第3話 イノシシの怪人
イノシシの怪人は再びこちらをターゲットにし、狙いを定めている。俺は再び構えをとる。すると次の瞬間、「ヒュッ」という音と共に矢が飛んでくるのが見えた。矢はそのままイノシシの怪人に当たると「バチバチバチ」とものすごい音を立て、目に見えるほどの電流が流れ始めた。
さすがのイノシシの怪人でも食らったようで、先ほどまでとっていた構えを解き悶えは始める。俺は思わず舌打ちをした。
「あ、やっぱりこの武器有効なんすね。罠って電気流れる物もありますもんね。昔やってたゲームでも有効だったもんなー」
「余計なことはするな」
「あれ、エイタさん怒ってます?でも前回同様に戦ってちゃ勝てないっすよ。みんなで協力しないと。もうすぐ二人も合流しますよ」
チッ、邪魔するんじゃねえ。俺一人で十分だ。何のためにここまでやってきたと思ってる。こいつらを倒すためにやってきたんだよ。お前らの手なんか借りなくていいんだよ。
俺はリョウヘイの声を無視してイノシシの怪人へ攻撃を仕掛ける。一撃で無理なら何発でも入れてやるよ。距離を一気に詰め、その頭目がけてスターゲイザーを振り下ろす。が、イノシシの怪人は電気に悶えるだけでこちらの攻撃は効いていないように見える。ならばもう一発。俺はもう一度武器を振り上げる。
ドン
腹に衝撃を感じた。気づいた時にはイノシシの怪人との距離が開いている。どうやら電気が解けていたようだ。俺は再び奴の攻撃により宙を舞っていた。が、前回ほどの威力はなく、まだ意識が飛ぶほどではない。ぐっ、一瞬空が見えた。がすぐにイノシシの怪人に対して顔と体を起こした。
奴が再び構えをとっている。まずい、やられる。
「まだ、充電できてないっす!エイタさん起きて!!」
「くそ、すまんマイ・・・。お前の仇が・・・」
が、イノシシの怪人はこちらに向かって攻撃を仕掛けてこなかった。いや、仕掛けることができなかった。
「危なかったねエイタ。間に合ってよかった」
目の前のユリの声が聞こえる。ユリがイノシシの怪人に対して強烈な蹴りをお見舞いしたのだ。
さすがにイノシシの怪人も予想外だったのか一瞬よろけた。
「うおおおおおお!!!」
が、雄たけびを上げるとすぐにユリの方へ向きなおし今度はターゲットを変え攻撃の構えをとった。二、三回地面を蹴りだすような動作を見せ、そのままユリに向かって突っ込んでいった。
「避けろユリ!吹っ飛ばされるぞ!」
俺は無意識のうちにユリに言葉をかけていた。
ユリは冷静にイノシシの怪人のタイミングに合わせてしゃがみ、大きくジャンプした。するとひらりと攻撃をかわし華麗に地面に着地した。イノシシの怪人はそのまま2~3メートル進んだところでゆっくりと止まり、不思議そうに振り向いた。まるで手ごたえがなかったことが不思議だと言わんばかりに。
「これはもしかすると・・・。やってみる価値はあるかもしれないな」
イヤモニからガンジュの声が聞こえる。
恐らくどこからかユリとイノシシの怪人との戦いを見ていたのだろう。
「エイタ、大丈夫か?まだ戦えそうか?」
お前に心配されなくてもこっちはまだやれる。俺は腹部に感じた痛みを呼吸法で何とか抑えながら立ち上がる。
「よし、大丈夫そうだな。俺に少し考えがある。恐らく奴はその見た目の通り攻撃を仕掛ける時は真っ直ぐにしか進めない。そして、ターゲットへの攻撃に手ごたえが無いとしばらくして止まるだろう。そこにチャンスが生まれるかもしれない」
イノシシの怪人はガンジュの会話の最中もユリに攻撃を仕掛けていた。が、ユリはその攻撃を幾度となく躱す。が、決定的な攻撃は与えられないため防戦一方になっている。
「どうします?一旦電流で足止めますか?」
「いや、今はユリが引きつけてくれているし、攻撃が当たる様子もない。もう少し分析しても大丈夫だろう。その電流はもう少し後に取っておいてくれ」
「了解っす。しばらくは爆発の方で援護します!」
確かに、ユリとイノシシの怪人との攻防を見てもイノシシの怪人は単調な動きを繰り返している。だから、ユリとイノシシの怪人はしばらく同じことを繰り返している。ここで必要なのは俺の攻撃か?
俺はすぐに横に落ちていたスターゲイザーを拾い上げ、呼吸を整える。
「マイ、見ていてくれ」俺は声になるかならないかのボリュームでそう呟き、ユリがしゃがんだタイミングで一気に距離を詰める。そして、ユリが上に跳びあがり攻撃を躱した2~3メートル先に立ち、イノシシの怪人が減速するのを確認すると同時にスターゲイザーを振り下ろす。今までとは比べ物にならないほ感触があった。やったか?
