第50話 規格外の売値

#


「では、私はこれで失礼します。グッズ展開に関する書類は来週末までには完成させせるので、それまでお待ちください」


 玄関前でペコリと一礼して、内山さんは名残惜しそうに去っていった。


 ギリギリまでライムスに手を振っていたのを見るに、相当に気に入ってくれたみたいだね。


「それにしても未だに実感が湧かないなぁ。まさか私の配信があんなに多くの人に見てもらえるだなんてね」


 私はD・Dを起動して、ランキングを表示した。


 1日経った今でも配信のアーカイブは5位。

 1回更新するだけで4桁単位で閲覧数が増えていくので、やっぱり嬉しくなっちゃうね。


 コメント欄ではライムスがモテモテだったよ。

 やっぱり一番多いのは「かわいい」っていう書き込みだね。


 そんなふうにスマホを弄っていると、田部さんからメールが届いたよ。



 ――――――――――――――――――――

 田部

 <天海さん、お疲れ様です。今後の予定についてなんですが、3日後にきららアカデミー所属のDtuberを集めて歓迎会配信をしたいと思っているのですが、どうでしょうか? 特に1期生の蒼神そうじんフーラちゃんは、ぜひ天海さんにお会いしたいと強く希望してまして。

 ――――――――――――――――――――



「えっ、蒼神フーラちゃん!?」


 フーラちゃんと言えば、きららアカデミーの中でも1位2位を争う大人気Dtuberだよね!?


 主に攻略動画を配信していて、中でも格上のボスモンスターを耐久で攻略するシリーズはどれも100万再生を突破しているよ。


 もちろん私もフーラちゃんの耐久配信は見たことがあるよ。


 どんなに強い相手でも絶対に勝つ方法はある。

 そう言って格上に挑んでいく姿はすごく格好良いよね。


 毒、麻痺、火傷、睡眠、防御力上昇、回避、回復……。あらゆる手段を使って、長丁場のときは50時間以上もぶっ通しで配信するんだから、本当にすごいよ。


 そんな人が私に会いたがってくれてるだなんて、断る理由はないよね。



 ――――――――――――――――――――

 モナカ

 <歓迎会のご連絡ありがとうございます。ぜひ出席したいと思います。お時間と場所は決まっていますか?


 田部

 <時間は17時、場所はまだ未定です。良さげな場所を見つけ次第ご連絡しますね!


 モナカ

 <分かりました。連絡待ってます!

 ――――――――――――――――――――


 

「ねぇねぇライムス、すごいことになっちゃったよ。今度、きららアカデミーの皆が歓迎会を開いてくれるんだって!」

『ぷゆー?』

「ほら、この動画の子。蒼神フーラちゃんとも会えるんだよ!」

『ぴきゅきゅっ!!』

「そうだね、楽しみだねぇ」


 蒼神フーラちゃんだけじゃない。

 他の子も私とライムスを歓迎してくれるんだ。

 そう思うと、三日後が待ち遠しくてウズウズしちゃうよ。


「ねぇライムス。ちょっと時間あるし、久しぶりにダンジョン配信みよっか。もちろんフーラちゃんの耐久配信だよ!」

『ぴきゅいーっ!!」


 フーラちゃんが名前を轟かせたのは、ゴブリン・キングの討伐動画だよ。


 当時のフーラちゃんはLv29。

 対するゴブリン・キングはBランクモンスター。

 討伐推奨レベルは50以上だよ。


 私は【上級モンスター狩り講座part1】の文字をタップして、動画を再生した。


#


「はーいみんな、おはよー! 今日は新しい企画【上級モンスター狩り講座】を始めていくよ~。探索者なら一度はこう思ったことない? 格上のモンスターを倒せれば楽にレベルも上がるしお金も稼げるのになぁ~って。今回はそんなワガママな願い、叶えちゃいます! まず用意するものですが、対モンスター用の毒薬、痺れ薬、催涙ガス、音響閃光弾等を用意します。これらはダンジョン・ショップに行けば買えるよ!」


 人によっては害悪戦法なんて呼ぶ人もいるけれど、これも立派な攻略方法だよね。


 それにフーラちゃんは、この戦法を実行するために三日三晩寝ないなんてことも平気でやってのけちゃう。


 どんな状況になっても決してモンスターから目を離さない胆力が凄いんだよね。


「私には耐久配信なんて絶対に無理だよ。いくら魔法で綺麗になれるとはいえ、1日でもシャワーを浴びないなんて考えられないし。ていうか私、魔法の使い方なんて分からないし」


 動画を眺めること2時間とちょっと。

 私はふと、あることを思い出した。


「そういえば……。ねぇライムス。初めてダンジョンに潜ったときのことって覚えてる?」

『ぴきゅっ!』

「そうそう。あの川辺近くのホールね。あのときゴブリン・リーダーを食べさせたけど、そのときのドロップアイテムってまだ吐き出してなかったよね?」

『ぷゆいっ!』


 私の問いかけに応じると、ライムスはその場でぷるぷると揺れ始めた。それからちょっとして、ぺいっ、とアイテムを吐き出したよ。


『ぷゆゆ!』

「あ、やっぱり残ってたんだね。――それにしても、他のモンスターの核と比べるとちょっと大きい気がするね。ねぇライムス、お散歩がてらダンジョン・ショップまで行かない?」

『ぴきゅーーっ!』

「よし。そうと決まったら早速お出かけだね!」


#


 ――探索者の皆さん、こんにちは。アイテムの査定を開始します。査定したいアイテムを、台の上に置いてください。


 私はリュックサックの中からゴブリン・リーダーの腰巻とゴブリン・リーダーの核を取り出した。


 二つのアイテムを台の上に置くと、例のごとく赤い線が右から左に流れていったよ。


 そして機械音声がドロップ品の内訳を読み上げて――。


 ――ゴブリン・リーダーの腰巻が一つ、ゴブリン・リーダーの核(特)が一つ。併せて200万50円になります。


「…………へ?」


 200万50円。

 

 さらっと聞こえたその言葉に、私は言葉を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る