第2話 チームメンバー

 最初に怪人が現れたのは2~3年前、俺がまだ大学生だったころだ。そいつらはどこからともなく現れると同時に街を破壊した。そして自らをこう名乗った「我々は怪人だ」と。その中心となっていたのが白い女の怪人だ。奴は人語を話した。そしてその口でこう告げた。


「我々はこの街を破壊しに来た。ゆくゆくは全国を破壊する。目的はない。ただ街を破壊するためだけに生まれたのだ」


と。最初に襲撃された街は大きな混乱と被害を受けた。以前までは栄えていたその街が見る影もなかった。ビルは崩れ、道路は大きく隆起し、車は潰されていた。俺達国民は恐怖に震え、怯えた。だが、希望もあった。それがNo.2とNo.3の存在だ。全国の人々が彼らこそが怪人を倒す者だと大きく期待を寄せ、連日メディアで放映した。

皆が「俺達にはヒーローがいる」そう口にするのだった。

 だが、その期待とは裏腹に、次の街も大きく被害を受けた。人々の期待が大きかった分、ヒーローたちは大いに叩かれた。「お前たちがしっかりしないから」「お前たちが守らないでどうするんだ」「お前らは役に立たないのか」

 SNSやテレビで連日ヒーローは叩かれた。だが、彼らは必死に何とかしようとしていた。そんなヒーローを擁護し応援する人々もいた。


「みんな自分勝手だよね。でもそれだけヒーローは心の支えになってるってことだよ」

「人々ってのは勝手な生き物だからね。僕なんかも戦う力はないから、ヒーローに託すしかないんだ。だからこそ自分たちが戦わない分好き勝手言えちゃうのさ」

「エイタはどっち派なの?アンチ?味方?」

「そりゃ僕は味方さ。僕らの代わりに戦ってくれてるんだよ?応援しないでどうすんのさ」

「だよね。私もおんなじ!」


 マイはそう言うといつものようにニコッと笑い、玄関へ向かった。


「また明日来るから!!明日はー、カレーかな?」

「オッケー、作っておくよ」

「じゃ、楽しみにしてまっす」


 そう言い手を振りながら玄関を出たマイ。最後まで玄関の隙間から顔を覗かせて。

そして、それが俺が最後に見たマイの姿だった。


 俺は退院し、すぐに所属している怪人殲滅組織、通称MAT(Monster person Annihilation Team)の施設に戻った。またいつ怪人が現れるかわからない。それなのにいつまでも病院にいる訳にはいかない。その思いが通じたのか傷の回復は早かったようで2~3日早く退院することができた。


「お、エイタさん。復活早くないっすか?」


お調子者のリョウヘイが声を掛けてくる。こいつはいつもこの調子だ。俺との距離をグイっと詰めてきて話を続ける。


「この前のイノシシだけど惜しかったすよね~、特に最後の。俺あれで仕留めた!って思たんすけど、やっぱりそううまくはいかないっすね。やっぱり向こうも人間とは違うというか。次は確実に仕留めなきゃな~」

「俺一人で十分だ。お前は黙ってみてればいい」

「いやいや!確かにエイタさんは強いですけど、さすがに怪人相手に一人はきついっすよ!みんなで一緒に・・・ってエイタさん??」


こいつの話を聞く必要はない。俺は一人で戦う。俺一人でやらなきゃいけないんだ。

俺はすぐにトレーニングルームに入った。


 一通りトレーニングをし、最後のランメニューをしていると隣に気配を感じた。

チームの一人ガンジュであることがその声でわかった。


「もう退院したのか。もう少しかかるとNo.2から聞いていたが、さすがは俺たちのエースだな。体はなんともないのか?」

「ああ、問題ない」

「そうか、それなら良かった。これからミーティングをしようと思うんだがどうだ?初戦とはいえやはり俺らみたいな人間が怪物とやり合うにはもう少し知恵が必要みたいだからな」


俺は構わずランを続ける。


「エイタも思うところはあると思うけどさ。もう少し一緒にやってみない?」


別の声が聞こえた。この声はユリで間違いないだろう。

俺は少しペースを上げた。が二人はまだついてくる。


「俺たちもお前と同じ気持ちだ。この国の平和を守りたいんだよ。そのためにはエースのお前の力が必要なんだよ。俺達だけじゃ勝てるはずがない。頼む」


俺は今よりもペースを上げる。と同時に足音は聞こえなくなっていた。

化け物め・・・。とだけ呟くのは聞こえていた。

どうやら諦めたようだ。それでいい。俺は誰の力も借りる気はないし、協力する必要もない。俺一人でやるんだ。でなきゃ・・・マイは・・・。

俺は不意に襲ってきた体にまとわりつくような嫌な感覚、体の真ん中が重くなるような気持ちを消すためにさらにペースを上げる。

くそ、クソ、くそっ!!!


