようだ。マイが俺の目の前で手を振り笑いかける。でも、一生そこにはたどり着けない。そうしてマイとの距離が開いていき最後には見えなくなる。決まってそこで目が覚める。

 俺はすぐに机に置いてある水を飲みのどの渇きを癒す。水はすぐに空になった。

 俺はこの夢を見続けるだろう。奴らを、奴を殺すまでは。

 

 俺は汗でぬれたシャツを着替え部屋の外に出て水を買いにホールに向かった。恐らくまだ怪人は見つかっていないのだろう。そんな気配を施設から感じる。前回のイノシシの怪人の時もそうだが、奴らはどこに消えている?恐らくそれがアジトだろう。なのにそれが掴めない。ドローンなんかで追えないだろうか。


「お、エイタさん大丈夫っすか?まだ見つからないみたいっすね」


リョウヘイが携帯ゲーム機を持ちながら歩いてきた。


「前回のと違って今回のは素早かったし見つかるまで時間がかかるんすかね?」

「街がまた被害を受ける前に何とか見つけたいのだがな」


 気づけばガンジュとユリも集まってきていた。


「今回の敵も厄介そうよね。シカなんて逃げ足早いし。私の出番かも」

「それなら俺もっすね。遠距離からなら気づかれにくいし」

「うるさい。俺一人いれば十分だ」


 次第に腹が立っている自分が分かった。だが、なぜなのかはわからない。こいつらが能天気だからか?それともこいつらが俺の邪魔をしようとしているから?それともさっき見た夢のせい?


「でもさ、実際私の声がなかったらあの時エイタやばかったかもよ?さすがに一人は無茶なんじゃない?もうちょっと私たちのことを・・・・」

「うるさい!!!!」


 俺は気づけば怒鳴っていた。なぜこんなにも声を荒げたのか俺にもわからない。ただ、我慢できなかった。俺は一人で奴らを殺す。一人残らずこの手で。

 気分が悪くなった俺は部屋に戻ろうとした。が、ガンジュが目の前に立ちふさがった。


「どけ」

「エイタさ、なんでそんなに一人にこだわるの?」


 ユリが俺に問いかける。


「なぜか?決まってるだろ、俺はマイの敵を討つ。ただそれだけだ」

「マイ?それは妹?」

「お前らには関係ない」


 俺がそう言いユリの方を向いた瞬間、頬に強い衝撃と「バチンッ」という大きな音がホール中に響き渡った。


「いい加減にしてよ!!」

「ちょ、ユリさん!」

「てめえ!!」


 すぐに反撃しようした俺はガンジュに抑え込まれた。反対にユリはリョウヘイが抑えている。


「いつまでそんなこと言ってるわけ?いつまであんただけ辛いと思ってるわけ?初めてこのチームになってから、最初からあんたはそうだった。話しかけても無視、この前のクッキーも無視。おまけに協力しようともしない。あんたは何がしたいのよ」

「だから言ってるだろ!俺はマイの、マイのために奴らを全滅させたいだけだ!」

「それで?殲滅させてどうするの?あんた一人で勝てるの?」

「やってみなきゃわかんないだろ!!あんたたちはどうなんだよ!夫婦で参加して、何が目的なんだよ!」

「私たち・・・、私たちはねぇ!!」


 目の前のユリの興奮が一段と上がっていくのがわかる


「二人とももうやめろ。ユリ、少し落ち着け」

「あんたと同じよ。私たちも、リョウヘイだってそうよ!ここで働いて私たちに協力してサポートしてくれている人たちみんなそう。みんなあの日から辛い思いを経験してここにいるの。あんただけ辛い、苦しいみたいな顔して。むかつくのよ!!」

