第4話 実力

 間もなくしてイノシシの怪人はMATの回収部隊によって回収された。頭部を完全に破壊したことによって倒したとのことだった。回収部隊も実際に回収するのは初めてだったためどうもバタバタしていた。


 その場で倒れてしまった俺はリョウヘイに支えられながらその場を後にした。


「すごかったすねエイタさん!俺感動しちゃった!!いやー、特にイノシシの牙を掴んだ時は感動しちゃいましたね!えっ、まさか!!てなりましたもん!ユリさんを守った瞬間なんてまさにヒーろ・・」

「うるさい。早く行くぞ」

「だってすごかったじゃないですか!いやー、俺なんか全然活躍できなかったもんなー。すごい、ほんとすごい。ほぼ一人で倒したようなもんだもんなー」


 俺はいまいち実感が湧いていなかった。本当に俺が倒したのだろうか?うっすらと記憶にはあるがそこに意思はなかったような、意識がなかったような。まるで夢を見ているようだった。はっきりと気づいた時には空が見えていた。確かに覚えていることはマイの声が聞こえたような・・・。なんにせよ俺の力で怪人を倒すことができたのだ。これなら・・・。


「にしても、あれはなんだったんすかね?エイタさんがユリさんを守ろうとした瞬間にスターゲイザーが光ったように見えたんですよねー」

「スターゲイザーが光る?そんなことは聞いたことが無い。No.2からもそんな説明はなかったぞ」

「ですよねー。まあ、晴れてたし見間違っただけかもっすね!」


 スターゲイザーが光る?ユリを助けた時に?だからあの怪人も倒すことができたのか?だが、そんなことはNo.2は何も言っていなかった。この武器を渡された時に説明があるはずだが・・・。

 俺たちは疑問を残しながら初めて怪人を倒した現場を後にした。

 MATに戻るなりすぐに俺たちはNo.2の部屋に集められた。


「よくぞ怪人を倒してくれた!万が一の時はと私も構えてはいたのだが、まさかしっかりと倒してくれるとは!いやーよくやってくれたよ!ユリ君はかなりの傷を負っていたが命に別状はないとのことで、少し休めば大丈夫みたいだよ」

「お褒めの言葉ありがとうございます。これもNo.2にすべて準備していただいたおかげです」

「いやいや、ガンジュ君。私は何もしていないよ。むしろ本来なら私が戦わなきゃいけないところなのだが、君たちのおかげで助かったよ。私はしばらく戦えそうにないのでね」

「はい、ご期待に応えられるよう頑張りたいと思います」

「特にエイタ君。君には期待しているよ。最後なんかすごかったみたいじゃないか。ユリ君を守りながら怪人と戦ったんだろう?立派なヒーローだな。きっと彼女も・・・。とにかく初陣お疲れ様。すぐに次の怪人が現れることはないだろう。少し休むといい」

「ありがとうございます。ではこれで失礼いたします」


俺はガンジュに続いて部屋を出ようとする。が、現場でリョウヘイが言っていた言葉を思い出し、振り返りNo.2に尋ねた。


「No.2、一つ聞きたいんですが、僕の武器、つまりはスターゲイザーに何か特殊な効果というか、特殊な能力みたいなのってあるんでしょうか?例えば持ち主に力を与えるとか」

「いや、そんな力はないと思うよ。スターゲイザーという名前は付け、強度や機能性などはその辺の武器とは比べ物にならないが、だからと言ってそういった類の効果はないな。所詮はただの棍棒だ。スターゲイザーがどうかしたのかい?」


俺は戦闘中の出来事、不思議な感覚の事を話そうか迷ったが話すのを止めた。


「いえ、なんでもありません。失礼します」


そう言って俺も部屋を出る。部屋を出る際に最後お辞儀をしたのだが、NO.2は少し誇らしげ、嬉しそうな表情が見えた。


「なんでNo.2って戦わないんすかね?いくら国との会議があるからって俺らみたいなのに任せるより自分で戦った方が確実じゃないっすか?ぶっちゃけ国も会議してる暇あるなら戦えよ!とか言わないんすかね?」

「あの人は戦わないんじゃなくて戦えないんだよ。だから俺らの部隊、そしてMATを作ったんだ。じゃなきゃ国もこんな施設に資金なんて出すわけがないだろ?」

「あー、確かにそうっすね。なんで戦えないんすか?エイタさん知ってます?」

「俺はそんなことどうでもいい」

「えー、気になるけどな。ガンジュさんその感じだと知ってるんすか?」

「いや、俺も詳しくは知らない。ただ、今日戦った怪人の親玉とやり合った時に傷を負った。らしい。MAT設立宣言の会見時もそう言っていたからな。ただ、それ以上の情報は俺もわからん」


