第49話 グッズの話

「ふふ、そりゃ驚きますよね。第一報を聞かされた時は私も驚きましたよ。なんでも、ノルマ達成に加え、D・Dランキングデイリー1位とツイタートレンド1位が効いてるみたいですね」


 そう言って、田部さんは嬉しそうに笑った。


「やりましたね天海さん。今回のデビュー初配信は、誰がどう見ても大成功ですよ!」


#


 翌日。

 広報担当の内山さんという人が家を訪ねてきたよ。


 昨晩はメールだけのやり取りで、私は打ち合わせ場所に田部さんと使った喫茶店を提案したんだけど、内山さんは「ライムスくんに一目会いたい」と言っていた。


 それで、私の家に来てもらうことになったよ。


 ちなみになんだけど、事務所のほうでは私とライムスが暮らせる新しい家を手配中なんだって。


 というのも、岡田さんが私の勤務先をばら撒いちゃったのが原因らしくて……。


 会社の住所を元に家の住所まで特定されちゃうかもしれないから、こういう対応になったいたいだね。


 サニーライトさんが保有する寮への仮住まいも勧められたけど、その件については答えを保留中。


 寮生活っていうのがどんな感じか、イマイチ想像できなくてね……。


 内山さんはショートカットの外跳ねヘアで、丸眼鏡を掛けていたよ。衣服は上下ともに黒のスーツ。


 ぴしっとした着こなし、微動だにしない表情、抑揚のない声。


 同僚にもいたけど、こういう人は仕事のために感情を殺すタイプが多いイメージだね。




「んキャワいぃ~~~~~ッッ♡♡♡」


 前言撤回だよ。

 感情を殺すタイプどころか180度逆だったよ。


 内山さんはライムスの姿を見るなり、


「失礼します」


 そう言ってから、魔法を発動したよ。

 

 説明によると、普段は防御力を上げるために使う魔法みたい。


 でも、防音としての効果もあるみたいで。


「んにゅう~~~~、すーはーすーはー。うう、ううぅ……。私、最中さんのことが羨ましいです、ぐすん」

「えぇ……」


 どう反応したものかと迷っている間にも、内山さんはライムスのことを揉みくちゃにしていた。


 ライムスとしてはマッサージを受けてる感覚なのか、気持ち良さそうに目を細めていたよ。


『ぷゆーー』

「ああ~ん、鳴き声も天使ぃ」

「あの、内山さん?」

「し、しまった! すみません、ライムスきゅんが可愛すぎてつい暴走してしまいました」


 ライムスが可愛すぎて暴走?

 うーん……。

 そういうことなら納得だよ。

 だってライムスの可愛さは世界一だからねっ!


「ふー……。落ち着いたところで、さっそく仕事の話に入りましょうか。まずはこのパンフレットをご覧ください」


 そうして手渡された1枚のパンフレット。

 そこには様々な物品の名前がずらりと並んでいたよ。


 例えばティッシュ、マグカップ、スマホカバー、他にはランドセルとか筆箱とかストラップとか、ぱっと見でも50種類以上は羅列されているように見える。


「これは?」

「今後グッズとして展開できそうなものを思いつく限り記載しました。カウントダウンに使用したイラストはステッカーやコースター、シールとして展開する予定ですが、それはあくまでも先駆けにすぎません。ゆくゆくは――そうですね、1/7スケールのフィギュアなんて出せたら最高ですね」

「ライムスのフィギュア。フィギュアかぁ。ふへへ、そうなったら本当に最高ですね」

「とはいえ、フィギュアというのは単価が高いですからね。もちろんプライズ品であればその限りではないですが、どうせ出すならスケールフィギュアを出したいところです。となるとまずは手軽な商品を売って実績を作っていく必要があるでしょう。モナカ&ライムスなら売れる! 上の人間にそう思ってもらえれば夢は実現できますよ」

「なるほど……」


 プライズ品とかスケールとか詳しいことはよく分からないけど、とにかく頑張るしかないってことだね?


「まずは手頃なポケットティッシュやハンカチ等から始めて、どれくらい売れるかを見てみましょう。それとキャラクターライセンスについてですが――」

「キャラクターライセンス?」

「えぇ。キャラクターを商品にしたい場合、相応の契約を結ばなければなりませんからね。契約書が完成しましたらまた連絡するので、両者納得のいくまで話し合いをしましょう。とはいえ相場は5%前後なので、そんな拗れることは無いと思いますけどね」


 へぇ~。

 グッズを展開するのにもいろいろな手間がかかるんだね。


「ところで内山さん」

「はい、なんでしょう?」

「えーと、そろそろライムスを解放してもらえませんか?」

「うっっ。そ、そうですね。名残惜しいですが、他にも仕事が詰まってますし。そろそろ帰らねば……。それにしてもライムスくんはいい子ですね。初対面の人に対してもナデナデさせてくれるだなんて」

「ふふ、ライムスは人間のことが好きですからね。ライムス、こっちおいで?」

『ぷゆー!』


 ライムスがぴょんっと跳ねてこちらへやって来た。


 内山さんにナデナデしてもらっていたおかげか、いつもよりちょっとだけプルプル感が増している気がするよ。


 こんなに可愛いライムスがグッズになるだなんて、これからが楽しみで仕方ないね。


 ステッカーにシールにコースター。

 たくさん売れてくれると嬉しいな。

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