「ユリ!!」


 ユリのその言葉と共に、ガンジュの腕により力が入ったように感じる。

 は?俺以外も辛いだと?お前らに何がわかる。


「お前はいいよな。素敵な旦那が生きてるもんな。マイはな・・・。もう帰ってこないんだよ!!」

「いい加減にしろ!!」


ガンジュが声を荒げる。


「もうおしまいだ。各々部屋に戻れ。ユリ、お前も熱くなりすぎだ。エイタお前もだ。いつ敵が来てもおかしくないこの状況で争っている暇はない」


 その言葉で冷静になったのか、リョウヘイの手が緩まる。


「ごめん」


ユリはそう言い残し部屋に戻っていった。


「すまんなエイタ。だが、俺たちも同じ気持ちだ。それは覚えておいてほしい。みんな怪人どもを倒したい。その一心なんだ。ユリもその一人だ」


 そう言いガンジュもユリの後を追った。俺は当初の目的であった水を自動販売機から買い、目の前のソファに座りその乾いた喉をそのまま潤した。

 皆が俺と同じ気持ち?そんなわけがない。先ほどのユリとガンジュの言葉を頭の中で何度も反芻してはそのたびに反論した。


「エイタさん大丈夫っすか?それ、殴られたとこ。けっこーいい音鳴りましたもんね」


 気づけばリョウヘイも一緒に隣に座っていた。


「ユリさんもあの日から・・・、怪人が現れた日からけっこー色々あったみたいですよ。それに伴ってガンジュさんも。ユリさんがさっき言ってたように、このMATで働いている人たちも事情が似たような人が多くて、家族が・・・、とか、友達が・・・、とか。あの二人も同じっす。家族を失ってるみたいっすよ」


 あの二人が家族を失っている?この施設のほとんどが?そういえば、一度もそんなことは考えたことはなかった。というか、あの日から自分のこと以外は考えたことが無かったかもしれない。


「リョウヘイはなぜMATに入ったんだ?」


リョウヘイは一瞬俺からの質問に驚いた顔をした。そして答えた。


「俺は、皆みたいに立派な理由はないっすね。誰か周りの人が殺されたとか、ケガをしたとか、そんなのはないんすよ。ただ・・・。許せなかったんですよ。この街を破壊しようとするやつらが、皆を傷つける奴らが、そしてそれをただテレビの前で見てるだけの無力な自分が。俺は、こんな自分でもなにかできるんじゃないかって思って、それでここに来たんすよ」


 リョウヘイは誰かを失っているわけではないのか。なら、俺の気持ちがわかるわけない。やはり俺は一人で戦うべきだ。


「本当は受かると思ってなくて。まあ、その時は裏方にとか思ってたんすけど。何もできない自分が嫌で。俺も誰かを守りたかった。皆を守りたかったんすよ。俺にその力があるなら、俺はみんなのためにその力を使いたいっす」


 そう笑いながら力強く語るリョウヘイの姿が一瞬誰かと重なった。誰だ・・・。前にも誰かが同じような・・・。


「まあ、No.3が言ってた言葉なんすけどね。なんか、初めて怪人が出てきた時だっけな?No.3が言ってたんすよ。この力は皆のため、皆を守るために生まれたって。俺それにすごい心動かされちゃって。」


 そうか、No.3の言葉か。だから、だからか・・・。リョウヘイの姿が一瞬まぶしく見えたのは。あの時もそんな言葉を言っていたのか・・・。


「だから、No.3が死んだって日はめちゃくちゃ泣きましたね。俺のヒーローだったんすよ・・・。て、なんか、俺ばっかり語っちゃいましたね。エイタさんはなんで戦うんすか?マイさん?でしたっけ。よく口にしてるっすよね。この前のイノシシの怪人との戦いのときも。誰なんすか?」

「マイは、俺の幼馴染で、彼女で、俺のヒーローで・・・、彼女は・・・」


ブブーーー!!!ブブーーー!!!


「まじかよ。このタイミングで!?エイタさん、行きましょ!」

「あ、ああ・・・」


 俺たちはすぐにスタンバイルームへと向かった。頭の中ではマイの事でいっぱいだった。マイは俺のヒーローだった。そして、皆のヒーローだ。俺はマイのために、マイの仇をと思い戦ってきた。俺一人で戦って勝たなきゃ意味がない。そう思って戦ってきた。だが、それは間違いなのだろうか?