 怪人の親玉とやり合った時・・・。俺は少しの息苦しさを感じた。

 奴だ。奴こそすべての元凶だ。


「なんにせよ、俺たちは今No.2から怪人退治を任されていて、今日それを成し遂げたってことだけははっきりしている。もう少し国からの予算もおりるかもしれないな」

「おお、てことは給料も上がるかもですね!楽しみ~!!」


 エレベーターに乗り、各々部屋へと帰っていった。俺も自室に戻りベットに横たわる。少し疲れた。ようやく、ようやく第一歩を踏み出すことができた。俺はやれる。これなら奴を殺せる。俺が必ずこの手で・・・。俺は少しの間、目を閉じることにした。瞼の裏にはぼんやりとイノシシの怪人を倒した記憶と、マイの姿が映し出されていた。


「敵を倒したんだってね。さすがエイタ。昔からやる時はやるタイプだったもんね」

「マイ・・・。マイなのか・・・?」

「まあ、昔は私が守ってあげることの方が多かったけど(笑)」

「俺は、俺は勝てるのかな??」

「大丈夫よエイタ。私がついてる。エイタならきっと大丈夫」

「マイ・・・。俺の横にいてくれよ・・・」

「・・・」

「・・・マイ?マイ?どこ行ったんだよ?マイーーーー!!!!」


 俺の頬を何かが伝う感覚を感じ目を覚ました。俺はなぜか右の腕を上にあげていた。


「大丈夫っすか?だいぶ大きな声聞こえてましたけど?」

「・・・なんでもない」

「さすがのエイタさんでも疲れてるんすね。しっかり休んでくださいよ~」


 リョウヘイはそう言い部屋を後にした。

今のは夢だったのだろうか。それにしてはリアルだった。今まで何度もマイの夢は見てきたがマイがこちらに話しかけてきたのは初めてだった。

 俺は再び瞼を閉じた。が、そこにマイは現れることはなかった。


 数日後、俺は一度実家に戻ることにした。マイの夢を見てから、どうも気になりマイの写真が欲しくなったのだ。No.2に相談したところ、「今のところ反応も確認できていない。少しくらいなら大丈夫さ」と許可ももらった。


「ただいまー」


家からの反応はない。じいちゃんは外に出ているのだろうか?家に入りすぐに自室に向かった。じいちゃんがこまめに掃除をしているのだろう。家の状況は俺が家を飛び出してからと何ら変わりはなかった。

 自室には好きだった野球選手のポスターやアイドルのポスター、バンドのポスターなど、ザ・高校生という部屋のままだった。俺はいつもとのギャップに少し口元が緩む。机に目を向けるとそこには多くの写真が当時のまま並べてあった。その中の数枚にマイは映っている。


「マイ・・・。」


俺はそう言いマイと二人で映っている写真に手を伸ばす。


「久しぶりだなエイタ」


その声の正体はじいちゃんだった。俺を一人で育て上げてくれたじいちゃんだ。そして俺の師匠でもある。


「怪人を倒したんだってな」

「うん」

「かなりギリギリだったそうじゃないか」

「・・・うん」

「ったく。まだまだ修行が足りないみたいだな。あんな怪人ごときに一度負けるなんぞ」


じいちゃんはその蓄えた顎鬚を触りながら表情を変えず話す。


「もう少し仲間と戦うことを覚えろ。せっかくいいチームなんだろ。それを活かさずしてどうする」

「でも、俺一人で奴を・・・。奴らを倒したいんだよ!!」

「はあ・・・」


じいちゃんの眉間にしわが寄る。困った顔にも見えるし少し表情が綻んだようにも見える。


「お前は父親に似てきたな」

「父さんに?」

「そうだ。お前の父親も一人ですべて抱え込む人間だった。なまじなんでもできてしまうから余計にな。が、それですべてうまくはいかない。人の助けが、協力が必要な時もある。それをお前の親父は学び成長した」

「そうだったんだ・・・」


 じいちゃんの口から両親の話を聞くのは初めてだった。俺は幼いころから両親はおらず、じいちゃんからは「死んだよ」とだけ告げられていた。それ以来、俺は両親に関しての質問はしてこなかった。


「お前はまだ若い。からこそなんでもできると思っているだろう。いや、今は自分がやらなきゃと自分を縛り付けている。だが、忘れるな。お前の周りには仲間がいる。そして、その目的のためにはその仲間の協力が必要な時もある。お前がやろうとしていることは本当にお前一人だけの問題なのか?」

「でも・・・。俺はマイの仇を・・・」

「もちろんそれはわかっている。だが、お前が死んだらその目的は誰が果たす?だったら仲間と協力してでも、確実に目的を果たせるようにした方が良いだろう」

「・・・うん」


俺は何も言えなかった。ただ返事をすることだけだ。


「彼女は仲間との協力はできる子だったぞ」


じいちゃんはそう言いながら机の上の写真を見る。その視線の先にはマイがいた。


「もう行け。お前のするべきことが何なのか、わかっているだろう」


 俺は机の上のマイの写真を一枚取り部屋を出る。

仲間?俺には必要ない。俺より弱い奴の力なんて借りなくても怪人は倒せる。イノシシだってそうだ。奴を倒したのは俺だぞ?俺一人で十分だ。

 俺は来た時よりも少し重い気がする足取りでMATへと戻る。空は少し雲に覆われていた。

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