復讐の果てに ~NO.4~

矢口ウルエ

第1話 はじまりの戦い

 クソッ・・・。俺一人で勝てなきゃ意味がない。

俺は必死で頭の中を回転させて敵に勝てる方法を模索した。まさかここまで怪人が強いとは思っていなかった。俺はチームで成績トップだぞ?今すぐにでも地面を叩きつけたい気持ちを抑えることで必死だった。


「おーい。エイタどこにいるの?さすがに協力しないと倒せないよ?」


インカムから声が聞こえる。うるさい。お前らの力なんて必要ない。俺は俺一人で奴を倒さなきゃいけないんだ。


「うおおおおお!!!!」


イノシシの怪人の雄たけびが聞こえる。くそっ、見つかったか?俺は自身の対怪人用棍棒型武器「スターゲイザー」を握っている手にも自然と力が入る。やるしかない。

俺は立ち上がり隠れていたビルの陰から顔を出した。どうやら奴はさっきの場所からまだ動いてはいないらしい。向こう側を見ている今がチャンスか?

俺が一歩踏み出すタイミングで再びインカムから声が聞こえた。


「エイタさん、飛び出すなら今がチャンスっす!援護するっすよ。ってちょっと!エイタさん!」


その距離、40、30mと詰めていく。奴はまだこちらに気づいていない。

ピュッと空気を切り裂く音が聞こえると同時に敵の頭部が爆発する。いける!

俺はスターゲイザーを大きく振りかぶり奴の頭があるであろうその場所に叩き込んだ。鈍い音と共に手に感触が伝わる。やったか?


「うおおおおおおおお!!」


俺は思わず耳を塞いでしまった。

ぐはっ・・・

それと同時に腹部から背中にかけて衝撃を感じた。うっ。まずい、意識が飛びそうだ。俺はふわっとした感覚を得たのち全身に力が入らなくなるのを薄れゆく意識の中でかろうじて感じた。奴の足元だけが見えている気がした。


「待てよ・・・」


俺の言葉は奴の耳には届いていなかった。


 次に目覚めた時には真っ白の天井が一面に広がるだけだった。

俺が負けたと理解するまでにそう時間はかからなかった。と同時にやり場のない怒りがこみ上げるのを感じた。


「くそっ!!!」


俺が右手を布団に叩きつけようとしたその瞬間、部屋の扉が開く気配がした。


「随分とやられたようだね」


”No.2”それが彼の名前だ。


「チームの皆は無事だよ。報告も聞いているし映像も見た。まったく君は・・・。そんなに死に急いでも良いことはないんだよ?」


「俺がやらなきゃ意味がないんです。他の奴らじゃダメだ。俺にはもっと・・・、もっと力がいるんです」


「上昇志向は良いことだけどね。けど単独で行動して敵を逃がしたとなればもう少し考えなきゃいけない。君たちはチームなんだ。何のためのチームなのか。少し考えてからでもいいんじゃないかな」


俺は何も言い返せなかった。確かに俺があの時一人で動き、その結果敵に逃げられている。もう少し力があれば・・・。


「君が強いことは十分わかっている。皆もそれを理解しているよ。でもそれじゃダメなんだ。僕らは市民の安全を守りながら敵を倒さなきゃいけない。敵を逃がすとなるとその目的は果たされないんだよ。僕がなんのために君たちをチームにしているか、もう一度よく考えてほしいね」


「・・・すいません」


「まあ、皆が無事だったんだ。幸い、あのイノシシの敵もまだ街に出てきてはいない。君の最後の攻撃が効いているのかな?ともかく死者なしなんだから初陣としては上出来だよ」


彼は俺に白い歯をニカッと見せた。俺は自身の力のなさを再び嘆いた。勝てなきゃ意味がない。


「まだ敵が動く気配もなさそうだ。君は安心して今は休んでくれ。医者の話じゃもうすぐ退院できるそうだよ」


彼が後ろを向きドアへと歩き出した。

自身の拳に自然と力が入っているのがわかる。

バタン、と音が聞こえると同時に俺の右手は布団を叩きつけていた。

このままじゃダメだ。もっと強くならなきゃいけない。もっと、もっと・・・。

そうじゃなきゃ・・・。



 ドアが鈍い音を立て閉まる音が響く。一人の男が電話をしながら車に乗り込んでいる。


「うん、彼は元気そうだよ。もう少ししたら退院、即動けるだろう。というか彼は即動くだろうね。君たちは彼をフォローしてあげてくれ。彼のチームではないが彼の力が必要であることも確かだ」


 男は電話しながら運転手に出してくれと合図を送る。


「そうとう悔しがっているから無理にでも動くだろうね。少し無理を言うがコントロールしてやってくれ。もし難しいようなら私に言ってくれ。彼は私の言うことなら聞いてくれる」


 男がしばらく話したのち車が目的地にたどり着いたのか、ある建物の前で停車をする。


「まあ、そういうことだからあとは任せるよ。こっちは国の予算をおろすのにもう少し時間がかかりそうだ。イノシシの事はこっちで探しておくから君らは体を休めていつでも戦えるようにしてくれ。君たちの活躍にかかっているからね」


 男はそう言い残し電話を切ると白い歯をニカっと見せる。

車を降り一つ伸びをすると、男は建物へと入っていく。

"MAT"と大きく書かれたその建物に男が入ると、皆が男の方へ向き声を掛ける。


「おかえりなさい、No2」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る