さすがにペースを上げすぎたようで俺は床に倒れこんだ。はあ、はあ、と自分の呼吸が鮮明に聞こえる。頭がクリアになっていくのを感じて安心すると同時に、イノシシ怪人との戦いが再生される。どうすれば勝てる?どうすれば奴を倒せる?あと何が足りない?奴は何番目の強さなんだ?いくら考えるのをやめようと思っても自動再生のように止めることができない。


「病み上がりなのに頑張りすぎじゃないの?」


どこからか声が聞こえる。俺はすぐに体を起こし周囲を見渡す。が、誰の姿もない。奥でトレーニングしている、ユリの声でもなかったしこの距離ならこんなに鮮明に聞こえない。それにこの声は・・・。

が、いくら探そうが声の正体は見つからなかった。ついに幻聴でも聞こえ始めたのだろうか。


 トレーニングを終えた俺は自室に戻る準備をしていた。いつもより少し体が重い。無理をしすぎたか。


ブブーーー!!!ブブーーー!!!


警報が鳴り響く。

嘘だろ、今来るのかよ。俺は手に持っていたドリンクを飲み干すと同時に部屋を飛び出した。まあいい、このモヤモヤを晴らすいい機会だ。今度こそ倒してやる。


「なんて顔してんすか。ちょっと怖いっすよ?」


リョウヘイもこの警報と共に走り出していたようだ。


「思ったよりも出てくるの早かったっすね。相変わらずこっちのタイミングなんか気にしてないけど。場所は割と近くみたいっすよ」


右手の部屋に駆け込む。すでに準備を終えていたガンジュとユリが待っていた。


「急げよ。俺たちは先に車に乗っている」


そう言うと二人でエレベーターに乗り下へ降りていく。俺もすぐに準備をしなければ。俺はすぐにロッカーを開け、強化スーツに着替える。これのおかげで前回は腹が破けなかったと言っても過言ではない。「No.2」が俺たちの戦いに備え制作したものと言っていた。並みの人間でもオリンピアンほどの力を手に入れる事ができるスーツで、銃も効かない使用になっている。仕組みはよくわからない。着替え終え、武器「スターゲイザー」を取り出す。今度こそ。またもや握る手に力が入る。


「俺も行くっすよ。エイタさんは?」


エレベーターへ先に乗り込んでいたリョウヘイと共に俺も下へと降りる。

扉が開きすぐに車へ乗り込んだ。


「よし、行くぞ」


ガンジュが運転する車はサイレンを鳴らしながらとてつもないスピードで発信する。この車も「No.2」が特別に国に許可を取ったものらしい。法定速度を優に超えた速度で現場に向かう。


 現場は既に悲惨なものになっていた。ビルは崩れ、人々は逃げ惑っていた。車が止まる前に俺は車を飛び出した。


「あ、ちょっと!!」


ユリの声がうっすら聞こえてはいたが、そんなことはどうでもいい。奴はどこだ?


うおおおおおお!!!!


聞き覚えのある雄たけびが聞こえる。そしてその方向と反対方向に逃げる人々。こっちか。俺は人々と逆方向にすぐさま走る。人々はその恐怖から、逃げる事だけを考えているからか俺の事などその目には映っていない。少し口元が緩むのを感じながら俺は逃げる人々を避けながらそちらに向かう。


「久しぶりだな!!!お前にやられてから寝れやしない。お前に会えるのを楽しみしていたぜ」


俺がそう声を上げると、イノシシはこちらに気づき振り返る。

「やるぞ、スターゲイザー」右腕にグッと力を籠める。奴がこちらに走ってくるのがわかると同時に俺は構える。


どらああ!!


振り抜いたスターゲイザーは顎を捉えた。が、勢いは止まらず俺も体に衝撃を受ける。そう簡単にはいかないよな。


俺は再び距離を取り相手の出方を伺う。

同じ相手に二度も負ける訳にはいかない。



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