私の帽子

 ベランダの隅に私の帽子が落ちていた。去年の今頃強い春風に攫われた帽子だ。まさか一年経って帰って来たと言うの? 恐る恐る被ってみるとふわりと周囲に花々が生じた。桜の花弁に初夏の薔薇に秋の……どうやら私の帽子はこの一年旅をしてきたようだ。歩き出すと周囲に浮かぶ花の輪もくるくる回って数を増やしながらついて来る。

「おかえりなさい、私の帽子」

 旅の話を聞かせてね。小さな花の旋風を引き連れて、私はそっと歩き出す。

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