イノシシの怪人は今まで以上の攻撃に恐らく驚いたのかダメージを受けたのかどうかはわからないが、そこにうつむいたまま動かなくなる。
「やったか?」
いや、確かに手ごたえはあったが今までのこいつのタフさからして今の一撃で倒れるとは思わない。予想以上の一撃に驚いているのか?こいつには少なくとも驚くに似た感情があることはさっき確認した。となると・・・。
俺はすぐに構えた。
「ブギャアアアア!!!!」
それは今まで聞いたことのない叫び声だった。
そしてそれと同時にイノシシ怪人の全身の毛が逆立ち始めた。
「おいおい嘘だろ。怒り状態ってとこっすか?」
「全員今まで以上に気を引き締めろ。何か来るぞ」
イノシシの怪人は空に向かってもう一度咆哮を上げると、こちらに顔を向けた。
その顔は今までと違い牙の長さは長く、鋭くなっており、目つきも今までと違う。先ほどよりも鋭くなっている。
俺はすぐに距離を取り、ユリの近くまで下がる。ここは距離をとった方が良い。俺の勘がそう告げていた。
イノシシの怪人はいつもの攻撃動作に入った。が、その地面を蹴り上げる動作は今までの比ではないほど地面が抉れていた。
「ユリ、絶対に避けろよ」
「大丈夫よ。ガンジュも私が避けていたところ見ていたでしょ?」
次の瞬間、イノシシの怪人はこちらに向かって走ってくる。
嘘だろ・・・。今までよりも数倍早いスピードでこちらに迫ってくる。
ターゲットはユリのようだ。だがユリはすでにしゃがみこんでおり、回避の体制をとっていた。先ほどのように攻撃を空中で回避。したかに思えた。が、イノシシの怪人はとび上がる途中のユリの足を掴んだ。
「ユリ!!!」
ユリはそのまま地面に叩きつけられる。「きゃあああ!」という叫び声と共にユリは地面に寝そべったまま動かなくなる。
イノシシの怪人はユリに背を向けゆっくりとユリとの距離を取る。数メ―タ―距離をとったところでイノシシの怪人は再びユリの方に向きなおす。
ガンジュが走ってくるところが見える。それと同時に俺も走り出していた。イノシシの怪人はいつものように地面を蹴り上げユリに向かって突進している。
「やめろーーーー!!!!」
俺はユリの前に立ち、イノシシの怪人の牙を掴んだ。が、そのまま後ろに押されていく。このままじゃユリが巻き添えになる。俺は全力を振り絞りその突進を何とか止めようとした。が、じりじりと押されて行く。
「ユリ!!!」
どうやらガンジュがユリの元へ駆けつけたようだ。
「早くユリを連れてそこをどけ!!」
「あ、ああ、すまない」
ユリがガンジュに連れていかれてターゲットが居なくなったが、イノシシの怪人の力は緩まない。力比べか、やってやろうじゃないか!!
「エイタならできるよ」
声?ユリ?のではない別の誰かだ。
次の瞬間、体がふと軽くなった。いや、先ほどよりも全身に力が入るような感じがする。なんだこの感覚は。よくわからないがいけそうな気がした。
イノシシの怪人もそれを感じたのか、急に動かなくなった俺に対してより力を加えてくるのがわかる。が、それでも俺は余力があった。
フンっ
俺が力を籠めると、イノシシの怪人の動きがピタリと止まるどころか、横に倒れていた。俺の手には牙が握られている。俺はその牙を横たわるイノシシの怪人に対して投げ返しスターゲイザーを取りに行く。
スターゲイザーを握ると今まで以上に力が湧いてくるような感覚を得た。今ならやれるかもしれない。
俺はイノシシの怪人が起き上がるのを見届け、真っ向から勝負を挑もうと思った。
イノシシの怪人がいつものように攻撃の体制に入る。いや、この地面の蹴り上げは今までの攻撃など比にならないほどだろう。
「来いよ!!」
俺がそう声を上げるとイノシシの怪人はこちらに向かってくる。
俺はスターゲイザーを構える。奴は一瞬で距離を詰めてくる。それに対して俺は構えたスターゲイザーを奴の腹に叩き込む。ドンッ!!という鈍い音と共にイノシシの怪人がうずくまるのが見える。
「効いてるっすよ!!」
俺はもう一度構える。
「お前らのせいで。お前らのせいでマイは死んだんだ。お前らのせいで!!!」
渾身ともいえる一撃をその頭に叩き込む。イノシシの怪人は初めて地面に伏した。
が、まだ起き上がろうとする。
「俺は、必ずお前らを倒す。そしてマイを殺した奴を必ず、必ず見つけて殺してやる」
そのままイノシシの怪人の頭部へともう一度スターゲイザーを振り下ろすと、イノシシの怪人は声を上げることなくその起き上がろうとしていた手を地面に伸ばした。
「やった、やったぞ・・・。マイ・・・・」
俺は体が倒れようとするのを感じ、止めようとしたが抗うことはできなかった。
そのまま空が見えるように寝転がる。
空は雲から太陽が少し顔を出していた。
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