 俺は走りながらずっと考えていた。だが、それは間違いではない気がする。マイを失って、その仇は俺が取らなきゃいけない。すべての敵を俺の力で全滅させる。他にこれをできる人間がいるか?俺かNo.2しかいないはずだ。やはり、俺が戦うしかない。

 スタンバイルームに着くとガンジュとユリが既に着替え下に降りるところだった。

俺たちが部屋に入るなり、ユリと一瞬目が合った。が、すぐにそらしそのまま下に行ってしまった。

 俺とリョウヘイはすぐに着替え二人の後を追い、すぐに車に乗る。ガンジュが運転席、ユリが助手席に座っている。俺とリョウヘイは後ろのドアを開け乗り込む。と同時にガンジュはすぐにアクセルをべた踏みした。

 しばらくの間、重い空気が流れた。口を開けば世界がひっくり返り粉々に割れるような静寂だ。車の音しか聞こえない。その静寂を破ったのはユリだった。


「エイタ、さっきはごめん。私、冷静じゃなかった」


 俺は何も答えない。


「でもね、怪人を倒したい気持ちは私たちも一緒なの。街を守りたい気持ちは一緒なのよ。だから、エイタの力を貸してほしい。私たちだけじゃ倒せないから・・・」


 俺は何も答えることができなかった。ただ、窓の外を見る事しか。

 ユリもそれをわかっているのか、それ以上言葉を続けることはしなかった。

 そうしているうちに何やら周りの音がでかくなっていく。どうやら現場へ到着したようだ。

 俺はすぐに車を降り方向を確認する。人が逃げてくる方向から敵の方向を予想する。こっちか。俺はすぐに敵のいるであろう方向に走る。


「エイタはそのまま行け。俺たちはいつも通りまずは避難を完了させるぞ。まずは市民の安全が第一だ」


ガンジュの指示が聞こえた。俺はそのまま敵の元へと走る。

 マイ・・・。俺に力を貸してくれ・・・。俺は、お前の敵を討ちたいんだ。すべての怪人を倒せる力を俺に・・・。

 そう祈ると何かが肩に置かれたような感覚を得る。耳元でフフッと聞こえる気がする。マイ、見てくれているのか。俺は少し力が湧いてくる気がした。

 シカの怪人は相変わらずだった。今回も車に体当たり、上から踏みつける。等の行動を繰り返し、不規則に道路を右往左往と駆け、縦横無尽に駆け回ってた。


「今度こそやってやるよ」


俺はそう呟き背中のスターゲイザーに手を伸ばし掴む。一歩、二歩と近づく。足音で気づいたのか奴もこちらをじっと見つめる。前回同様の行動だ。と、なるとこの後一度叫びこちらに向かってくるのか?


「キューーーーー!!!」


シカの怪人はこちらに向かって大きく跳躍し距離を詰めこちらに向かってくる。

 予想通りだな。俺はスターゲイザーを両手で握り右のバッターボックスに入るように構えた。一撃で葬ってやる。そう決め、向かってくるシカの怪人に狙いを定め、スターゲイザーを思いっきり振る。

 ブンッ!と大きな空気を切る音が聞こえる。その風圧で周囲の車が少し動く。シカの怪人は俺のスイングに合わせ跳躍したためスターゲイザーには当たらなかった。

 チッ、ダメか。俺はすぐに構えを止め、片手で握りなおす。そう簡単には仕留めさせてくれない。俺はすぐに体制を整え次の攻撃に備える。奴の攻撃パターン的には上から踏みつぶしに来るだろう。俺はその攻撃に備えた。

 予想通り、シカの怪人は俺のフルスイングを避けた直後に方向を変え俺の上から踏みつぶすように攻撃してくる。俺はそれを読み、一歩後ろに引きそのタイミングに合わせ降りてくるシカの怪人の頭にスターゲイザーを叩き込む。


「キュッ・・・」


 シカの怪人は小さく声を上げ、後ずさりする。するとこちらをじっと見つめたのち、クルっと方向を変え最初にいた方とは逆の方向に逃げ出した。


「ちょ、待て!!」


 俺は一瞬呆気にとられたがすぐに追いかけた。そう何度も逃がすわけにはいかない。俺はすぐに奴の背中を追う。

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