第44話 お掃除系Dtuber・モナカ
翌日、会社にて。
私の退職届を受け取ってくれたのは、岡田さんの上司に当たる今宮さんという女性だった。
あまり喋ったことは無いけれど、見た目は活発なお姉さんって感じだね。
髪型は茶色のミディアムボブで、目はパッチリとした二重。背も高いしスタイルも抜群。正直言って、ちょっと羨ましいなって思うよ。
「いろいろと事情は聞いているわ。そうだ最中さん、せっかくだから有休取っちゃおうよ。世間では有給なんて無いって言う人もいるけど、正直言って辞める会社に気を使う必要なんてないと思うんだよねー。それに最中さん、ウチの岡田のせいで相当大変だったみたいだし。私が気付いてあげられてれば良かったんだけど……。本当にごめんなさい」
「いやいやいや、今宮さんが謝ることじゃないですよ! 悪いのは岡田さんですし、それにこの件はもう終わったことですから」
「そう言ってもらえると助かるわ。……ハイこれ、有給申請書。上は絶対に受理したがらないでしょうけど、そこは私がなんとかするから安心してちょうだい」
「分かりました、ありがとうございます」
有休を取るのってなんか悪いことをしてる気分になっちゃうけど、よくよく考えると当然の権利なんだもんね。
通らなかったら通らなかったで、退職届が受理されるまでの2週間出勤するだけなんだけど。
結果的に、有給申請書は2日後に受理されたよ。
今宮さん、相当に頑張ってくれたんだね。
せっかくの有給ということで、まずはライムスと一緒にお出かけしたよ。
前と同じく川辺で水遊びをしたり、公園で日向ぼっこしたり、ダンジョンでゴミ掃除したり、ダンジョン飯を配信したり。
サプライズでビニールプールを買ってあげた時は、あちこちにビュンビュンと飛び回って、すごく大喜びだった。
ライムスが喜んでくれて、私も嬉しいよ。
翌週からは、田部さんと打ち合わせを重ねていったよ。
「退職届が受理されるのは27日ですか。では、28日の12時ジャストにダンジョン配信をやりましょうか。そこで公式サイトのほうと合わせて同時に発表、話題性を作って、ツイターでトレンド1位に乗せる。同時接続数は……う~ん、目標としては3万といったところでしょうか」
「さっ、3万ですか!? そんなに来てくれるんですかね? 全然想像できないですけど……」
「簡単では無いでしょうが、そこまで非現実的だとも思いません。きららアカデミーにも天海さんにもライムスくんにもネームバリューがありますからね。カウントダウンは25日あたりから始めましょうか。それと、ここからが一番大事なことなんですが――」
田部さんは一呼吸おいてから、より一層真剣な面持ちになって、私のことを見据えた。あまりにも真に迫った表情だから、なんだか緊張してきちゃうよ……。
「天海さんは、どういう系統のDtuberになりたいですか?」
問われて、私はハッと息を呑んだ。
そう言えば、どんなDtuberになりたいかなんて考えてもいなかったよ。
「圧倒的な戦闘力でモンスターを薙ぎ倒していく攻略系配信、かわいいモンスターやダンジョン飯で癒しを提供する非攻略配信……。最中さんの場合は後者でしょうが、非攻略配信にも様々なジャンルがありますからね。なので、こんなDtuberになりたいという指針……一本の芯は持っておいた方がいいですよ。でないと、あっち行ったりこっち行ったりとフラフラになって、ファンが離れていく原因になってしまいますから」
一本の芯か。
それならもう、私の中にあるよね。
アマカケの配信に映り込んだゴミの数々。
あのゴミの山を見た時、私は強いショックを受けた。
あの配信が無かったら、私は探索者になることは無かったと思うよ。
「私は、お掃除屋さんになりたいです! 私の配信を見てくれていたなら知っていると思いますが、私とライムスはダンジョンに捨てられたゴミを掃除するために探索者になったんです」
「なるほど。つまり、「一人でも多くの人にゴミを持ち帰ってもらいたい」。それが配信のコンセプトになるわけですね?」
「はい!」
「分かりました。ふむふむ、これは中々にいいかもしれませんね。非攻略配信で癒しを提供しつつ、不法に投棄されたゴミ問題にも触れていく。これなら競合相手が極端に少なくなる。よし、ではこの路線で行ってみましょうか!」
#
そしてカウントダウン開始前日。
5月24日。
田部さんから一通のメールが送られてきたよ。
見てみると、そこには一つのスクショが貼られていた。
それは私とライムスの可愛らしいイラスト。
私がライムスを抱きかかえていて、ライムスは嬉しそうにニコニコ笑っている。
そして私たちの背後には、トゥーン調の掃除機のイラストが添えられていたよ。
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田部
<掃除機のイラストは天海さんとライムスくんを象徴するトレードマークにしたいのですが、いかがでしょうか?
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「そっか。お掃除と聞いて何を思い浮かべるかって言われたら、掃除機を思い浮かべる人が多いもんね」
――――――――――――――――――――
モナカ
<とても可愛らしいイラストありがとうございます! このイラストすごく気に入りました。ぜひアイコンにしたいです!!
田部
<お眼鏡に叶ったようで何よりです。では、このイラストを黒塗りしたものを使用して、明日の12時からカウントダウンを開始します。少し緊張するかもしれませんが、良い結果を得られるよう、お互いに頑張りましょう!!
モナカ
<はい、よろしくおねがいします!!
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