第43話 デビューの計画
「それじゃ、もうそろそろ行くね」
「モナちゃん、気を付けて帰るんだぞ」
「最中もライムスも元気でね。またいつでも好きな時に帰って来なさいな」
翌朝、私はお父さんとお母さんに見送られながら帰路に就いた。
家に戻ってきてからは、15時まで暇だったので、久しぶりにライムスと一緒にダンジョン配信を見ていたよ。
時たま映るゴミはどつしても気になっちゃうけど、やっぱりダンジョン配信は面白いね!
そんなふうに楽しく過ごしていると、時間はあっという間に過ぎていった。
「もうこんな時間か。そろそろ出なくちゃね。ライムス、今日もお利口さんにしてるんだよ?」
『ぴきゅっ!!』
「よーし、ライムスは偉いね!」
偉いライムスにはナデナデのご褒美だよ。
帰ってきたらもっともっとナデナデしてあげるから、お留守番頑張ってね!
#
「天海さん、ここですここ。いや~、こうしてまたお会いできて嬉しいですよ」
「あっ、どうも。私も結構悩んだんですけどね。でも、両親が背中を押してくれまして」
「そうですかそうですか。さぞかし難しい選択だったでしょうに、よくぞ決断してくれました! 天海さんの気持ちに応えられるよう、我々も全力でバックアップさせていただきますね! ちなみになんですが、契約書で気になった部分とかありましたか?」
「えっと、一つだけ。広告収入の分配に関してなんですけど……」
契約書には私が4割、事務所が6割と書いてあった。
でもスマホで調べてみたら、こういうのって50%が基本みたいなんだよね。もちろん事務所によっていろいろと違うだろうし、一概には言えないけどさ。
「あー、配分の比率が6:4なのが気になってる感じですか。ま、基本は50%ですし、そりゃそうなりますよね」
あ、やっぱりそうなんだ。
「ウチとしましては、サポートが手厚いという点を上げるしかないんですけどね。例えば撮影用のドローンでしたり、企画に適した装備品の貸与でしたり。それに装備品が破損したとしても、修理費用はこちらが90%負担ですから。悪くないとは思うんですけど」
「なるほど……。ちなみに修理費用の10%なんですが、これって分割で払っていくみたいのもできるんですか?」
「ええ、もちろんですよ。他にも探索者保険の手続きでしたり、ステータスカードの定期更新等、面倒なことは全部ウチのほうで引き受けてます。それと、プライベートで出かけたいって時に車を出したり、買い物の代行や家事の代行、ペットのお世話などもやっていますよ」
「えっ、そんなにやってるんですか!?」
「我々のスタンスとしては、お金を稼ぐっていうのも重要ですが、それと同じくらいDtuberファーストっていうのを大事にしてるんですよ。ストレス無く快適に配信して欲しい……それが事務所の意向なんです。もちろん私個人としましてもその意向に強く賛同していますよ」
「はへぇ~、なるほどぉ。ここまで至れり尽くせりなら、6:4っていうのも納得ですね。というかあまりにも破格すぎますねこれは!」
「でしょう!? そりゃね、もちろんお金って大事ですよ。人によっては世の中金が全てだって言う人もいますからね。でもね、それだけじゃいつか限界が来ますから。お金だけじゃ立ち直れない……そうなった時、お金にものを言わせている事務所はちょっと苦しい思いをするでしょうね。その点ウチは配信者のケアにも重点を置いて、二人三脚、一蓮托生の想いでやってますから。本当は7:3でトントンなくらいですが、ここはね、思いやりの気持ちでカバーしてますよ」
うん、やっぱり田部さんからは凄い情熱を感じるね。
事務所の意向ってのもあるんだろうけど、ここまで親身になってくれるのは安心感があるよ。
「念のため、最後に二人で契約書確認しておきますか? なにか記載漏れなどがあったら困るでしょうし」
「あ、ハイ。分かりました」
田部さんからの提案を受けて、私はもう一度書類を読み返した。
「うん、大丈夫ですね。他に気になる点もないですし」
「それでは、こちらの方にサインと印鑑お願いします。あー、それとこの後のことなんですけどね?」
「この後ですか?」
「はい。さっそくなんですけど、サニーライトのホームページで天海さんのDtuberデビューを発信しようと思いまして」
ええ、思ったより展開が早いね!
ていうか、まだ会社に退職届出してないんですけど!?
私がそのことを伝えると――。
「でしたら、こちらで退職代行を立てておきますか?」
「いえ、それは大丈夫です。嫌な上司はもういないので」
「ふむ。あっ、ではこういうのはどうですか? ウチのホームページのほうでシルエットのイラストを掲載して、同時にカウントダウンを始めるんですよ。それなら大勢の人の気を引けますし、退職届が受理されるまでの時間を無駄にしなくて済むじゃないですか」
わあ……。
こういうアイデアがすぐに出てくるのってすごいなぁ。
「じゃあ、それでお願いします!」
「よーし。俄然やる気が湧いてきましたね。まずは大々的に、かつ華々しいデビューを飾れるよう、全力で頑張りましょう。天海さん、これからよろしくお願いします!!」
そう言うと、田部さんが右手を差し出してきた。
私を見据えるその瞳は燃えるように輝いていて、私まで浮かされそうなくらいだよ。
私は田部さんの手を取ると、90度のお辞儀で応じた。
「私のほうこそ、よろしくお願いしますっ!!」
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