閑話② ライムスと不思議な猫ちゃん①(ライムス視点)

「それじゃ行ってくるからね。いい子にしてるんだよ、ライムス!」

『きゅぴぃっ!!』




 いつものようにモナちゃんを見送ったその日。

 ぼくは不思議な猫ちゃんと出会うことになる。


#


 ぼくの名前はライムス。

 天海ライムスだよ。


 ぼくの仕事は主に3つ。


 毎朝モナちゃんを起こしてあげること。

 モナちゃんと一緒に朝ごはんを食べること。

 そして一番大事なのが、モナちゃんに大好きな気持ちを伝えること。


 ぼくはスライムでモナちゃんは人間。

 種族も言葉も違うから、気持ちを伝えるときは行動で示さなくちゃいけないんだ。


 そうは言ってもぼくとモナちゃんの仲だから、今となっては以心伝心みたいなものだけどね。


 今日もモナちゃんを起こしてあげて、一緒にご飯を食べて、見送りをしてあげたよ。あとは帰ってくるのを待つだけだね。


『ぷゆー……』


 さて、まずはいつものアレを楽しもう。


 モナちゃんが仕事に行ったあとは、いつも真っ先に台所にやって来るよ。


『きゅっ!』


 この銀色のレバーを上に上げると水が出てくるんだよね。


 うんしょっと。


 体を上手に使ってレバーを上げると、シャワワ~~と水が出てきたよ。この水を浴びると、すごく気持ち良いんだよねぇ。


『くゅ~』


 満足したら水を止めて、ふにぃ~~と全身の力を抜くよ。そうすると水が体に溶け込んでくるんだ。


 モナちゃんはシャワーの後は体を拭いてるけど、ぼくは体を拭かなくていいから、そういうところは楽だね。


 水浴びの後は、ぽよんぽよんごっこをするよ。


 居間にあるソファは柔らかくて弾力がある。

 だからぽよんぽよんと楽しくジャンプができるんだ。


『きゅ~、きゅるんっ、きゅ~、きゅるんっ♪』


 モナちゃんがいないときは一人ぼっちになっちゃうけど、このお家には楽しいことがいっぱいだから、全然飽きないんだよ。


 次は日向ぼっこだね。


『ぷゆっ!』


 ソファから降りて、窓の前に移動するよ。

 この位置にいると太陽の陽が入ってきて、ぽかぽか暖かいんだ。


 太陽の陽を浴びて窓の外を眺めていると、やがて一匹の猫ちゃんがやってきたよ。


『きゅう?』

『にゃぁ~~ん』


 黒くて細くてモフモフしてるかわいい猫ちゃんだね。


 でも、この辺ではあまり見かけないような?

 もしかして新しく越してきたのかな?


『きゅいきゅいっ!』


 ぼくなりに頑張って挨拶をしてみた。

 でも返ってきたのは、ただの鳴き声だったよ。


『にゃあん』

『ぴきゅー?』

『……にゃん?』


 猫ちゃんは首を傾げると、その場でぺたんと座り込んで、ぼくのことをじーっと見つめてきたよ。


 ふふっ、そんなにぼくのことが気になるのかな?

 

 そんな風に思っていると……。


『お前、スライムにしては強いな』


 えっ!?

 今、なんか声が聞こえたんだけど??

 ひょっとしてこの猫ちゃんが喋ったの?

 でも猫ちゃんって喋れないはずじゃ……。


『何を驚いている。小僧だってある程度は人間の言葉を理解しているだろうに。――いや、お前が理解しているのは言葉に乗せられた感情か? フン。まぁ、どちらでもよいことだがな。そんなことより小僧、ちょっと散歩でもしないか?」


 え、え、ええええ~~~っ!?!??

 やっぱりそうだよ、猫ちゃんが喋ってる!!

 

 うわ~、世の中にはこんなにすごい猫ちゃんもいるんだねえ。


 ぼくみたいなモンスターだと、レベルが高ければ喋れるのもいるんだけど。特にSランクとかドラゴン族のモンスターとかね。


 でも猫ちゃんが喋るなんて驚いたよ。


『きゅーっ!』

『ん? ぼくの言葉が分かるのかって? そら分かるに決まってるだろう。現にこうやって波長を合わせているのだからな。で、どうだ。私と散歩する気はあるか? もちろんあの女子おなごが戻ってくる前には帰してやる」


 あの女子ってモナちゃんのことだよね?

 この猫ちゃん、モナちゃんのことも知ってるの?

 もしかしてぼくの心を覗き見したのかな?


『あー、すまない。覗くつもりは無かったのだが、うっかりしてたよ』


 そう言うと、猫ちゃんの目がすー……と暗くなっていった。


『これでスキルはオフになった。いやはや、オートスキルというのはどうにも面倒でな。意識しないとオフにできぬ故……そういえばあの女子もオートスキルを持っていたな? ま、あの女子の場合は常時発動しているほうが都合が良いのだろうが。――して、どうだ小僧? 私の暇潰しに付き合う気はあるのか?』


 うぅ、そりゃあぼくだってお散歩に行きたいけどさ。


 でも、モナちゃんに黙って家を出るだなんて、ちょっと申し訳ないよ。


『その様子だと黙って家を出るのが忍びないみたいだな? なぁに安心しろ。私の手に掛かれば周囲に結界を張ることも容易い。怪しいヤツがいたら即座に追い払ってやるさ』


 そ、そういうことなら。

 ちょっとくらいなら、お散歩に行っても大丈夫だよね?


 モナちゃんごめん!

 お家を空けるのはちょっと不安だけど、すぐに帰ってくるから許してね!


『ぴきゅきゅいっ!』

『おっ、小僧ならそう言ってくれると思っていたぞ!』

『ぴぃっ!』


 ぼくが返事をすると、猫ちゃんは軽く右手を振って――。


 ガラガラガラ。


 今度は勝手に窓が開いちゃったよ!

 この猫ちゃん、なんでも出来てすごいねぇ。


『それ、行くぞ小僧』

『ぴきゅうっ!』

『あっ、そうだ。こいつはお近付きの印ってヤツだ。受け取れ』


 猫ちゃんがもう一度右手を振る。

 すると今度はぼくの体を青白い光が包み込んで。


『ほら、何かしゃべってみろ』

『え? モナちゃんおはよー。って、わわわっ!? すごい、ぼくも喋れたよ!?』

『お前の波長を私のほうにリンクさせたんだ。これで私と一緒のときだけは言葉を喋れるようになるぞ。周りからはぴーぴー鳴いてるだけにしか聞こえんがな』

『へえ~。やっぱりキミってすごい猫ちゃんなんだねっ!』


#


 この日を境に、ぼくと猫ちゃんの奇妙な関係が始まった。

 

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