第1話 出会い

デマントイド村。そこはインペリアル王国の辺境地に位置する、魔物が滅多に現れない平和村だ。辺りには豊かな畑が広がり都市への道も1本しか通っていない、俗に言うド田舎だ。

そんなド田舎に暮らしている俺は今窮地に陥っていた。


食べ物がない。


こんな村では当然自給自足生活が強いられ、どの家も一つは畑を持っているのだが、今年は不作。何故か村の土の状態が悪くなりあまり作物が取れず、狩りに出ても動物がほぼ全くいない。月1で届く国からの支給品だけが頼りで、普段はあんなに仲のいい村の人達もその時だけは戦争でも起きそうな勢いで食品を取りに行く。無論俺もその中の1人で、比較的背の高い俺は人々の群れをサクサク掻き分けて食品を手に入れられるのだが、今回は支給自体が少なく1ヶ月も経たないうちに尽きてしまったという訳だ。


そんな訳で俺は今、1、2回ぐらいしかやったことのない狩りに出ている。普段は村の売り

場に売ってあるものを買うのだが、こんな時期に肉が売ってるはずもなく。5日間何も食べ

ず限界を感じた俺はこうして危険な森の中に出たわけだ。安物ではあるが弓矢や剣を買っておいてよかった。

森の草木を掻き分けて進むも数時間。全く獲物に会わない。元々少ない体力も限界に近づいてきた。息を上げて進んだ先にようやく何かが見えた。視界が開けた先に見えたのは────


二足歩行をする大きな豚


オークだ。

オークとは人のように立って行動する豚のような見た目のモンスターで、その肉は普通の豚よりも脂が乗っており上質なため、高く取引される一般人にはなかなか食べれないものだ。しかし見た目とは裏腹に素早く、それなりに賢いため、討伐依頼は低ランク冒険者にも出るが始めたての冒険者はそこそこ苦戦するレベル。

つまり、今目の前にいるのは俺にとっては最高の獲物という訳だ。ただ、俺の戦闘経験と敵のレベルが合っていない。ここは引き返さないとと思うがオークはこちらを見ている。俺の気配に最初から気付いていたようだ。


今俺は第2の窮地に陥った。


俺に残された選択肢は2つ、戦って死ぬか逃げきれずに死ぬか。それなら俺は...


「か、かかってこいよ!」


少しでもダメージを与えて逃げやすくしてから逃げる!

オークはにやっと笑っ(たように見え)て、手に持っていた斧を俺に向かって振り下ろした。なんとか避けた俺はすぐさま体制を立て直して剣を構える。


「くっそ...俺なんて敵じゃないってことかよ!」


まぁオークからすればその通りだ。装備無し、剣も安物の俺なんて冒険者のぼの字もない。スキルは...弱すぎて役に立たない。


「詰みかよぉぉぉぉ!!」


叫びながらオークに向かって走り、切りつけにいく。が、筋肉が固く傷1つつけることないまま俺はオークの横を通り過ぎた。

すかさずオークは俺の背中を切りつけた。


「いっっっっっっ!?」


背中に感じる生暖かい感覚。人生で初めて深い傷を負った。


「っ...ヒール!」


そう言った瞬間、じわじわと傷が埋められていくのがわかる。しかし遅い。俺のスキル、「回復」はヒールしか使えないポンコツにも関わらず、回復速度も遅いという使えないスキル。だから、傷を負ったら終わりだと思っていた。

そうしている間にジリジリとオークが迫ってくる。逃げなければ、そう思うが背中の傷で上手く動けそうにない。こんな事なら初めから必死こいて逃げておけばよかった。

オークが斧を振り上げ、俺にトドメを刺そうとした瞬間、


「エレキショック」


無機質な声が響いた。すると、別方向から雷のような大きさの電撃がオークに直撃した。


「エ、エレキショック!?あれが!?どう見ても初級魔法じゃないだろ!?」


思わず叫んでしまった。エレキショックは雷系スキルを授かった者、もしくは魔法使い系スキルを授かった者が使える雷属性の初級魔法だ。弱いと静電気レベルの電撃しか打てず、強くても少しビリッとする電撃を打てるだけであんな雷のような電撃を放つ魔法ではない。

その電撃をくらったオークは麻痺しているのかゆっくりとしか動くことが出来ていなかった。驚いて硬直していた俺がようやくその電撃が飛んできた方向を見るとそこにはたった1人、少女が立っているだけだった。再びその少女が口を開いた時が、トドメだった。


「ファイア」


少女の手からまた初級魔法とは思えない強さの炎がオークに向かって打たれる。避けることができなかったオークはそのまま当たり、炎が消えた時には焼け焦げたオークが倒れていた。死体を呆然と眺めているといつの間にか少女が近づいてきていたようで、こちらをじっと見つめていた。


「...怪我はないか?」

「え、あ、背中を少し切られただけで...あーでも自分で回復しているから問題ない!」

「見せろ」


少女が後ろに回って傷を見る。ようやくちゃんと少女の姿を見たが、俺より背が低く、歳も若そうだ。綺麗な白髪を長くのばしていて、目は赤色と青色。オッドアイだろうか?


「ヒール」


少女が呟くと、傷がみるみる塞がっていくのがわかった。


「な、何で...ただの初級魔法なのに...」

「なかなか知識はあるようだな。でも私の初級魔法は他とは違う。」

「他とは違う...?」

「そ。まぁそんなことはいい。少々貴方の情報を拝見させてもらう。」

「じ、情報!?」

「インフォメーション」


俺と少女の間に電子版のようなものが表示された。中級魔法インフォメーションは対象の情報を自分に見せる。魔法技術が高ければ高いほど細かく表示される。


「ケイオス・ディスペアー、男、職業農民、スキル回復、ステータスは...いまいちね。ただの農民がよく戦おうとしたな。」

「あはは...食料に困ってたんで...」

「デマントイド村の者だろう?現状は知っている。私はあの村に派遣された冒険者だ。少々案内してはくれないだろうか。」


そういう訳で、俺は少女を村まで連れていくことになった。ちなみにあのオークは大事な食料になるので、少女が魔法で担いでいった。

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ぼっち少女と一般凡人の俺 プラナリア @pulanaria

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