閑話③ ファンからの贈り物(伊藤視点)

 俺の名前は伊藤真一。

 どこにでもいるしがない大学生……だった者だ。


 そんな俺の日常は、ある日を境に大きく変容する。


 本当はあの時――英雄として祭り上げられた時、本当のことを話しておくべきだったのだろう。


 とはいえ、吐いちまった嘘を引っ込めるには話が大きくなりすぎた。


 だから俺は、嘘を貫き通すことにした。

 そしてそのために、誰よりも強くなることを決意した。


 そんなわけで、俺はタレントとしての仕事やダンジョン配信などの活動を行いながら、その傍らでは必死に修行を続けていた。


 修行と言っても、基本的にはモンスターを倒すだけなんだがな。


 とはいえ配信と違って戦いだけに集中できるのは大きい。


 今日も今日とてモンスターを討伐し続け、俺のレベルは19に達していた。


 自分で言うのもヘンかもしれないが、なかなか頑張ってるなぁと思うぜ。


 そんな頑張りが通じたのか――。


 ある日、俺宛てに一つの段ボール箱が送られてきた。


 マネージャーさんが中身を確認すると、そこにはたくさんのアイテムが。


「わあ、すごいですねこれ。よっぽど応援してなきゃこんなに送ってこないですよ。ほら、自分で中身を確認してみてください。あっ、お手紙も入ってますね」

「えー、どれどれ?」


 マネージャーさんに促され中身を確認してみると、そこにはダンジョン攻略に必要な道具がたくさん入っていた。


 体力回復ポーションに、魔力回復ポーション。

 対モンスター用の毒薬や痺れ薬、催涙ガスなんてのもある。


 そして一番驚いたのが、モンスターの核だ。


「こんな貴重なモノまで!?」


 モンスターの核。

 直接見るのはこれが初めてだ。


 見た目はまるで宝石のよう。

 丸くて綺麗でツヤツヤしてて、大きさはビー玉くらいだな。


 モンスターの核はビニール袋の中に封入されていて、その数は10個近く。


 その中でも格別に目を引くものが2つあった。

 それは他のモンスターの核とは明らかに異質な雰囲気を纏っていた。


「なんだろうな、これとこれ。他の核よりも強い魔力を感じるぞ?」

「とりあえず売っちゃいますか。お手紙にも活動の足しにしてくださいって書いてありますし」

「え、マジすか? ちょっと俺にも読ませてください」

「はい、どうぞ」


 俺はマネージャーさんから手紙を受け取って、読み上げていった。



 ――――――――――――――――――――

 大好きな伊藤さんへ。いつもご活躍楽しく拝見しています。もっともっとダンジョン配信を頑張って欲しいので、微力ではありますがご支援させていただきます。ポーション等、口にするのが怖ければ中身を調べてもらっても構いません。それか、廃棄してくれても大丈夫です。ps.お送りしたモンスターの核は合計で300万程度にはなるはずです。使い道がないようでしたら資金繰りにご活用ください。

 ――――――――――――――――――――



「なるほどなぁ。いつの間にか俺にもこんな熱心なファンが付いてたのか」


 めーっちゃ心痛いんですけど。

 いやまぁ嘘を吐いたのは俺だしね?

 自業自得って言われちゃそれでお終いなんだけどさ。

 それにしたって胸が痛むよこれは。


「とりあえずダンジョン・ショップにでも行きます? 車なら出しますよ」

「そうですね。せっかくのご厚意ですし、無駄にするのも忍びないですから」


 こうして俺は、マネージャーさんの運転する車に乗って、最寄り駅構内に併設されているダンジョン・ショップへとやってきたのだった。



 ――探索者の皆さん、こんにちは。アイテムの査定を開始します。査定したいアイテムを、台の上に置いてください。


 俺は機械音声の案内に従い、ファンから送られてきたモンスターの核を台の上に置いた。


 すると――。


 ミニ・ワーウルの核が三つ、ビッグ・ワーウルの核が二つ、ゴブリン・フラワーの核が三つ、スライム・プリーストの核(特)が一つ、ミニ・ゴブリンの核が二つ、ゴブリン・ビッグの核(特)が一つ。併せて440万円になります。


「うおー、440万円か! 一括で手にするのは初めての金額だな。マジで大感謝! この応援を糧にもっともっと強くなって、吐いた嘘を本当にしてやるぜっ!!」


 かくして。

 ファンからの応援の気持ちを受け取った俺は心機一転、決意を新たにしたワケなのだが――。


 まさかこの日のダンジョン・ショップでの行動が後にあんな事態を引き起こすことになろうとは……この時の俺には、予想もできないことだった。


 

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